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報復ZOさん寄稿作品集  作者: 報復ZO
5/11

踊るダメ妖怪#1

とある山奥の廃病院。その地下深くに百鬼の秘密基地があった。薄暗い照明に、昭和じみた特撮番組でお馴染みの、手術台やら電気椅子みたいな怪しい機械が無造作に並ぶ。


「コォーノ、らばーごりらきんぐワァ、旧らばーごりらのサンバイの…ゲホゴホ!」


白衣を着込んだ青鬼が狂気的な表情をしながら、甲高い声で喋り、むせて咳き込む。


「コォーノ…」


玉座にも似た偉そうな椅子から、これまた偉そうな軍装をまとった小男が青鬼に声をかけた。


「蒼鉄くん。あのね?普通にしゃべっていいから」


ぬらりひょんだ。


「しかしですね。やはり雰囲気って大事でしょヌラーリン大佐?」


「ヌラーリンって誰?ワシなの?それに君、顔のバッテン傷ってナニ?」


「ああ、これ実はグミで出来ているのですよ。マッドサイエンティスト感を演出しました」


「コスプレなのね?」


時は世界内戦後、世界が混乱し混沌としていた時代、青鬼の蒼鉄は老幹部ぬらりひょんの部下として、鬼院主導の百鬼部隊に技術士官として所属していた。まあ、要するに○○大佐と○○博士みたいな感じで怪人もとい妖改人(妖怪改造人間)を製作して悪の秘密結社していたわけなのだが。


「ぬらりさん、蒼鉄くん」


百鬼のシンボルから声がする。悪の秘密結社にありがちな、姿を見せない首領が声だけというか。まあ、そのドク○ベエとか?


「これは、これは、鬼院様!戦果報告だ蒼鉄くん」


愛想笑いで揉み手する、ぬらりひょんに指示されて戦果報告する蒼鉄。


「はい、妖改人“笑撃のラバーゴリラ”同盟への離反作戦、変態には変態をというコンセプトで一定の戦果は納めましたが…」


「やられたのね?」


「はい」


「次にスパイの通称“エッジ”は潜伏中でしたが、独断により一般人数名を道連れに自害」


「ニュースで見ましたわ」


「それから」


「もういいです!」


炎をまとった鬼顔の百鬼シンボルが窓のように開いた。そこから透けたネグリジェ姿の上半身を晒す妖艶な美女。鬼院だ。実は豪華なホテル並みの個室があって本当に窓だったりする。


「まったく、貴方たちはどうしてそんなにダメダメなのでしょう?」


鬼院は微笑みながらも怒りで身を震わせ、豊満な胸も揺れている。美女が怒るとスッゴク恐いのは常識だ。


「また、そのような眩しいお姿で…」


蒼鉄は言いかけたが、鬼院に微笑みを向けられた。勿論、目は笑ってない。


「ワンちゃんや猫さんに裸を見られても、恥ずかしがる人間はいないでしょ?」


つまり、鬼院にとって犬猫レベルなのだ彼らは。


「一応、コネがあるから貴方たちを預かっているけれど!もしも、失敗が続くようなら…」


ぬらりひょんと蒼鉄は土下座して許しを願う。


「お怒りはごもっとも!次こそは、このぬらりと蒼鉄が良い戦果をご報告致します!」


鬼院は無言で窓を閉めた。

しばらくして…。


「まったく、敵の前では派手なドレス姿なのに下っぱにはラフ過ぎる格好なんだから」


と蒼鉄。


「まあ、あの方(鬼院)をどうこう出来る奴など身内では誰もおらんからな?」


とぬらりひょん。ところで、とぬらりひょんは蒼鉄に尋ねた。


「脳ダウンロード方式の妖改人に切り替えるとか言ってたよね君?」


「ええ、せっかく改造したのに逃げられたり裏切られたりしたらバカみたいですし」


「脳改造はダメなの?」


「ぬらりひょん様、それがですね?脳改造するとバカになるんですよ!だから頭が良い人間を改造する事になるんですよね?シ○ッカーなんてIQ300ないと怪人にしないそうですよ?」


