身の振り方を考えよう④
「それでリンのこれからですが」
再び戻った団長室でそう切り出したのはマークさん。
先ほど私を除いた4人で話し合いをしていたけど、結論がでたらしい。
「選択肢は3つあります。
1つ目は、城の文官か宮廷魔術師になることです。
言語SSは別格ですし、まだ魔法を使い始めたばかりなのにあれだけのセンスと魔力量。もし彼らが知れば、まちがいなくあなたを欲しがるでしょう」
そう言って一度私の様子をうかがうと、
「メリットは地位と身の安全でしょうか。その身分は保証されますから一生涯生活は安泰です。
デメリットは、リンの場合異国の血が入っているようですから、万が一我が国の情報が外に漏れないように外出制限や結婚相手が決められることもあるかもしれません」
そもそも別の世界出身だから、どこともつながってませんよーと言いたい。言えないけど。
国家公務員として一生安泰なのは魅力だけど、自由と引き換えなんてデメリットが大きすぎるよね。
「2つ目は、街で普通に生活することです。といっても初めはこちらで信頼できて住み込みで働ける職場を紹介します。その場合まだ成人したてなので、団長がリンの保護者として身元を保証してくれます」
団長さん、ありがとうございます、と感謝の気持ちを込めて深くお辞儀する。顔を上げると、まかせとけっという感じにニヤっと笑ってくれた。
「ただこの場合、スキルと魔法は極力使わないほうがいいでしょう。良い人間ばかりではありませんから」
メリットは自由。
デメリットは自分の武器を使って仕事ができないことと身の安全が脅かされるかもしれないってことだね。でもなんかうっかり使っちゃいそう。
「3つ目は、この騎士団で働くことです。基本は先ほどお話しした魔の森を研究している方のお手伝いです。
また、スキルや魔法の能力を伸ばしたいならばその訓練もします。
身の安全のために騎士団内に住んでほしいですが、実際ここで働く女性は通いの方ばかりなので外に住んでもかまいません。安全対策のため住む所はこちらで決めさせていただきますが」
「3つ目を選んだ場合、こちらにメリットはありますか?」
だって『基本は』だからね。私ばかりに譲歩された条件だけど、それだけではないと思う。
「うちのメリットはその能力の可能性を保険として持つことだ。
言語もさっき見たのはまだ一部だし、魔法に関しては未知数だ。役に立つものがあればここで活かして欲しいが、脅威になる可能性も否定できない。だが、本音を言えばここを選んでくれたらと思う」
確かにどちらも自分自身まだどんなものか理解してない。『脅威』になるかもしれないからここである意味監視を兼ねるってことだよね。だけどそれを本人にストレートに話してしまった団長さんは誠実だと思う。
「考える時間は必要でしょうから、今日決めなくてもいいですよ」
マークさんがそう言ってくれたけど、基本悩む時間っていうのはなんか心がムズムズする感じがして苦手だし、きっと悩んでも選ぶのは同じだと思うから……
「いえ、こちらで働かせてください」
あまりにあっさり言いすぎて、マークさんは逆に心配になったらしい。
「理由を聞いてもいいですか」
「自由がないのは嫌ですし、地位にも興味有りません。街に生活しても、危険を自分で対処する自信も力もないですし」
何せ身体能力は10歳以下らしいしね。
「何ができるかわからないんですけど、働くなら自分の能力が役に立つところで働きたいです」
この人達とは出会ったばかりだけど、この世界で初めてで唯一の知り合いだ。それに得体の知れない私のために、真剣に考えてくれている。
袖振り合うも多生の縁っていうし、きっと何か意味のあることですよね?神様。
「よし、じゃあ決まりだな」
「ようこそ、青の騎士団へ」
団長さんとマークさんがそう言うと、私の隣に座ってずっと無言だったレイさんもほっとしたように「よろしく、リン」と優しく笑ってくれた。
「リンの身柄は副団長預かりでいいですよね」
フィルさんがマークさんに言うと
「そうですね。この様子だとそれがいいでしょう。住む部屋の手配や仕事と訓練の段取りはフィルに任せます」
そうして私は、青の騎士団内で住む所と研究者の助手という仕事を手にしたのだった。