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幽霊図書館3


 師匠からの依頼なんて珍しい……いや、初めてだわ。

 私は少し身を乗り出すようにして彼女に聞いた。


「それは商人の私に、ですか?」

「えぇ、見知らぬ人間に依頼するなんてつまらないじゃない。なによりアミュは発想がユニークだし大好きなんだもん。か弱くてはかなげでカワイイ幽霊少女のお願い聞いてくれるでしょ?」


 彼女が有能なことは承知ゆえ華奢きゃしゃだとは思えるが、儚げな少女は無理がある気がする、あと答えになってない気がする。

 嫌な予感はするけれど、ここは依頼とやらの内容を話していただくとしよう。


「【神の眼】ってアミュは知ってる?」

「いいえ。存じ上げませんけど、なんです?」


 モノかしら? それとも読物? さすがに本物の神様の眼というわけではないだろう。


「神の眼はね閲覧禁止の本棚にあった本のタイトルなんだけど、先日誰かに盗まれちゃったのよ」

「――――えっ! 盗まれたんですか、この“図書館”で!?」


 師匠は片手を頬に当てながら、何故か少し余裕のある素振りで頷いた。

 その表情が実に可愛らしくて緊張感がない。

 しかし、にわかに信じがたい話だわ。

 この幽霊図書館では本が増える。文字通り本が“増えてしまう”のだ。

 世の中にどのような形であれ生み出された本は、紛失したり燃やされたりして死んでしまっても全て復元して勝手に揃い、この図書館の本棚に仕舞われる仕組みになっている。

 貸出しできない館から持ち出されるなんてことはありえないことだと私は思っていた。

 例え消えても普通は必ず戻ってくるはず。

 驚きを隠せないでいる私をよそに、師匠は話を続ける。


「本の内容は神々が悪魔の心臓とか、とても苦労して集めるような材料で造り出したとされた【神器ゲーテナ】の設計図を兼ねている書物でね。私って厄介事は好きだけど面倒な事は嫌いな性格だから、知りたいのはその愚か者が盗み出した手口だけなの」


 悠長に嬉々として語る師匠に私はため息をついた。取り返さなくていいのだろうか?

 この図書館から本を盗み出せるなんて、無知な咎人とがにんには無理だわ。

 私が以前、様々な知識を得るため図書館に居座っていた頃に師匠から聞いた話だと。いくつもの魔術結界が張られている閲覧禁止の本は、普通の人間なら三行ほど読むだけで泣きながら吐き出してしまうくらいに複雑で残酷な内容らしい。千冊を超えるそれらを私は一冊も読んだことがない。

 とにかく盗み出すなら何らかの代償があったはずだわ。それを調べないと。


「本当に私が調査して大丈夫なんですか?」

「あなただからよアミュ。信頼してなきゃ半年間も図書館を利用させたりしないわ」


 ハイこの話はお仕舞いヨロシクね、と手を一度だけ叩いた後で、師匠は笑みを浮かべながら私に詰め寄って来た。


「……師匠。もしかして私への依頼って二の次だったりします?」


 私は顔を引きつらせながら、師匠がどこからともなく出したソレを拒絶する。


「前から言ってることだけど、アミュは私に対して固いのよ。敬語禁止。私のことは気軽にトルティちゃん、と呼ぶように言ってるでしょ」

「お断りします、そのフリフリの服も着ませんからね!」

「いじわる。相変わらず色気より食い気なの? 女の子なんだから、ほら、じゃあせめて私がブレンドしたこの化粧水を……」


 あぁもう。これだから師匠は尊敬に値してもどこか反りが合わないのよ。

 一言メモ【この前アミュの友達のクロエって子が図書館に来たのだけれど、本は出しっぱなし、散らかして帰って行ったの。許せないわ。フフフ、次に会ったらお仕置きが必要ね】トルティ

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