知りたい!自分のこと
「僕の名前はフィル。青の騎士団の副団長補佐をしています。」
そう言って、甘い声の主改めフィルさんは微笑みながら王子様(推定)に目を流す。
「君の隣に座っているのは副団長のレイモンド」
あら、フィルさんより若そうだけど階級は上なんですね、と王子様(推定)改め副団長さん(確定)を見ると碧の瞳と目が合った。
「レイと呼んでくれ」
おお、初めて声を聞いたよ。低いけど澄んだ良い声。好きな声だな。
言われてみれば二人とも若干襟元の装飾?の種類が違うけど、同じ濃紺の制服のようなものを着ている。
「それで、君の名前を聞いていいかな?」
先に名乗ってくれたからこちらも名乗り返そうとして「私の名前は……」と言いかけたけど、『田中鈴子』が口から出てこない。なぜかわからないけど言えないのだ。
えっ、これ何かの縛りですか?神様!!と思わず天に呼びかけたけど(心の中でね)返事はなく、そんな私の焦る姿に二人は別の解釈をしたらしい。
レイさんとフィルさんが何やら目で会話した後、フィルさんによる本格的な事情聴取が始まった。
「君の家はどこ?」
「ご両親の名前はわかる?」
「この国の名前は知ってる?」
「君はなぜあの広場にいたの?」
答えることが出来ないその問いは、私の気持ちを削っていく気がした。
家の場所も両親の名前ももちろん覚えているけれど、もう二度と戻ることも会うこともできない。
この国のこともあの場所に私を落としたのが何か意味のあることなのかも、何もわからない。
だんだんと自分の早くなった呼吸の音しか聞こえなくなってきた。
そして、ごちゃごちゃになった感情が自分の頭からすっぽり抜け落ちていって、からだごと深い穴の中に落ちていく。早くなった自分の呼吸の音だけしか聞こえない。
そのまま暗闇にのまれそうになった時、ふっと背中に温かいものが触れた。
「息をすって」
低く澄んだ声が心に響く。
「ゆっくり吐いて」
私の背中をゆっくりとさするその手は大きくてやさしくて、声に合わせて繰り返していくうちに、少しずつ落ち着きを取り戻す。
落ち着いた頃に背中の手がそっと離れていった。なんだか寂しいような物足りないような……ってモノタリナイってナニ?
しかし次に言われた言葉で一瞬で今考えていたことが消えた。
「ステータスを見せれるか?」
ステータス?!
私の?の反応は想定済みだったのか、またフィルさんが話を引き取って説明してくれた。
「魔力がある程度あれば、自分でその力を数値化したものをみることができるんだよ。それ専用の魔道具もあるから、魔力が少ないものでも自分のステータスを知ることができるんだけどね。普通は10歳になると一度ステータスを確認して、自分の将来の職業を決めるんだけど」
私は首を左右にふってわからないことを伝えた。内心ちょっとドキドキワクワクしていたけど。
だってこれって魔法のある異世界の定番でしょ。
だけど一番肝心なことがある。
「私って魔力があるんですか?」
だって魔法なんてない現代科学の発達した世界出身だし。生まれて一度も何もないところから火や水をだしたことはないよ。
「|門番達から《こっそり見守ってたもの》は、君のまわりに結界が張られてたって報告がきてるよ」
あっ!もしかして神様のおかげ?ポンっと放り出したんじゃなかったのかも。
ありがとうございます、神様!!
と、さっきまで心の中でちょっぴり酷い……と考えてた神様に調子よくお礼を言う。
「レイが君を連れて来たときには結界はもう消えてたけど、君からは『ある程度以上』の魔力を感じるよ。まあ本来なら他人にあまり自分のステータスを見せるものではないんだけど……」
フィルさんが言葉を濁す。
確かに、自分の能力を人に全部見せるっていうことはしないよね。なんか自分の秘密を知られちゃうみたいだし。でも私も私が知りたいし、この人達も私の扱いを考えてくれてるぐらいだから、悪いようにはしないと思う、たぶん。
だから私は……
「見たい。見たいです。やり方を教えてください」