「それであのレベルかね?不毛だねぇ…。で、今回は大丈夫なんだろうね?」


「大丈夫です。このラバーキングゴリラは先代の3倍の能力を持ち!身体を覆う特殊樹脂は対物ライフル弾をも通しません!」


「いや、戦闘力はともかく肝心な脳は?」


「脳ミソ筋肉ですが、良い素材を拾って来ました」


蒼鉄はそういうと戦闘員の付喪神”化け案山子”に命じて、搬送タンカに拘束され連れて来られたのは、いかにもな体育会系の大学生。東臼晴彦(とうすはるひこ)君だ。


「ヤメロ~百鬼!ぶぅ~ッとばすゾぉ!」


そう叫ぶが、電気椅子に似た意識転送装置に無理やり座らされる。筋肉マッチョな彼だが所詮ただの人間、下級妖怪の化け案山子でも抵抗は不可能だ。


「のほほほ、ほ。これは活きの良い素材。頭は悪そうだが、今回の妖改人のボディにぴったりじゃ~あーりませんか?」


それを聞いた東臼は喚いた。


「バカヤロー!フザケンナ!誰がゴリラになるか!!」


蒼鉄は東臼に言った。


「月並みなセリフだけれども!“君の意志など関係ない”この意識転送装置を用いて、君の頭の中身をラバーキングゴリラの頭脳にダウンロードする」


身悶えながら抵抗を続ける

東臼。話し続ける蒼鉄。


「けど安心したまえ、元の体は大事に保存してあげる。ただし、我々を裏切ったりしたら百鬼の国のお肉屋さんに“約ネバ(出荷)”されます。ふっふっふ。リトル・ベイベー、おやすみよぉ、今日からはぁ、ゴリラさん♪」


次はぬらりひょんだ。


「百鬼も人手不足でね?だからといって誰でもいいからと改造してもすぐ裏切られたりするし、それを防ぐために家族とか人質にするとなると、ただでさえ人手が少ないのに、ムダな人員を投入せねばならん。そこでだ!我々は本人の体を人質に出来るダウンロード方式にしたのだよ?」


とぬらりひょんは得意げに説明した。


「バカヤロー!フザケンナ!誰がゴリラになるか!!ヤメロ~百鬼!ぶぅ~ッとばすゾぉ!」


「だぁから、君の意志など関係ない!」


と、ぬらりひょん。


「君の意志など関係ない♪意志など関係ない♪」


と、蒼鉄。


「「関係ないったら♪関係ない♪ハイッ!百鬼(ナリキ)ッピー♪」」


と拘束されて喚き散らす東臼の周りを回り、歌い踊るダメ妖怪のぬらりひょんと蒼鉄。


「それに、アレだよ。人間のしがらみから自由になって、やりたい放題だよ?何をやらかしても、我々に“無理やり脅されてやりました”で大丈夫だ!たぶん…」


アイヒマン効果とかミルグラム実験を行った権威者の如く、惑わそうとする老獪な、ぬらりひょん。そして…。


「…わかった。改造されてやるよ」


え?という驚きのぬらりひょんと蒼鉄。


「ただし、明後日まで待って下さい。好きな女に告りたいんス」


東臼の思わぬ告白だ。


「そんな君の都合など…」


ぬらりひょんは言いかけたが蒼鉄が制した。


「待って下さい!ぬらりひょん様!」


「なによ、なんなの?蒼鉄くん」


「彼にチャンスを与えて下さい!」


「えーッ!ってマジ?」


「マジです。心残りがある限り、彼がラバーキングゴリラの能力を完全に引き出すなど不可能です。なので、是非とも彼にチャンスをお願いします!」


ぬらりひょんは熟考した後で言った。


「まあ、いいけど…?」


意外といいヤツラ?


「アザース!!!自分、東臼晴彦は必ず彼女をゲットして戻って来ます」


東臼は体育会系なノリで礼を言うと地下秘密基地を出て行った。


「彼女も連れて戻って来るんだよぉ~?」


ぬらりひょんと蒼鉄は爽やかな笑顔と共に手を振って送り出した。炎をまとった鬼顔の百鬼シンボルの、窓が少し開いてそんなマヌケ達に呆れた視線を向けるのは、もう誰だか分かるが鼻から抜けるタメ息は、本人にしか聞こえない。静かに窓は閉じた。




