身の振り方を考えよう②
「俺が青の騎士団団長のダリウスだ」
「団長補佐のマークです」
「はじめまして。リンです。昨日からこちらでお世話になっております」
挨拶、大事!とお辞儀をしてふと思ったけど、この国の人お辞儀ってするのかな?もしかしてカーテシーとか?やったことないけど。
団長さんは気にすることなく「よろしくな」と笑って席を勧めてくれた。
レイさんの部屋よりひとまわり広い団長さんの部屋の応接セットに、正面には団長さん、私の横にまたもやレイさんが座った。
団長さんはすごく大柄で、赤よりの茶髪に口ひげだけでなく頬から輪郭にも髭がたくわえられていて、かなりワイルドな感じ。レイさんとフィルさんは背は高いけれど、どちらかと言えば細マッチョな感じだね。マークさんは執事っぽい。
観察しながらさっきフィルさんに言われたことを考える。
4人ともこの国のために働いている人達だ。
私はこれまで家族や自分のために働いてきた。
だからもし私の能力をこの国のために使ってくれと言われたら、正直「はい」と言えない。ここの人達には感謝を返したいけど、そういう志は今の私にはない。この国のこともよく知らないしね。
せっかく神様がくれた機会をどう生きていきたいのか、まだ自分でもよくわからないけど。
マークさんとフィルさんがお茶の準備をしてくれている間にそんなことを考える。ふと視線を感じて隣を見ると、碧の瞳と目があった。顔は無表情だけどその瞳が私を心配しているような気がする。レイさんに大丈夫です、と目で伝え(伝わってないかも)、深呼吸して気合いをいれた。
よし、とりあえずできることは何かとかこの世界のこととかは知りたい。何もできないかもしれないけど。利用されるのが嫌とかいいながら、この機会を利用しようとしてるよね。矛盾しててすみません。
お茶の準備が終わり、フィルさんとマークさんも空いている席に座ると、団長さんが口を開く。
「話はレイから聞いたんだがな。一応ステータスを確認させてくれないか」
「はい。【ステータス】」
皆さんに見えるようにと、自分の後ろの壁に向かって画面が昨日より大きくなるようイメージして表示してみる。
あっHP満タンになってる。やっぱり一晩ぐっすり休めたのがよかったよねー、後は変わってないけど。と思いながら前を向くと、驚きと困惑の顔でじっと画面を見つめる団長さんとマークさん。
……なんだか昨日から皆さんを困らせてる。『鈴子』の時には誰にも迷惑をかけないように生きていたつもりなんだけどな。よく考えると私に関わったせいで余計な仕事増やしてるよね。利用するされるとか言える立場じゃないよ、私。
うつむいた私の頭に、昨日も感じたやさしい温もりがそっと触れた。
「大丈夫だ。リン」
その低く澄んだ声はすごく優しく心に染みる。私が顔を上げると、レイさんはその美しい顔をにっこりさせて頭に置いていた手を頬にすべらせてそっと触れた。
おお、顔面偏差値って高すぎると目が離せないし、なんか頬が温かいどころか熱い!
「お二人さん、話を進めてもいいかな」
フィルさんの声であっと状況を思い出す。慌ててレイさんから少し距離をとり、見ていたであろう3人に顔を向ける。
団長さん、にやにや笑いはやめてください。
マークさん、微笑ましいものを見たって顔は逆につらいです。
フィルさん、面白がってますね。
「まずはこっちを確認したい」
自分の顔が赤くなっている気がしたが、『SS』の表示を指差してすっと表情を引き締めた団長さんに背筋を伸ばす。
団長さんがマークさんに目線を送ると、マークさんは数冊の本と1枚の紙を持ってきて私の目の前に置いた。
「タイトルだけでいい。読んでみてくれ」
『リードルント国の歴史』
『クルトア山の歩き方』
『古代魔術の秘密』
『アンドレアものがたり』
《魔物の種類に伴う結界の維持管理について》
読み上げてみたけれど、何か意味があるのだろうか?歴史書から子ども向けの絵本までバラエティに富んでるね……最後のは報告書みたいだけど。でも、もしかしてそれぞれ文字の種類が違う?
「次はそのタイトルを書いてみてくれ」
マークさんがさっと紙とペンを置いてくれる。
あっ、よかった。羽ペンにインクとかではなく万年筆のようなペンだ。なめらかな書き心地のペンを走らせる。不思議なことにどれも初めてみる文字のはずなのに、まるで日本語を書いているときのように考えなくても手が動く。
4人が真剣な顔で見ているから緊張するけれど、幸い手が震えることなく5つ書き終えペンを置いた。
「予想通りの出来だな」
「どれも余裕で読み書きできましたね」
「リンの字はきれいだな」
「古代語も読めるなんて、下手したら城の魔術師や文官以上のレベルだよ」
あっレイさんありがとうございます。祖母が書道教室を開いていて無料で教えてくれていたから、弟妹たちが生まれてもこれだけはずっと習っていたのだ。就職してからも手書きって意外とあって重宝されてた。この世界語でもきれいに書けてるなら嬉しいな。
「でも、この歴史書と報告書って同じ国の言葉ですよね」
疑問に思っていたことを口にすると、団長さんが答えてくれた。
「それはすでにこの騎士団を引退したじいさんが書いたものだ。騎士だったがどちらかというと研究肌でな。引退後もうちに残って魔の森の研究を続けて貢献してくれている」
おお。研究好きな人っているよね。引退したおじいさんっていうことは結構なお歳?定年って何歳?
「ただ問題は、その報告書が本人以外誰にも読めないということだ」
え?
「有益な情報もあるのでいつも私かフィルが解読するのですが、なかなか根気のいる作業なんですよ」
おお、マークさんの空気がどことなくブラック。それに頷くフィルさん。
「さすが言語SSだ。すごいなリン」
団長さんに笑顔で誉められたけど、そこ?もしかしてこのスキル微妙?とこの先のことが少しだけ心配になった。