踊るダメ妖怪#5
「「「馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!バァーカッ!!」」」
技が効いて戦意喪失したのか?イルマは項垂れたまま動かなくなった。
⬛
「「はへぇ~!?」」
いきなりにして突然、ぬらりひょんと蒼鉄は派手にブッ飛ばされて床に転がっている。
「なぁ~に、すんのよぉう?!」
鼻血を流しながらぬらりひょんが叫んだ。
「うわぁ、いきなりグーで殴ってきたよ!?この人!」
蒼鉄が青くなった右目を押さえながら叫ぶ。
「あのなお前ら?普通のヤツなら“馬鹿!”と言われて怒る事はないだろう。だがな!色々性癖こじらせてる俺らはイッパイ思い当たる事があって!ワザワザいわれると!無性に腹が立つは!く、悔しいやらで…!」
悔し涙を流すイルマは仁王立ちで床に転がる二匹のダメ妖怪を睨み付けた。
「あの、ぬらりひょん様?この技、確かに効いてますが、両手がふさがっている状態は不利なのでは?」
「やっばりそう思う?あ、そうだ!耳栓すればいいんだわ」
ダメダメ妖怪。懲りずに暢気な会話をしていた。そうこうしているうちに、同盟の退魔師達は完全復活したようだ。イルマが言った。
「さあて、どうされたい?」
退魔師およそ100名とダメダメ妖怪二匹だけ、どんなに考えても勝ち目などない。ではどうするか?
「いいかね蒼鉄くん?こういう時は踊るのだ!」
何処からか軽妙にして滑稽な音楽が流れる。マンボの類いだ。
「大変だ!大変だ!技がやぶれちゃった!?大変だ!大変だ!ど・お・しま・しょ!」
アドリブの振り付けで適当に唄い踊るのだと合点した蒼鉄も、ぬらりひょんにあわせて踊るのだった。
「あーしましょ!こーしましょ!色々やってみたけれど!」
同盟の退魔師達は呆気にとられて観ていたが、この場の長たるイルマはというと。
「終わるまで待っててやるから、せいぜい踊ってくれていいよ。御開き前の余興にな?」
ダメダメダメ妖怪は冷や汗タラリ!そろそろ音楽も終わる。どうする?
「「それでぇもぉ~ダメん~ときゃぁ~!鬼院さま!お助けェ!!」」
ダメ妖怪二匹が向かう先は炎をまとった鬼顔の百鬼シンボル前だ。実はこの百鬼マークを窓口に、奥には豪華なホテル並みの個室があったりする。御存じ鬼院の部屋だ。
「なに?鬼院だと!」
誰かが驚愕の声をあげる。それもそのはず、退魔師達の大師匠とも呼ぶべきかのパトリック・ハルマンとも互角に渡り合った大妖怪。百鬼、影の首魁と謂われる超大物だ。今度は退魔師達が冷や汗タラリ。
「おいおい、ここに来て隠しボスかよ?ワクワクするなぁ!」
余裕のイルマは満面に笑みを浮かべる。退魔師達の士気を上げる為のモノでもある。それを受けて総員武器と装備の確認。補助魔法をお互いに掛け合う。流石はプロだ。
「鬼院さま、失礼し…」
ぬらりひょんに促されて、百鬼マークの窓に手を伸ばそうとした蒼鉄の動きが止まった。
「まてよ?ぬらりひょん様。こういうシュチュエーションの場合って、無能な部下として処分される。死亡フラグが立ちまくるパターンじゃないですか?いきなり指先からビームで消し飛ばされるとか?」
「いや、お優しい鬼院様に限ってそんなことはないよ?たぶん」
「ホントかなぁ?ぢゃ!ぬらりひょん様が窓開けて下さいよ!中ボスでしょ」
「ええッ!?儂が…?いやいや中ボスの座は君に譲るよ。うん」
「ボク嫌ですよぉ!」
「いやいやいや、君が開けるのですよ!君が」
「絶体ヤダー!!」
ダメダメダメダメ妖怪。互いに譲り合い、挙げ句に掴み合いするみっともなさ。そして最後はチラリとイルマを観た。“え、俺?”と自分を指差す仕草のイルマ。
「しょうがないなぁ、退いてろ!」
苦笑すると、自慢のハンマーで一撃のもとに百鬼シンボルの窓を破壊し、攻撃に備えて間髪入れずに身を屈めた。暫くして警戒しつつ奥を覗き込む。
「あッるぅれぇ!!?」
イルマにしては珍しく、妙な驚きの声をあげた。
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