そして三日後。


「コォーノ、モエモエぶたごりらワァ、旧らばーごりらのサンバイの…ゲホゴホ!」


白衣を着込んだ青鬼が狂気的な表情をしながら、甲高い声で喋り、むせて咳き込む。


「コォーノ…」


玉座にも似た偉そうな椅子から、これまた偉そうな軍装をまとった小男が青鬼に声をかけた。


「蒼鉄くん。あのね?普通にしゃべっていいから」


ぬらりひょんだ。


「しかしですね。やはり雰囲気って大事でしょヌラーリン大佐?」


「ヌラーリンって誰?ワシだっけ?それに君、顔のバッテン傷ってグミだっけ?」


「ええ、これ実はグミで出来ているのですよ。マッドサイエンティスト感を演出しました」


「コスプレ好きね?」


時は世界内戦後、世界が混乱し混沌としていた時代、今日も今日とて飽きもせず、マヌケな妖怪の上司と部下は怪人もとい妖改人(妖怪改造人間)を製作して悪の秘密結社していた。


「ぬらりさん、蒼鉄くん」


百鬼のシンボルから声がする。と思ったら鬼院が眠たそうな眼で“眩しすぎる”寝間着の胸元を扇子で扇ぎながら上半身を覗かせていた。


「これは、これは、鬼院様!お目覚めで御座いますか?戦果報告だ蒼鉄くん」


愛想笑いで揉み手する、ぬらりひょん。だが…。


「今日は結構です。(わたくし)昨夜はお仕事で遅かったので、休みます」


パタンと百鬼マークの窓が閉じた。


「ネットで夜遅くまで起きているからですよ?ねぇ、ぬらりひょん様」


と蒼鉄が愚痴を言った後。


「あ、そうそう!」


急に百鬼マークの窓が開いた。鬼院だ。


「秘密基地ゴッコも良いけれど、お遊びはほどほどにね?」


ふたたび、パタンと百鬼マークの窓が閉じた。


「あ~ビックリした!ビックリしたぁ!」


慌てる蒼鉄だった。


「君、余計な言葉は慎みたまえよ!」


ぬらりひょんは蒼鉄に苦言を言った。


「まあ、とにかく。新しい妖改人だ」


「はい、ぬらりひょん様」


シリンダー型のカプセルに緑色の液体が満たされている。培養槽だか調整槽の類いだ。浸されているのは、妖改人のボディ。さて、今回の素体は?


「コミケとかで拾って来ました、自称クリエイターの…まあ、いいや」


例のごとく、蒼鉄はそういうと戦闘員の付喪神”化け案山子”に命じて、搬送タンカに拘束され連れて来られたのは、いかにもな…まあいいや。


「ヤメロ~百鬼!ぶぅ~ッとばすゾぉ!」


そう叫ぶが、電気椅子に似た意識転送装置に無理やり座らされる。無駄な筋肉がまったくない彼だからこそ、下級妖怪の化け案山子でも抵抗は不可能…というか、まあ、いいや。


「あのぉ~、蒼鉄くんねぇ?今回の主旨がワシにはサッパリなんだけれども?」


「ぬらりひょん様、今回は防御に力を入れました。このモエモエブタゴリラはラバーキングゴリラを上回る超展性特殊樹脂を装甲としておりまして、メインバトルタンクの砲弾をも通しません!」


