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報復ZOさん寄稿作品集  作者: 報復ZO
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人生を!何を?戦え!

もうイヤだ疲れた…あと何キロこのチャリンコ漕げばよいのやら。私は拾った自転車を田舎道の傍らに置いて、草だらけの河川敷に降りると、大の字に寝転がってため息をついた。いやその…自転車、実は盗んだのだ。少し前まで、とある企業の研究施設に勤めていた一介の学者だった私だが、今は追われる身だ。皮肉な程清々しい田舎の青空を眺めながら、ここ島根まで逃走した経緯を思い出す。



皆原怜太(みなはられふと)

それが親からもらった名だが、親はもういない。私が幼い頃に事故で亡くなったと伯父から聞いているが、父が祖父から受け継いだ遺産を目当てに事故を装い奴(伯父)に謀殺されたと考えている。弟(父)に敵わない無能のクセに、強欲で嫉妬深い奴のやりそうな事だ。だが、忌々しい事に私の育ての親という理由だけで、頭の悪い奴に変わって遺産、祖父の研究データを元に金を作り出す道具にされていたのだ私は。



神秘、魔法の開示。幻想生物、いわゆる妖怪の類いの暴露。ハルマンと名乗る怪しげな紳士、希代の魔術師とも呼ばれる彼がもたらした衝撃の真実は世界を一変させた。しかし、多くの学術に携わる研究者は薄々気がついていたのだ。なんの脈略もなく奇跡的に出される成果、後から取って付けたようなつじつま会わせにしか思えない理論・理屈。何者かによってもたらされ、源は巧妙に秘匿されているのだ。私が受け継いだデータも恐らくそれだ。いや実に、学会や世間を納得させる理屈をひねり出すのは大変だった。そうだ、幼い頃に見せてもらった、研究者だった祖父の古い白黒写真。一緒に写っていた外人の中に噂のハルマンに良く似た人物がいた記憶があるが、まさかな。だとしたらいったい何歳だ?



お陰で私はお払い箱になった。魔法の開示によって、もう科学的には全くのデタラメな成果につじつまを合わせる必要が無くなったからだ。私の仕事とポストは伯父のバカ息子が後がまに就いた。ハルマンなどくそ食らえだ。積年の怨みと怒りで我を失った私は、つい魔が差した。どうやら伯父を呪殺してしまったらしい。どうやら、というのも確証がもてないからだ。学生の頃に当時流行っていたオカルトに興味があった。なかでもラジオニクス、ヒエロニムスマシン装置を作って遊んだ。もちろん擬似科学と承知して信じてはいなかった。ものの、気に入らない学友達を実験台にしたら偶然なのかも知れないが、結構効いた。例えば、写真か…持ち物、髪の毛の類いを装置にかけて“コケろ”と回路の端末に触れて念じると、その通りになって結構ヒいた。噂になって“ある教授”にバレてこっぴどく怒られた。以来、封印していたのだが…。



まさかこんなことになろうとは!奴ら(同盟)に襲撃を受けた。ネットの動画で私刑の様子を観ていたが自分に降りかかるとなると、奴らは本当に恐ろしい存在だと思い知らされた。ヤクザのデイリもかくやの下品な威嚇、鈍器を振り回し、攻撃魔法が飛んできた!奇跡的に住んでいたアパートから脱出して逃げおおせたものの、僅かな現金の入った財布と例のデータの入ったUSB以外は総て置いてきてしまった。それ以外は着の身着のままだ。



完全に社会的抹殺を受けた私は獣となった。少なくとも同盟の連中にとって狩りの獲物に過ぎない。おかしな世の中になったモノだ。旅行者を装い逃走を続けているうちに、永田町で妖怪によるテロがあったと聞き、間髪入れずに島根原発へのテロを知った。親切なマヌケが落とした(位置情報どころか盗難対策もされていない)スマホからの情報で知ったのだ。さらに、百鬼のラゴウとかいう鬼娘の呼び掛けに興味があった。実は人喰い妖怪共のワナで、騙されて喰われだけかも知れないが、どうせ同盟に捕まったら八つ裂きだ。自殺も視野に入れている私には妖怪に成れなくても、同盟の敵である百鬼の妖怪に喰い殺されても本望だとその時は思っていた。



それにしても、百鬼の勢力圏内に入っている筈なのだが、途中“この門をくぐる者、一切の希望を捨てよ”などという粋な文句は求めないけれど、立ち入り禁止の立て札も検問の類いも何もなく、ザルを通る水のように到達できた。多分、厄介者は騙され喰われろと云うことだろう。体のいい棄民だな、クソ官僚共め!それに、放射線は目に見えないので分からないが、危険区域にいることは確かだ。途中民家を見掛けたが避難したのか人の気配はしなかった。早いとこ妖怪にしてもらはねば。



再び盤外のオフィス。


「そんな事が…」


と、盤外。皆原耕造は優秀な生化学者だった。その孫に出逢うとは、何か不思議な縁を盤外は感じた。ハルマンは言っていた。人喰いという忌まわしい因縁を解決するのは妖怪ではなく、人間が妖怪の為に努力する事に意味があるのだと。百鬼に孫の彼が行ったのは残念だった。もしも、八百万だったら…?いや、まてよ。もしや、だからこそなのか?盤外は昼間に白瀬との会談を思い出していた。


「あの方は、僕達より先に上手くやっていた。というのかな?」


怪訝な表情で蒼鉄は盤外を見ていた。それを知ってか知らずか、彼女は合点がいったようだ。同盟から彼が逃げおおせたのは偶然ではないと。ハルマンが逃がしたのだ。


「あの…」


と、蒼鉄。


「いや、失敬。つい考え込んでしまった」


ところで、と盤外は気になっていた事を切り出した。


「君。微かだが五百山の女の気を感じる。もしや…」


寝たの?と言いそうになったが、永田町での実母との事もあり口を濁した。


「もう!勘弁してくださいよ~」


蒼鉄が悲鳴をあげた。


「あら?ポーキーをウチで配布して、知名度をあげたいんでしょ?大変だよね~テロリストが配布するのは」


勿論、最初からそうしてあげるつもりなのだが、いじると面白い、この坊や。


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