踊るダメ妖怪#4
それから十数分後の事だ。穴の奥底でイルマは白目を向いて嘔吐して倒れていた。何が起きたのか?
「て、てめぇ!ナンてもの喰らわせやがル!」
不覚にも失神から目覚めた
彼の次のセリフから何が起きたのか語られる。
「てめぇは、イタチか?スカンクか?ね○み男か何かか?あぁ~クセェ!」
少し離れた場所で“サイテー!!”と言う若い女の声。そして、放屁し難を逃れた蒼鉄は涙、鼻水、涎を流して這いつくばって目指すのは、玉座にも似た無駄に偉そうな椅子に座って、これまた偉そうな軍装に身を包んだ…。
「ぬらりひょん様ぁ~!」
一部始終を見ていたぬらりひょんは足元の蒼鉄を一瞥した。その生暖かい目を目にした蒼鉄は。
「あ、いま。“動けなくなった鬼はイラン!”とか言って変な技で爆殺しょうかなぁ、とか思いませんでした?」
「そ~んなことは!ないよぉ?(バレたか!)」
「ホントかなぁ?」
「それより君、(話題を逸らさねば)修業だと思って黙って見てたけど、幹部見習いナンだから、妖術とか妖力とか使って戦わないの?」
「だって、戦うの苦手なんですもの」
「かあ!よくそれで百鬼の戦軍に入れたね?」
呆れるぬらりひょんを尻目に懐から丸薬を取り出して口に入れると瞬く間に回復した。“ほぉ”と感嘆するぬらりひょん。蒼鉄、こう見えて仙薬の知識が有るらしい。
「では、手本をば見せてしんぜよう」
ゆらり。というか、ぬらりと、ぬめるような妖しいオーラを纏いつつ、一挙手一投足に無駄に無駄の無い妙なモーションを伴ってイルマの前に立ち塞がった。
「不肖の弟子が失礼した。儂は妖怪ぬらりひょんの和楽と云うものだ」
「ナンだよ?てめぇ『知能指数は1300!』とかエキセントリックなこと言いそうなキチガイ将軍様かよ?頭ねじきって宇宙に帰してやるから待ってろ!タコ親爺!」
イルマも穴から躍り出て対峙した。
「あー、小さい頃に観たテレビ人形劇のキャラみたいだぁ!」
童心にかえって、というか頭脳は子供身体は大人なアホガール。ヒョウ柄ガールは無邪気にはしゃいで跳び跳ねると、頭の軽さに反比例して豊かな胸をプリンプリンと揺らす。乱戦にも生き残り健在だったようだ。
「誰がババァだって?」
「言うてマセン、言うてマセンって姐サン!再放送じゃないリアルで観たでしょ?ナンて誰も言うてマセン!」
いつの間にやらトラガールと東臼も来ていた。
「てゆうか、御師匠さん。一体で100点ッスよ?100点!不死身で分裂して変身して強くて、あと裸の女に…」
「あのね君。漫画の読みすぎだよ」
弟子(東臼)の、たぶん100%参考にならない助言を聞いて苦笑いするイルマ。
「あ…儂。期待を裏切るようで申し訳ないのだけれど!そんなんじゃないからね?あと、孫もいません!閻魔大王様にも仕えてませんから!」
“ぬらりひょん”という妖怪は種族として存在し、個体差もあるのだろうか?
「まあ、ナンだ。君達の相手を罵詈雑言で威嚇して、気力を削いで圧倒するって言うか、三下のチンピラがやるような下品なナンタラ罵倒短棒術とかいう、未熟かつ低級な技だけど、救いようの無いくらい致命的な欠陥があることに気が付いているかね?あ、馬鹿だから分からないか?」
なんだと!とイルマ達は言いかけ罵倒しようとするが、ぬらりひょんはその先を制した。炸裂する技は!?
「罵倒短棒術、敗れたり!食らえ!『馬耳東風罵倒返し』の術!」
タコ頭を挟むように両手で耳を塞ぐと、腹が倍以上に膨らみ丹田より強力に発声される呪言!それは?
「馬鹿!」
呆気にとられて呆けた顔になるイルマ達だったが、すかさず返そうと試みるのだが!
「馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!バァーカッ!!」
畳み掛けるように大音声で“馬鹿!”を連発。聞いていると頭の芯がズキズキするような怪音が襲う。
「こ、このやろ!うるせぇ!てめぇ!」
さしものイルマも罵倒術が繰り出せない!
「流石、ぬらりひょん様!ぢゃ僕も!」
蒼鉄もぬらりひょんに倣って。
「馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!バァーカッ!!」
ダブルで炸裂だ!
「「「馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!バァーカッ!!」」」
技が効いて戦意喪失したのか?イルマは項垂れたまま動かなくなった。