安全だと信じたい
目覚めるとすぐそばに人の気配がした。
ベンチの上にあるはずの身体は、それよりもずっと柔らかなものの上にある。しかも毛布がかけられていてその暖かさにひたりかけたが、自分の状況を思いだし少し身体がこわばる。
どういう状況になっているのかわからず、そうっと目を開けてみると、見えたのは知らない天井ではなく、私を見つめる驚くほど綺麗な顔だった。
ああ、ラノベに出てくる王子様ってこんな感じだよね。王子様(推定)が光を背にしてるから少し薄暗いけど、それでもまばゆいばかりの金の髪に深い碧の瞳。
神様も美しかったけど、それに負けず劣らず神がかった美しさに加えて精悍さもある。
あれ、もしかしてまた死んじゃって今度は男の神様に出会ってる?
視線がそらせず碧の瞳をじっと見返していると、無表情だったその神々しい顔がふっとやわらいだ。そしてその形の良い唇が開き何かを言おうとしたとき
「あれ、目が覚めた?」
重い扉の開く音とともに、そちらから軽やかな甘い声が響く。
身体を起こそうとすると王子様(推定)がさっと背中を支えてくれた。
「あ……ありがとうございます」
数時間ぶりに出した声は、異性に支えられた気恥ずかしさもあり少しかすれて小さくなってしまった。
だけど超至近距離にいた彼には届いたらしい。さっきよりも少し力を込めてそのまま起き上がらせてくれた。
寝ていたのは、この部屋の一画にある応接セットのソファだった。その向こうには大きな執務机があり、その側にも机がある。無機質な感じではなく、シンプルなアンティークの家具で揃えられた機能的な仕事場といった雰囲気だ。
どうやら私はまだ生きていて、王子様(推定)は神様ではないらしい。
乙女的に初対面の男性二人に言うのは恥ずかしかったけど、まずはお手洗いをお借りして落ち着く。トイレは大体の仕組みが同じでほっとした。だってトイレって重要でしょ。でも流れるんじゃなくて消えたんだけどね。さすが異世界。
ここは目の前にあった大きな建物の中で、私が広場にいたのをここの人たちにずっとみられていたようだ。
部屋に戻ると甘い声の主は、ずっとあそこにいたならお腹すいたでしょと、温かそうなスープとふかふかのパンを載せたトレイをテーブルに置いた。
「話は後で聞くとして、まずは召し上がれ」
自覚はなかったけど、食べ物をみると急にお腹がすいてきた。一文無しだから次にいつ食べられるかわからないし、お役所っぽかったから多分安全そうだし、と心の中で誰に聞かせるでもない言い訳をして手をあわせる。
「いただきます」
スプーンを手に取りスープを一口飲むと、丁寧に煮込まれた野菜の旨味がたっぷり出たやさしい味がする。赤い色だけど食べるとじゃがいもだったり、黒い色のニンジンだったりと、見た目と味のギャップに密かに驚きながらも、あっという間に完食してしまった。
甘い声の主は正面のソファに、そして王子様(推定)はなんと私のすぐ横に座り、じっと見つめられながらだったから、かなり緊張したけど。
それでも食べられるって、私は意外と図太い神経なのかもしれない。
「ごちそうさまでした」
手を合わせてこれまでの人生で一番感謝の気持ちを込めて言う。
見ず知らずの私にありがとうございます。このご恩は返せるかわからないけど絶対忘れません。
甘い声の主はトレイを部屋の外にいた人に渡すと、再びソファに座った。
この人も王子様(推定)ほどではないけれど、かなりのイケメンさんだ。薄い水色で銀髪がかった長い髪を1つに結び甘い微笑みを絶やさないが、その青い瞳の奥は笑っていないように見えるけど
「ここで出会ったのも何かの縁だから、まずは自己紹介しようか」
そういうと更に甘く微笑んだ。