身の振り方を考えよう①
朝が来た。
枕が変わってもぐっすり眠れる私ってすごい?図太い?
閉じられたカーテンの隙間から入る光はまだ弱く、夜が明けたばかりのようだ。
顔を洗おうと起き上がり、ベッドから抜け出した。
昨夜消し方を聞きそびれ、スイッチも見つからなかったから部屋の隅に置いたランタン型の明かりをテーブルに置くと、部屋全体を照らすように明るさが増した。石が入っていてそれが光っているらしい。
うん、やっぱり異世界だね。
そして私は今悩んでいた。いや、感謝はしてるよ。なかったらとっても困ってたし。
原因は、とりあえず確認と取り出してみた無限収納の中の《ワンピース10》。
色とりどりすぎて、思わず虹の配列で並べちゃったよ。
ピンクばかりじゃないのにホッとしたけれど、どちらかというとモノトーンな服ばかり着ていた自分にはなかなかハードルが高いです、神様。
その中で1番色と装飾が落ち着いている藍色の服を手に取る。
ここは『青の騎士団』だからね。ほら、ここの皆さんの服と似たような色だから、紛れて目立たないかもしれないし。リボンがついてたり襟とか裾とかは多少ヒラヒラしてたりするけど。
着替えを済ませ、メイクセットの中に入っていた櫛で背中の中程まである髪をとかす。ついでに鏡を見ると、確かに16歳の頃の自分の顔だ。本当に若返ってるよ、お肌の張りが全然違う。
もちろん34歳の社会人だった私はきちんとメイクしてたけど、10代はノーメイクでいいよね。
そうして出したものをまた入れ直して身支度を済ませた頃に、部屋のドアがノックされた。
「おはよう、リン。ゆっくり休めた?」
「おはようございます。フィルさん。おかげさまで」
朝から完璧な出で立ちのフィルさんの甘い微笑み。なんかありがとうございます。
「朝食を食べながら今日の予定を話したいんだけど、いいかな?」
「はい」と了承すると、後ろからついてきていたらしい大柄な団員さんが、持っていたトレーをテーブルに置いてくれた。そして私の方を見て安心したような顔をして、にこっと笑ってくれたので、ペコッとおじぎを返す。もしかして昨日広場の私を見てた人なのかな。そしてドアを開けたまま出ていった。
これはきっと未婚の男女が密室にふたりでいてはいけないってやつですね。
僕はもう済ませたからどうぞというフィルさんに、遠慮なくいただくことにする。
「いただきます」
パンとサラダとベーコンエッグとスープというシンプルイズベストな朝食は、またしても色と味のギャップというのを除けば大変美味しいものだった。もう色は慣れるしかないけど、味覚が合うのはありがたい。
ただただ美味しく食べている私に、フィルさんが話を切り出した。
「今レイが団長にリンのことを話しに行っている。
どういう事情かわからないけど、とりあえず今のところ行くあても帰る場所もない、でいいのかな?」
口の中でパンをモグモグしていた私は頷きながら思う。でもそれってたぶん相当怪しい人だよね。
そんな不安が顔に出てただろうか。
「リンに悪意がないことは分かるよ。僕もレイも人を見る目はあるつもりだからね」
リンは分かりやすいしね、と付け加えるフィルさんの青い瞳の奥に昨日少し感じた冷たさはない。
でも分かりやすいって……。良いのか悪いのか。でもここは良いとしよう。
「ただ、リンの能力は知ってしまった以上無視できない。保護者がいないのなら、その力を知った悪い者に利用されないとも限らないしね」
そうかも。まだ自分に何ができるかもこの世界のこともこの国のこともわからない。やさしくされたらうっかり騙されたり利用されたりしそう……そう考えると今の状況もそうかもしれないけど。
なんて助けてもらってるのに失礼なことを考えたのがまたもや伝わったらしい。フィルさんは少し苦笑いしながら
「僕たちを信用してはほしいけれどね。だからこの後団長やレイとも話し合って、自分でよく考えて決めるといいよ」