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身の振り方を考えよう⑤

「リンにまず必要なのは、常識だよね」

 

 団長さんの部屋を辞して、昨日ぶりの副団長室。

 レイさんはすでに自分の執務机で昼食のサンドイッチ片手に、分厚く重ねられた書類を捌いている。書類に目を通しながら考え込む時眉間を少し寄せていても、美しさは全く損なわれない。

 

 私はというとフィルさんとソファに向き合って、同じくサンドイッチを食べながら雇用条件の話し合いをするらしい。その初めに出たのがさっきの台詞なのだけど。

「正直城の魔術団は伏魔殿だし、街も善良な人ばかりではないからね。あっさり騙されたり利用されたりしそうだったから、うちに来て良かったよ。ねえ、レイ」

 何だろう、正論だけど悪口言われてる気になるのはフィルさんの口調のせいだろうか。

 だけどレイさんが

「ああ」

と見ていた書類から顔をあげて笑顔で頷いてくれたから、ちょっと嬉しい。

「まあ常識はおいおい覚えてもらうとして、住む所と雇用条件の確認をするね」

 フィルさんはレイさんと私の様子を見てからそう言った。

 

「うちの騎士団は寮があってね、魔物の襲撃にいつでも対応出来るように騎士は全員入寮している。だけど騎士は男ばかりだから、リンを寮に入れることは出来ない」

 女性は通いってマークさんの話にもあったものね。

 でもお金はもってないし、街に住むのも正直不安だし。私がそういうとフィルさんもうなずいた。

「こちらとしても、ここにいてもらったほうが何かと都合が良いから、住むことに問題はないよ。ただ、騎士団内にリンが住むなら昨日の客間しかないかな。あの部屋なら風呂もあるからね」

「えっ、でもお客さんが来たとき困りませんか?」

「大丈夫。そもそも魔の森が側にあるのにここに泊まろうとする人は多くないし、客間はまだ他にもあるからね」

 

 そうなんだ。正直『魔物』を見たことないから怖さがわからないんだけど、もしかしてここって危険?

 

「通常は王都の壁の内側にいる限りは結界も張っているから大丈夫」

 あれ?また顔に出てました?

 


 食事は騎士団内の食堂で。仕事の日は3食出るけど、休みの日は朝食しか出なくて昼夜必要なら前日までに言っておかないといけないらしい。

 寮費は食事と光熱費も合わせて基本お給料の5分の1。

 だから騎士団寮では上の立場の人ほどたくさん払わないといけないけど、その分部屋のグレードが上がるそう。

 ちなみに新人はベッドと机で部屋が一杯になる2人部屋からスタートらしい。一人部屋な上に設備も広さも良くてすみません。

 

 

「次はリンに助手をしてもらう研究室なんだけど、研究室の主はデニスさん。数年前に退団したけどうちで研究を続けてくれてる。基本は魔の森で調査してて研究室にいる時は朝から晩まで部屋にこもっている人だからね。リンの働く時間は事務方と同じ朝9時から夕方6時までで5日働いて1日休み。デニスさんに関係なくこのサイクルで働いてね」

 なるほど。皆さんそうやって少しずつ休みをずらし、騎士団自体は休みなく開いてる形になるそう。騎士の人は夜勤などもあるそうだけど。

「仕事内容はデニスさんが書いたものを清書してこちらに提出してくれることかな。これ、今まで(解読が面倒で)放置してあるものも結構あるから。後はデニスさん次第だけど、リンが森に行くことはないようにするからね」

 体力もないし魔法も今のところ微妙だからね。

 

「給料は事務方の新人と同じ額からスタートする。ただ、リンの能力を活かして特別に仕事を頼むときは別途支給する。ただしこの仕事をするのは絶対ではないから自分でよく考えて決めてね。

 最初は研究室の仕事とここでの生活に慣れてもらうとして、魔法やスキルの訓練はそれから、でいいかな」

 

 そこまで説明するとフィルさんは手元から何かを取り出した。

「これは青の騎士団に所属していることの証だよ。男は襟元に刺してるけど、女性はペンダントにして着けている」

 そう言って私の手の平の上にそっと載せてくれた。

 ペンダントヘッドの部分には丸い金の土台に青いサファイアのような三角の石が埋め込まれている。更にその上に刃を上に向けた剣が描かれていて、これは騎士団の紋章だそう。

 騎士団ごとに三角の部分が違う石になっていて、男性は襟元にバッジにしてつける。

「それを手で包んで、自分の魔力を流してみて」

 言われた通りにやってみると、一瞬青く輝いて消える。

 

「これはリンの身分証明にもなるから、できるだけつけておくんだ」

 そう言っていつの間にか私の背後に来ていたレイさん。ついさっきまで机に座ってたのにいつのまに!そうして手を伸ばして私からペンダントを取る。どうやら着けてくれるらしい。首の後ろにレイさんの気配を感じる。

 

 おお、こんなシチュエーション、ドキドキだよね。他意はないだろうけど。

 

「ありがとうございます」

「ああ」

 何故か満足そうな表情で短い返事をして、また元の席に戻るレイさん。それを面白そうに見るフィルさん。なんだこれ。

 

「リンのことは今日中に各部署に通達しておくから、明日から仕事をはじめよう。とりあえずこの後は部屋で休んで明日に備えてね」

 

 

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