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人生いろいろ

 その後、忙しい公務の合間を縫って来ていたらしい王様は、「またね」と名残惜しそうにしながらアンリさんに連れられて帰っていった。どこからか大勢の護衛の人達が出て来てビックリしたよ。

 

 

 私達も帰ろうとしたんだけど、主にレイさんが執事さん(確定)に引き留められた。なんでも一年に一回帰るかどうかだから、お屋敷で働く人達は久しぶりの主の帰りを心待ちにしていたそう。

 

 再び最初のあの可愛らしい部屋に戻ると、執事さんが紅茶をいれてくれて、メイドさん達がいろんな種類のスイーツをところ狭しとテーブルに並べてくれた。

料理人さん達の張り切りようが伝わってくるね!

 そしてあらかじめ指示されていたのか、準備が終わると速やかに退出していく。

 

 


「俺は庶子なんだ」

 しばらく沈黙が続いた後、そうレイさんが切り出した。

「あの方がまだ王太子にもなっていない頃、よく王城を抜け出していたらしい。その時出会ったのが母なんだ」

 そう言うレイさんの目が、1つの箪笥の上にある小さな絵にとまった。描かれているのは女性で、きっとお母様なんだろう。

「俺を身ごもったけれど、母は商家の娘で身分が違いすぎる。その頃のあの方はそれを押しきるだけの力はまだなくて母を娶ることはできなかった。けれど母を手放すことができなくて、この屋敷に母と俺を住まわせたんだ」

 レイさんはフッと一息吐くと、お茶を一口飲んで話を続けた。

「母は俺が7歳の頃に流行り病で亡くなった。あの方はその後今の王妃様とご結婚され、お子様も3人いらっしゃる」

 そう言って私を見た。

「俺は王族ではない。しかしあの方とのつながりを知っている者も多いから、俺が災いの元にならぬよう王位継承権を生涯望まないと宣誓してある」

 そこまで話すと、反応をうかがうように私を見つめた。

 

 

「……レイさん、たくさんしゃべれるんですね……」

 私のつぶやきにレイさんがめずらしくきょとんとした顔をし、フィルさんがプッと吹いた。

「今のを聞いてその返しってーーー」

 そうフィルさんが笑うけど、私に今の話を聞いてこれ以上言うべき言葉が見つからない。

 

 ここでの生活を送ることになったレイさんのお母様と王様との間にあった感情がどんなものなのかは、本人達にしかわからない。

 レイさんの生い立ちが複雑なものだとはわかったけど、それが不幸なものだとも思えない。

 あの王様がレイさんを見る優しい眼差しや、このお屋敷の人達のレイさんに対する態度。そしてお母様の部屋がこうして綺麗に維持されている様子からみてもね。

 それにレイさんはその環境にあぐらをかくことなく、立派に自立している。青の騎士団は実力主義だから、本人の資質もあっただろうけどきっとすごく努力もしたのだと思う。

 今回は私のために本当は使いたくない伝家の宝刀を使ってくれたということだよね。


 

「この度は私のためにこのような機会を作ってくださり、本当にありがとうございました」

 思えばこの世界に来てずっと、この人達は得体のしれない私のことを厭わずに良くしてくれている。けれど今の私には感謝の気持ちをたくさんたくさんこめて伝えることしかできないから……

「私、これからしっかり青の騎士団員としてお役に立てるようにがんばります!」

 

 するとレイさんは一瞬気の抜けたような顔をしたけど、すぐに今までで一番リラックスしたようなふわっとした微笑みを浮かべて、「よろしく頼む、リン」と言ってくれた。

 フィルさんはというと、何故だか気の毒そうにレイさんを見ながら、

「まだまだ本当に先は長そうだね……がんばれ、レイ」

と、レイさんに謎の声援を送る。はて?

 

 そしてその後はなごやかに、お茶とお菓子を楽しんだのだった。

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