踊るダメ妖怪#3
「うわーん!あんまりだぁ!」
蒼鉄は駄々っ子のように床を右に左に転がり回り、イルマ必殺の鉄槌は床にクレーターのような穴をただ作るだけだった。
「ちょ!ナニコイツ?」
右に左にゴロゴロと転がりのたうつ蒼鉄を、ハンマーで叩いてやろうとするイルマなのだが、寸前でことごとく避けられる。というよりは、イルマからすると“噛み合わない”と言った方が正しいのだろう。得物(武器)を使うにしろ、身体を用いた闘争が肉体を用いた言語とする肉体言語ならば、会話がまったく成立しない状況なのだ。
「てめぇ!青ひょうたんナマズ!じたばたすんじゃねぇッ!こちとら酔っ払い運転ナンだからよ!」
イルマらは結婚式の宴で酔っ払った勢いのまま、蒼鉄達の秘密基地になだれ込んだのだ。酔っていることもあるが、このような場合“噛み合わない”相手だと往々にして“事故”が起こる。
「死ね死ね、死ね!」
イルマが渾身の力で叩き抉る床の穴は徐々に深くなり、蒼鉄は遂に転がり落ちた。とどめとばかりに鉄槌を振り下ろす支点・力点・作用点!だがしかし、支点(足場)が崩れた。バランスを崩してダイブした先には、穴の底から立ち上がった蒼鉄の頭。まあ、なんと間の悪い。
「グフゥ!」
哀れ鉄槌のイルマは穴の底でくの字になって見悶えた。
「頭イッタァ!あの、お怪我は?」
頭を抱えた蒼鉄は呑気にイルマへ話し掛けた。
「ヤダ!ちょっと、使い物になるんでしょうね?棒だか玉だか知らないけど」
そう言って心配そうに見ているトラガール。鉄槌を手離してしまったイルマは同じ穴の蒼鉄に掴みかかる。
「こ、この石頭!」
「ナニするんですか?ヤメテェ!」
イルマに腕力でヒネリ殺されそうになり蒼鉄は悲鳴をあげる。
「ブッチャー!」
「うぐぇ!」
昭和を賑わした悪役プロレスラーの名前を叫んで蒼鉄に放たれる“地獄突き”さらに。
「エルボー!」
「あがっ!」
イルマの右腕肘が蒼鉄の脳天に直撃。脳震盪を起こしてふらついたところを足をとられて引きずり倒され、極められたは!
「よ~んのぉ~じぃ~っ!がぁ~ためぇ~っ!!」
「のお“~ッ!!」
同じくプロレス技の“四の字固め”だった!対妖怪、化物、悪党のスペシャリストとはいえ、イルマは人間。その人間が鬼をプロレス技で追い詰める。蒼鉄が特別弱いからなのか?滑稽な絵面だ。
「ルリ(瑠璃)さまぁ~!だずげでぇ~!!」
ふと、力を弛めて尋ねるイルマ。
「誰それ?」
「うん、僕の奥さん」
すかさずサイフ(虎がら)を取り出して、何処か自慢気に写真をイルマに見せる蒼鉄。
「え?この鬼女アンタの嫁さん?」
「うん、美人(鬼?)でしょ?」
「そうかぁ!大事にしろよ?」
愛妻の写真入りサイフをしまう時間を与えてから、イルマは再び技を極めた。
「今時、サイフに写真なんて古風だぁ、ねッ?」
「あだだだだッ!」
⬛
それから十数分後の事だ。穴の奥底でイルマは白目を向いて嘔吐して倒れていた。何が起きたのか?