プロローグ
こうなる前から窮屈さは感じていたのだと思う。
幸せだとか価値観だとかを知るには良い機会である。己の器を見定めようではないか。
私は丘の上から住んでいた家を腕組みしながら見下ろし、大きく深呼吸をしてみせた。
私タリスマン家の次女、アミュレット・タリスマンは、晴れて没落貴族となりました。
「……ソフィア、最後まで付き合ってくれて感謝するわ。これからは私一人で大丈夫だから、あなたは故郷にいる家族の所へ帰ってあげて」
ソフィアは私のレザートランクを足もとに置くと、私に向かって頭を下げる。
ソフィアは唯一私が指名した専属のメイド。今日まではそうだった。
田舎から身体の弱い母親と三人の弟、二人の妹を養うために働き口を探しにやって来た彼女を、私がタリスマン家のメイドとして雇い入れたのである。
もちろん彼女の新しい仕事場が見つかるまでは、両親から私に分けられた隠し財産をソフィアに譲った。そのお金も私は今後手を付けるつもりはない。
これから私が生きていくため、自分で稼いで行くのだから、私がコツコツと貯めていたお小遣いだけでやっていこうではないか。
「私がこれからすることは、父にも母にも姉にも妹にも内緒にしてね。特にスカーレットには知られたくないわ」
「かしこまりましたアミュレットお嬢様。それで、お嬢様はこれからなにをなされるおつもりですか?」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに、私は振り返り、ソフィアに向かって笑顔で答える。
「聞いてソフィア、私。商人になるの!」