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私にできること④

戦闘シーンがあるため、タグを増やしました。


 まだ陽が出ている時間なのに、大きな木々が光を遮るせいで薄暗い。

 私のこの世界初めてのお出掛けは「魔の森」だ。

 街道は馬車が2台すれ違える程の広さで、石を敷き詰めた道が先が見えない程ずっと続いている。そんな街道にアーチを描くように薄い水色の膜がかかっていて、これが結界だと教えられた。

 

 出発前、心配したマークさんに鎧をつけられたけれど、重さに耐えられず動くとすぐに息も絶え絶えになってしまった。鎧より効果は落ちますけど、と青いローブのようなものを着せられ、肘と膝にはプロテクターをつけられた。

 どれだけひ弱だと思われてるのかと思ったけれど、森に来て分かった。ここ、危険。無理してでも鎧つければよかった。

 

 そして移動手段は馬。けれど、私の知ってるのより一回り大きい。当然のことだけどひとりでは乗れなくて、団長さんの前に乗せてもらっている。お腹にがっしりと巻かれている腕は、さながら絶叫マシンの安全ベルトのようだ。だけど思った以上に揺れる。車酔いするタイプじゃなかったのにすでに馬酔いだ。

 

 

 そんな私のせいで、駆け足程度のスピードで10分程進んだだろうか。これまで馬が地面を蹴る音と自分の荒い呼吸しか聞こえなかった私の耳に、何かが倒れるような音や沢山の人の声が聞こえてきた。

「あそこだ」

 団長さんの重く鋭い声に顔をあげると、そこにはこれまでテレビやゲームの中でしか見たことのない光景があった。その現実に息を呑む。

 

 

「次は3部隊が結界の維持にまわれ!!」

「怪我したものは結界の中に入って回復しろ!!」

「向こうは俺たちが行く。ここは任せたぞ!!」 

 

 次々と飛ぶ指示。

 結界の中には少なくない怪我人や、必死で結界石に魔力を込める人達。

 結界の外にはモーグズと思われる魔物が次々と地面から飛び出し、それを騎士達が水魔法と魔力を込めた剣で倒していく。

 

「変異体につられて活性化してやがるな」

 団長さんは少し離れたところで馬を降りて結界の内側にある木につなぐと、私を抱き上げた。そのまま歩いて近くまで行くと、そっと私を降ろす。

「リン、あいつらは結界の中には入ってこれない。とりあえずここから動くんじゃないぞ」

 そう言って、結界の外に飛び出していった。

「おい、お前ら!もっと気合い入れていけ!!!」

「だっっー団長、どうしてここに?」

「よそ見するな!一気に片付けるぞ」

 そう言って腰から大剣を抜くと、魔力を込めて一気にモーグズ達を薙ぎ払う。

「「「「「おおーーーーーーっ」」」」」

 そんな団長さんの声に鼓舞されたように騎士達が声をあげ、モーグズ達に向かって行く。

 

 

「リン!!」

 結界の中で指示を出していたフィルさんが、私に気づいて駆け寄ってきた。

「どうしてここに?!」

 だけど私はからだの震えが収まらず、声を出すことができない。2次元の世界では分からなかった肉を切る音や魔物の体液や人の血の臭い。想像の世界だったものを目の前にして、恐怖と混乱が入り交じる。

 その時、強い衝撃が結界の中を襲った。即座にフィルさんが私を抱え込む。

「副団長ーーー!!」

 誰かの声にフィルさんの腕の中から顔を上げると、モーグズよりも遥かに大きくどす黒いものが、結界に向かって突進している。その前に立ちはだかるように、この薄暗い森にあってさえ眩く光る金の髪を持つ人の後ろ姿が見えた。

 レイさんは、自分の何倍もある変異体に向かって、何度も剣を振り下ろす。変異体は体を傷つけられながらも怯むことなく結界に向かう。そんなことを繰り返して一瞬レイさんが息をついた瞬間、変異体が地面に潜ったかと思うと、先程より濃い闇を纏って勢いよくレイさんに牙を向けながら突進してきた。変異体以上のスピードで闇がレイさんを飲み込もうとしている。

 

 

「レイさん!!『聖なる水(ホーリーウォーター)!!!』

 

 

 ありったけの魔力を込めたと思う。恐怖心やら何やらも吹っ飛ぶような大きな何かが、私の中からごっそりと抜けていくのを感じる。

 変異体の上だけではない。この戦場全体を覆うほどの光の雲から輝く雨が降り注ぐ。

 騎士達も魔物も全てのものが、時が止まったかのように静まり返った。

 

 フッと身体に力が入らなくなり、その瞬間光も消える。腕に寄りかかった重みで我に返ったフィルさんが、私を支えながら叫んだ。

 

「レイーーーいけーーっっ!!!」

 

 その声に瞬時に反応したレイさんが一気に剣を振り下ろすと、変異体は真っ二つになってそのまま地面の上に崩れ落ちた。

 

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