私は君のことが──
久しぶりに短編の恋愛小説を書いてみました。
1500文字程度なので、ぜひ読んでみてください。
──春は出会いと別れの季節。新たなる一歩を踏み出す人もいれば、立ち止まったまま動けなくなってしまう人もいる。
私にとって、今年の春は後者だった。
いつまでも、いつまでも、現実を受け入れることができず、醒めない夢に囚われたままでいる。
私と君の出会いはまさしく運命だった。
コンビニで買い物をしている時、たまたま取ろうとしたお菓子が一緒で、指先がぶつかってしまうというマンガの世界のような出会い方。
私たちはマンガのシナリオに沿うように、互いに惹かれ合い、恋をして、やがて結ばれた。
これは運命。私と君は生まれたその瞬間から運命の赤い糸で結ばれていたに違いない。馬鹿みたいな考えだとは自分でも思った。
でも君は、馬鹿にすることなく、「そうだな」と笑ってくれた。それが本当に嬉しかったのを私は今でも覚えている。
君と過ごす時間は幸せ以外の言葉で形容することができないほど充実した時間だった。
互いに違う学校だったから、四六時中一緒にいることはできなかったけれど、放課後に駅前で待ち合わせてデートしたり、夕飯食べに行ったりした。デートの資金を増やすために同じバイトを始めたり、親に君のことを紹介したり、ドキドキするようなこともたくさんあったけれど、本当に……本当に楽しかった。
初めて君とキスをした時、心臓が張り裂けそうになっていたけれど、君の温もりを直に感じることができて、あたたかな気持ちで心が満たされていった。
肌を重ねた時はキスなんか比にならないほど恥ずかしかったけれど、たくさんの幸せを君からもらうことができた。
いつまでも、それこそ永遠に、この幸せな時間が続くものだと思っていたのに、崩れるのは本当に一瞬だった。砕け散ったガラスが二度と元の形に戻らないように、私たちの関係は失われてしまった。
幸せだった日々はもう二度と戻ってこない。
私は泣いた。朝も、昼も、夜も。涙が枯れ果てるまで泣き続けた。そんなことを続けても意味が無いことくらい分かっている。けど、消すことのできない気持ちが涙となって溢れてくるのだから止めようがなかった。
私は醒めることのない夢に囚われている。
だから今日も、私がやめることになってしまったバイト先から出てきた君の背中を追って歩き始める。
まだお昼を少し過ぎたばかりの時間帯。私たちのバイト先はファミレスだったから、こんな時間に抜けてしまうのは迷惑にしかならない。
でも、お店を出ていく君を見送る店長さんの顔は、これっぽっちも怒ってはなく、逆に悲しげな笑顔を浮かべていた。
花屋に寄った君は数本の花を買うと、大通りから逸れて脇道を進んでいく。住宅街を抜け、更にその先にある場所へと向かった。
月1で必ず来るその場所に入り、迷うことなく足を進めて、君は私の前に立った。
すっかり枯れてしまった花を、買ってきたばかりの花に差し替えて、地面に敷かれた小石の隙間から生えていた雑草を抜き取る。
そうしてやることを終えた君は、カバンの中から緑色の細長い束とライターを取り出した。
「──お前が死んでからもう1年。俺の気持ちはあの時から変わっていない」
君はライターで細長い束──お線香に火を付ける。
心地良いお香の香りが、春のあたたかな風に乗って私に届く。
「今も、昔も……お前のことが大好きだ。だから……だからお願いだよ……俺のところに帰ってきてくれよ……」
そう言って涙を流す君の背中を、私はそっと抱きしめた。
──私は醒めない現実に囚われている。
そして君もまた、醒めない夢に囚われている。
~Fin~
如何でしたか?
恋愛はいつもハッピーエンドとは限らないんです。こういった悲しい恋も、きっとあるんです。
もしよろしければ評価や感想を頂けると幸いです。