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お出かけは二人で

 若い女の子達の視線がこちらに集まっているのがわかる。

 正確に言うと、私の目の前で優雅にケーキを食べている人に。けれどもそんな視線には慣れているのか、全く気にする様子はない。

 視線の中にこっそり同化していたはずなのに、その人は私の方にだけその碧の瞳を向けると優しく目元を緩ませる。

「美味しいな、リン」

 そう言ってその美しい口元に浮かべた笑みを深くした。

 

 

 

 そもそも何故レイさんとふたりでカフェにいるのかというと、その理由は数日前にさかのぼる。

 

「リン、今月の給料だよ」

 副団長室に呼び出された私は、フィルさんから布袋を渡された、こちらのお金は硬貨だけだから、なかなかズシッとくる。

「もう寮費は引いてあるからね」

「ありがとうございます」

 そう言って、そうっと袋の中を覗いた。こちらに来てはじめて自分で稼いだお金だ。思えばお金がなくても不便なく暮らさせてもらえてるんだからありがたいことだけど、やっぱり嬉しい!

 

「あとは、この前の魔の森の時の特別手当もあるよ」

 そう言ってもう一袋私に渡す。さっきと同じ位かな?こんなにいいのかな?と袋の中を覗く。

「…………!!!」

 硬貨の色がおかしい。私の知識が間違ってなければ、この国で一番高価な硬貨(・・・・・)が入っている。

「ビックリした?正当な報酬なんだけどね。まあぶっちゃけ他所に行かないでね、っていう思惑もあるかな」

 だから受け取ってね、とウインクしながら甘い笑みを浮かべるフィルさん。

 気が引けるけれど、ありがたく戴きます。何せ私は1文無しだからね。もし1人で生きていくとして老後のことまで考えると、お金はいくらあっても困らない。これは貯金しておこう、と無限収納にそっといれた。

 

 ただ、私はもうここにずっといることに決めている。この騎士団のために自分の能力を使うことも。だから、特別報酬も次からはもう必要ない。そう伝えるとフィルさんは団長に伝えておくよ、と頷いてくれた。

 


「あの、次のお休みの日に街に買い物に行ってきてもいいですか?」

 フィルさんと私のやり取りの横で、執務机に積まれた山のような書類に向かっていたレイさんに聞く。

 不便なく生活しているけれど、それでもやっぱり欲しいものはあるしこの世界のものにも興味あるし。お給料が出たら街に行ってみたかったんだよね。

「次の休みって明後日だよね。もちろん行くのはいいけど……レイ、一緒に行ってきなよ」

 レイさんが口を開く前にフィルさんがとんでもないことを言った。

「私、一人で行けますよ?」

 私、買い物は一人で派だし、何よりレイさんに着いてきてもらうなんておこがましいっていうか、ねぇ。ほら、その机の上の書類もすごいし忙しいですよね?

「そうだな。リン、一緒に行ってもいいか?」

 それなのにそう言って少し気弱そうな表情をするレイさん。ええーっ、そんな表情されたら逆に断れないんですけど。

「……オネガイシマス……」

 私がそう言うと、レイさんは嬉しそうに頷いた。

 

 

 そんなやり取りがあり一緒に街に行くことになったんだけど……レイさん、とても優秀なナビゲーターだった。

 アリスさんからお店の情報は色々聞いていたんだけど、正直自分だけではそこにたどり着けなかったと思う。でもレイさんは大まかな場所のヒントだけで、すぐにその場所がわかるみたい。青の騎士団は魔の森担当だけれど、騎士たるもの街の中も把握しているものらしい。レイさん、素敵です。

 

 そして元々口数は少ないけれど、私の買い物に口を挟まないのもありがたい。道行く若い女の子達の視線はめちゃめちゃ集めてるよ。でも、お店に入ると私の近くにいるのに存在感を消してくれるというか、気を使わせないというか。それなのに荷物はさりげなく持ってくれる。もちろん、人目につかないところですぐに無限収納に入れたけどね!

 

 物珍しかったり好みにピッタリだったり楽しく一通り見て回って落ち着くと、急速に疲れを覚えてしまった。さっきまではアドレナリンが出てたのかな?久しぶりに結構な距離を歩いたからね。

 そんな私に気づいたのか、

「ちょっと休憩するか?リン」

と、レイさんが言ってくれたので、ちょうど近くにあったアリスさんオススメのカフェに入ることにした。

 

 

 ここが冒頭に出てきたカフェ。ここは今、若い女の子やカップルに大人気らしいんだよね。そこに入ってきた超美男子!に、中にいた全ての女の子の視線が注がれているのがわかる。

 

「あの方、青の君じゃない?」

「こんなところでお会いできるなんて運がいいわ」

「一緒にいる方はどなたかしら?」

「妹……じゃないわよね。全然似てないもの」 

 

 レイさん人気者ですね……この容姿に副団長だものね。

 気づかないふりしてたけど、街を歩いている時も男女問わず見られてたよね。ついでに一緒にいる私に「何?あの女」ってなるのもわかります。なんかすいません。

 

 そんなことを考えている私に、まわりの声を気にするそぶりもないレイさんはメニューを開いて差し出した。

 

 おお、やっぱり疲れたときには甘いものだよね。騎士団でクッキーは食べてたけど、なんとケーキもこの世界にあるんだよね。この前レイさんのお屋敷で初めて食べたけど、すごく美味しかったなぁ。スイーツが充実している世界でよかった!

 

 このカフェのスイーツには生クリームにカスタード、チョコレートも使ってあり、メニューの種類も豊富だ。さすが人気店。

 熟考の末に3種類のミニケーキと紅茶がついたカフェオススメセットに決める。レイさんは甘さ控えめのチーズケーキとコーヒーをオーダーした。

 

 運ばれてきたケーキを食べながら、レイさんを見る。

 ほとんど毎朝のように食堂で一緒に朝食を食べているんだけどね。なんか場所が変わると照れ臭いというか。白いシャツに黒いジャケットのシンプルな私服だけど、余計レイさんの美しさが引き立つというか。

 それになんだか騎士団内にいるときより表情や態度が優しいというかなんというか。

 精神年齢は高い筈なのに、こんなデート(!)みたいなことはしたことないからドキドキしてしまう。なんだかだんだんと体年齢に心が引っ張られている気がするなぁ。

 

 

 今日のお礼にご馳走したかったけれど、スマートにレイさんにお会計されてしまった。

「レイさん、ごちそうさまでした」

「ああ。リン、この後はどこに行きたい?」

「そうですね、最後に黄の広場の近くの雑貨やさんにーー」

 その時、すれ違った人と肩がぶつかりよろけてしまった。夕方前になり、人通りがさっきよりも増えてきているらしい。

 レイさんがすかさず支えてくれたのだけれど、何故かそのまま私と手を繋いだ。

「またぶつかると危ないから」

 あれ?なんだかドキドキするんですけど。なんかますますデートっぽいよね。いや、単に危険防止だってわかってるけど。

 だけれども、そうっと見上げて見たレイさんの耳がなんだか少し赤くなっている気がした。

 

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