身の振り方を考えよう③
お忙しい皆さんなので時間は無駄にせずと、続いて場所を訓練場に移動した。
完全非公開で、野球場ほどの広さのここには私たちの他に誰もいない。高い壁に囲まれていて、訓練の時に使うのであろう的が点在している。
体力D筋力Eですけど……魔法だけですね、よかった。
「ここは結界が張ってあるから、ちょっとやそっとじゃ壊れない。遠慮なくやってくれ」
「MP999以上ですからね。フィルは私と念のため結界の強化と警戒を」
「了解です」
「リン」
レイさんに呼ばれ、一緒に訓練場の真ん中まで行って立ち止まる。
「リンは魔法のことをどの程度知ってる?」
うーん、ラノベの知識で言ったら相当知ってるけど、実際に見たことはないよね。
「正確かはわからないけど、知ってはいます。でも、昨日までは実際に見たことも使ったこともありません」
私がそう言うと、レイさんはちょっと考えて
「まずは俺がやってみるから、出来そうかどうか判断してくれ」
そして私から少し離れる。
「まずは『火』だ」
そういうと伸ばした手の平の上に一瞬にして野球ボール程の炎の固まりを作る。それを勢いよく飛ばし的へと命中させた。燃えている的に向かってレイさんが人差し指をくいっと下に向けると火が一瞬で消えた。
おおー、すごいよ魔法。それにこちらの世界は無詠唱なんですね。長い呪文を覚えなくていいのは助かります。と思ったけれど本来は呪文を唱えるらしい。
だけど戦闘職種の皆さんは元々の魔力量も高いし、おちおち呪文を唱えてもいられないのである程度の魔法は詠唱なしでできるように訓練するんだって。
「やってみます」
レイさんみたいに一瞬では出せなさそうだけど、手の平を上にして伸ばしてみる。
魔力を感じて手に流して、そこから炎のボールが浮かぶ様子をイメージして。
そうすると、炎のボールが手の上に浮かんでーーーーーシャボン玉が弾けるように一瞬で消えた。
あれ?
その後何度もやってみるが、炎を大きくすることはできても一瞬で消えてしまう。
「初めてなのに無詠唱で炎が出せるだけでも十分すごいぞ」
褒めて伸ばすタイプですね、レイさん。がんばります。
「次は『水』だ」
レイさんは、自分の回りにシャボン玉みたいな丸い水の玉をたくさん浮かせる。
光が水に反射してキラキラして輝いている。そんな中の絶世の美男子。何もしてないのに素敵なご褒美ありがとうございます。
なんてことを考えていたら、その水玉をひとつにまとめていき、バレーボールぐらいになったそれを、壁のそばにある遠くの的にバシッと命中させた。
おおー、テレビで観たプロのテニス選手のサーブみたいな早さだよ。コントロールも正確で的が粉々に破壊されている。水でも威力抜群だね。
早速えいっと魔力を込めると私のまわりに大量の水玉が浮かんだ。次に小さな水玉を集めて大きな水玉にしていく。
あれ?なんかバランスボールぐらいになっちゃってる?とりあえず投げちゃえ!
さっきみてイメージは出来てたはずなのに、風船を投げたようなフワフワとしたスピードで5mほど飛んだ水玉は、ばしゃっと地面に落ちて大きな水溜まりを作った。
その後ボールを小さくして何度やってみても、風船のような投球スピードは変わらなかった。
『風』は扇風機の風(強だけどね!)だったけれど、『土』では自分でも満足な出来の精巧な土のお城を作り、またもや「リンは器用だな」とレイさんに褒められた。
最初は離れた場所で警戒しながら見ていたはずのお三方も、いつの間にかすぐそばにきている。
「ここまでにしようか?リン」
そう言って飲み物の入ったコップを渡してくれるフィルさん。今どこからともなく出したってことは、フィルさんも収納持ちですね。
何の果物かわからないけれど、甘いジュースが疲れた身体に染み渡る。
「リンは攻撃タイプじゃないな」
「色々な属性をこんなにすぐ使えるのはやはりすごい魔力と才能ですね」
そんな話を聞くとはなしに聞きながら、ふと思い立ち大きめのミニトマトぐらいの水玉を3つ作る。それをコップの上に浮かべ想像する。
冷凍庫に入れて……『急速冷凍』!!
ポチャンと丸い氷が3つ、コップの中に入った。このジュース冷やしたらもっと美味しくなるね、と飲んでいるとこちらをじっと見つめる8つの目。あれ?
「わかってないみたいだけど、それって結構上位魔法だから。無自覚にやっちゃただけだろうけどね」
ため息をつきながらそう告げるフィルさんに、あははっと……愛想笑いを返すことしか出来なかった。