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青の騎士団②

 離れているのに分かる圧倒的な魔力。

 普段は完璧に押さえている魔力を撒き散らしながら歩いてくる副団長に、礼をとろうと姿勢を正した者達は目を剥いた。

 

 その腕の中には、日中から噂になっていた黒髪の彼女が横抱きにされていたからだ。

 しかし、彼女の顔は副団長の胸の方を向いており見ることはできない。 

 下心なく、上官を気遣って自分が代わろうと申し出ようとした者もいたが、彼らにも目を向けず歩いていく。

 結局誰も声を掛けることさえできず、その姿はすれ違う多くの団員を密かに落胆させていた。

 

 

 

 

《レイ視点》 

 

「ここ、3階だよ。窓から飛び出してお姫様を救うキャラじゃなかったよね」

 半笑いで内側からドアを開けたフィルは、からかうように言った。

 それを無言で流し、そっとソファに彼女を横たえる。

「医務室に連れていったほうがよかったんじゃない?」

「あそこは男ばかりだ」 

「ここも男しかいないけど」

 フィルの真っ当な突っ込みに一瞬苦い顔をしながらも、用意してくれていたらしい毛布をそっと彼女にかける。

 

 寝かされた後も身動き一つせず、少し疲れた面持ちではあるが、その寝顔は穏やかだ。 

 上流階級の女性のようによく手入れされた艶やかな黒髪はこの国では珍しく、今は閉じられているが一瞬合った瞳も同じ色だと思う。

 かなり質の良い服や靴を身に纏ったその身体はとても華奢で、大人とも子どもとも判別がつかない。

 

 

 門番から知らせを受け、確認のためと見てみた窓越しに目があった瞬間、これまでにない感情が胸に宿った。そして身体が今にも硬いベンチに倒れこみそうな姿に、気づいた時には彼女を腕の中に抱いていた。

 彼女という存在に、自分でもよくわからない強い衝動に駆られたのだ。

 

 

「とりあえず医務室に連絡して診に来てもらおう。半日広場にいたらしいから、厨房にも何か身体にやさしいものを用意してもらって」

 有能な補佐(フィル)が、廊下で覗いていたらしい部下達に次々と指示を飛ばす声で我にかえる。


「彼女のまわりに結界があったって報告があるし、彼女自身から魔力も感じるしね。目が覚めたらあそこにいたことも含めて話を聞いてみよう。それでいい?レイ?」

 

 

 

 

《フィル視点》

 

 あのレイが関心を持った女の子、という程度の認識だった。

 

 しかし、誰でも当たり前に知っているはずのトイレの使い方を知らなかったり(すごく恥ずかしそうに聞いていた)、出されたスープの中身に一々驚いていたり。

 くるくると変わる表情は、考えてることが分かりやすすぎて逆に心配になるほどだ。。

 

 だから、名前すらも答えられない彼女に、何らかの理由で記憶を失っていると結論付けた。容姿や服装からいっても、旅行や留学あるいは結婚のためにうちの国に来ている、ある程度の身分のある異国人だと考えられる。正直迷子の世話はうちの管轄外のため、赤の騎士団に後を委ねるべきだと思ったのだが。

 

 

「ステータスを見せられるか」

 

 そう聞いたレイに内心驚くが、上官であるレイの言葉に異は唱えなかった。

 他人にステータスを見せる行為は本人が嫌がるだろうと思ったのだが、意外とあっさり承諾した。……あの様子だとそこまで深く考えていないのだろうな、きっと。

 

 

 彼女の能力を試すつもりでさせたが、自分に魔力があることすら知らなかったのに、通常早くても数時間かかるはずの魔力のコントロールをあっさり習得し、【ステータス】を開いた。

 

 ステータスは部分的に隠すことはできても、嘘をのせることはできず身分証明にもなる。一般的に貴族であれば必ず家名がのっており、家名のない者には出身のわかる国と町や村の名が自分の名の前につく。しかし彼女『リン』には、そのあるべき情報がなかった。もちろん、意図的に隠されている痕跡もない。

 

 それも非常に気になるが、それを一旦置いておかなければいけないほどに、その【ステータス】は異常だった。

 

 ありえない程の魔力量、SSのついたスキル、さらにはこの騎士団でさえも数人しかいないであろう無限収納持ち。

 これ程の能力を持っているならば、たとえどんな出自であろうとも、もっと早くに存在を知られて国や貴族に保護されていそうである。彼女は当たり前のことを知らないが、その所作は悪くない。どこかの箱入り娘という可能性もあるが……。

 

 

 もはや自分達だけで対処すべき案件ではないと考え、もちろんこのまま彼女を外に放り出すことはせず、騎士団内に泊まることを提案する。

 ……顔に「泊まっていいの?助かった~」って、書いてあるよ。

 ふとレイを見ると、いつもの無表情はどこへやらなんとも柔らかな表情で彼女を見ている。無意識だろうけど、お前も顔に出しすぎだ。

 

 

 客室に案内し、着替えを準備するため待つように言うと「無限収納に入っているみたいなんです。取り出し方教えてください」と言って、またもやあっさりと扱えるようになった。

 

 

 ……明日からなんだか騒がしそうだ。

 カチリと内鍵が掛けられたのを確認すると、過保護な上官(レイ)の指示で更に外からその鍵を魔法で厳重に強化した。そしてレイと今後の彼女のことを話し合うため副団長室へ踵を返した。

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