「いや、そうじゃなくて肝心な脳は?まさかコヤツの?」


「そうですよ?」


「ええ!?マジ?」


「マジです。見てください彼のシャツ!マジカル★モエモエ・モエピーのですよ?」


蒼鉄はそう言って指差した。仲間だと思ったのか…。


「え、知ってるの?」


と意識転送装置の方から声がしたが蒼鉄は。


「そりゃ、そんなシャツ見ればナニか分かるよ、書いてあるだろ?このキモヲタ!ところで、あそこ(コミケ)には何に乗って来たの?」


電車と答えた彼にぬらりひょんは驚愕した。


「信じられん!そのカッコウでか?公共の場で!?」


蒼鉄は意識転送装置に肘を置き、キモヲタのふくよかな頬をペチペチと平手で叩きながら言った。


「コヤツに軽蔑の眼差しも嫌悪の視線も無意味!鉄壁の魂の持ち主です」


「うーむ、恐るべし!蒼鉄くん彼は最高の素材じゃ!」


「でしょ!彼の程好く腐った魂はどのような攻撃をも防ぐ事でしょう!」


と、意識転送装置の操作盤に手で触れる蒼鉄だったのだが、そこに珍客が訪れた。


「とぅーす!」


いかにもな体育会系の大学生。東臼晴彦(とうすはるひこ)君だ。


「改造されに来てやったゾ!っと…エイコラちくしょう!」


妙なテンションで顔は赤い。ぬらりひょんは早速と言いかけたが、蒼鉄はそれを制した。


「ぬらりひょん様、その前に彼から聞きたい事があります。東臼君、酒を呑んでいるな?」


東臼は勝手に意識転送装置に座り。


「あ~ゴリラになって、早く暴れてぇ!さっさと改造たのんますわ!」


蒼鉄は意識転送装置の操作盤から離れて東臼に近寄ると。殴って床に転がした。


「殴ったね?」


床に転がった東臼は蒼鉄を恨めしそうに見つめていった。仰天したぬらりひょんは蒼鉄に苦言をいうのだが。


「あのね蒼鉄くん?今の若者はハラスメントに敏感だから暴力はイカンよ?暴力は!」


今度は平手打ちが響いた。


「殴って何故悪いか!」


酔った赤い頬をさらに赤くして東臼を叫ぶ。


「ぶったね!二度もぶった!!親父にもぶたれたことないのに!!!」


ぬらりひょんがおろおろとしているのを知ってか知らずか蒼鉄はまくし立てる。


「それが甘ったれなんだ!殴られもせず一人前になった奴がどこにいるか!!」


大袈裟に両腕を広げて腰を捻るポーズはどこか芝居じみていた。だか、蒼鉄は本気だ。


「いいかよく聞け酔っぱらい?大方彼女にフラれた腹いせに暴れたいのだろうがそうはイカン!そもそもアルコールで脳をマヒさせた状態で意識転送ダウンロードなんて出来るか、このアンピンタン!お前みたいにたかが女にフラれたくらいで自暴自棄になる女々しいヤツなんぞ妖改人になる資格はない!」


黙りこむ東臼。


「諦めるな!たった一度の失敗で…え?もっと多いの?いや、何度フラれてもだ!日々成功を祈れ…バカ違う!いや、結果的にはそうなるかも知れないけど、そういうのはもっと後になってからだ、このバカチンが!とにかくガンバレ!彼女出来るまで戻って来るな!」


蒼鉄は叱咤し東臼を見送った。


「あの~?ボクも彼女に告白したいんだけど…」


と意識転送装置の方から声がしたが蒼鉄は。


「うん、どうせ…」


…の後に“その筋で有名な美少女キャラ”を列挙。嫁嫁といちいち反応するキモヲタに一言。


「そげぶ!」


と言い放ち、オークもとい、モエモエブタゴリラに生臭そうな魂魄をダウンロードするのであった。



そして、1ヶ月以上が過ぎた。


「いやぁ、いっぱい増えましたねぇ」


妖改人(妖怪改造人間)製造も順調に進み、白衣の青鬼蒼鉄は満足そうにして言った。カモフラージュの廃病院、その地下深くの秘密基地はアリの巣のように拡張工事を続け今や文字どおりの大所帯となった。


「しかし、一般人を拉致して意識というか魂を妖改人にダウンロードするアイデアは良かったけれども!自分から来る者がこんなに多くなるとは思わなかったナァ」


「皆、自由になりたかったのじゃよ」


そう答えるのは、玉座にも似た偉そうな椅子から、これまた偉そうな軍装をまとった小男。ぬらりひょんだ。


「現代社会は所謂パノプティコン(一望監獄)なのだ、規律…そうだな“良き市民たれ”という監視の元で“我々は常に視ている”という姿の見えない権力によって調教される社会だ。宗教の神という概念も然り、さらに監視される側の中にも他者にコレを強要する者が出る。まあ、善良な市民もしくは上級市民の類いだな」


「フーコーですか?」


と、フランスの哲学者。ミシェル・フーコーの名を言った。


「左様。彼の『監獄の誕生』からだが、この社会に生きづらいと感じる者共は結局、規格外品なのだ。人間でいる限りそやつらは偽りの自由さえ与えられる事はないのだ」


「人間を辞めて“獣”で得られる自由ですか?」


「左様。家畜の安寧、虚偽の繁栄、それらを作り出した者というよりは、社会の常識やら規律やらに甘んじて服従し、規格外者を理由も分からず理解しようともせず、否定した者共に復讐したいのやも知れぬ。君とてそうでは無いのか?」


ぬらりひょんに問われた蒼鉄は暫し沈黙の後。


「百鬼に栄光あれ、我等棄民に勝利を!」


「勝利の栄光を君達へ!」


良くできた上司と部下。その姿は情感タップリのまるで歴史のひとこまを描いた名画のようだが。


「「なんちゃって!」」


二人とも含み笑いの後に出たセリフがそれだった。何処までが本気か冗談かワカラナイ生き物がぬらりひょんと蒼鉄なのだ。


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