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ふわりふわり

作者: ねこぱんだ

書き物を初めてしました。

拙い文章ですが、お許しください。

アドバイス、叱咤、お声など頂戴できれば勉強になります。


ふわりふわりと雪が舞い降りる。

もう明日は今年のクリスマス。


ただ、俺にとってのそれは特別でも無い普通の日。


「本当に普段と何も変わらないな」


深いため息をつきながら、そんなことを言ってしまう。

とその時、不意に背中に軽い衝撃が走る。


「すみません、だいじょー・・・紫苑君!」

「えっ?」


名前を呼ばれ、思わず声を上げて振り返ったまま惚けてしまう。

なぜなら、そこに立っていたのは初めて会った

同じ歳くらいの女の子だったからだ。

しかも、ここは日本だというのに髪の色は自然なプラチナブロンド、

背は170cmよりも少し低いくらいで

俺を見る目が少し上目遣い気味に見上げている。


頭の中の記憶を辿ろうとするが、全く思い出せない。

いや、むしろ外国人の女の子にお知り合いなど居るはずもない。

日本人でもいないのだから。


俺が少しパニック気味に悩んでいると、少し高い目の

しかし柔らかい口調の声がかかる。


「・・・私のこと、忘れてしまったの?」


(まずい・・・思い出せない)


悲しそうな雰囲気を醸し出す女の子。

それに対して対策がとれる未来が見えない俺。

そんな絶望的な状況から救い出してくれる言葉が

女の子から紡がれる。


「なんてね、紫苑君は私のことは知らないと思うよ。

私が君を知っているのは、以前命を救われたからなんだけど

あの時、君はそのことに気が付かないで帰っちゃった

からね」


・・・命を救ったですと?覚えがない。


「もう一度会いたくて、あの時のにお・・・香りを頼りに

君をさがしていたの!本当にうれしいっ!」

「今、不穏な言葉が混じっていた気がするんだけど・・・」

「細かいことは気にしない!」


完全に女の子のペースである。しかもまだまだ加速しそうである。


「紫苑くん、もしよかったら明日会えるかな?」

「えっ!?」

「もしいやじゃなかったらなんだけど・・・ね」

すこし躊躇いがちに上目遣いである。


「お、俺でよかったら、喜んで。」

どもってしまった。はずかしい。


「ありがとう!紫苑くん!」

女の子はそう言うなり、両手を俺の首に回し、ふわりと飛びついてきた。

唐突な出来事に反応できない。


「ちょっ!!」

「あ、びっくりしちゃった?私は普段からこんな感じだけど

普通はちがうよね。ごめんなさい」

少し悪いことをしたという顔をしながら、ペロっと

舌を出す仕草。実にあざとい。

「海外のコミュニケーションはダイレクトだね。ただ、

この状態は恥ずかしいかな。」


周りの通行人の皆様は「この時期だしねぇ」「爆発しろ!」

「外国人の彼女だと?」「う、うらやましくなんてないんだから」

など反応は様々だが、余り好印象ではなさそうだ。


すると、女の子はあっという顔して、首に回していた手を離しながら

「明日、お昼の2時に駅前のクリスマスツリーで待ってるね。」

と、にこやかに伝えて来る。

「うん、それじゃあその時間に。」

俺が、そう答えると女の子は更に微笑み“スルリ“と脇を抜け

またねと手を振りながら離れていくのだった。


女の子の姿が見えなくなって、さて帰るかと考えたとき


俺は、名前も連絡先も聞くのを忘れたことに気付いたのだった。


        ☆



「やっと紫苑くんにあえたぁ」

私は、そんな言葉を実際に口に出してしまうくらい興奮していた。


1年前、そうあの日もふわりと雪が舞降る寒い日でした。

2年間暮らした家族が、引っ越しのため私と住めなくなったので

私を捨てていったのです。

ただ、その時私の姿はアメリカンショートヘア。そう、ねこちゃん。

食事のある生活から、一転、明日の見えない生活へ変わってしまったの。

何日も食事にありつけない日々、飢餓がピークに達し、歩くことすら

困難になり、側道の溝で動けなくなっていたところで

紫苑くんが助けてくれたの。

冷えた体をタオルで包んでくれて、あったか~いミルク入れてくれたあとに

モ○プチを食べさせてくれたのです。

あのモン○チの味は忘れることはないでしょう。

そこで九死に一生を得た私は、今、新しいご主人様に飼われている。


どうしても、紫苑くんにお礼を言いたかった私はひたすらに念じました。

すると5日くらい前に、何故か人の体になれたんです。

どうもお月様に願いが届いたみたい。

今のご主人様は占いをされていて

新月というのは、お願いをするのには良いということ言っていた。


人の体になった私は、紫苑くんを探すため、以前助けてくれた時に

覚えていた手がかり微かなの匂いを元に町に繰り出したの。

そして今日、偶然にも紫苑くんとの再会を果たせました。


明日はクリスマス。


私が紫苑くんと過ごせる初めで最後の日。


        ☆


吐く息が白くなる翌日。

俺は、昨日の女の子と会う約束をした駅前に向かっていた。

駅へと向かいながら、思い返しているがやはり面識がないように思える。

思考を巡らせながらの時間は、すぐに俺を駅に到着させた。


今は13時50分。中々良い時間だ。

待ち合わせの駅中央の広場にあるクリスマスツリーに近づくにつれ、

やはり、今日は特別な日というのを伺わせる。


そんなことを考えていると、優しげな高い声で

「紫苑く~ん、こっちこっち」

と、昨日の女の子が手を大きく振っていた。

「おまたせって、時間まだだよね」

ちょっと、時計を見つつ焦りながら返す。

「うん、今日はうれしくて早くきちゃったんだ。」

「ぐはっ!」

(・・・プロボクサーのストレートくらい破壊力があるな)

当然、プロボクサーに殴られたことなどない。

俺はクラクラしつつ、昨日聞けなかった事から尋ねる。


「そういえば俺は君の名前知らないんだよ」

「そうだったね、私は美亜っていうの。」

「美亜さんか、かわいい名前だね。」

「ふふ、ありがとう。でも美亜でいいよ」

んん?いきなり呼び捨て?ハードル高くないっすか?


「い、いや昨日会ったばかりなので・・・」

「私は気にしないよ~。だって紫苑くんのことは前から

知っているし、私は親しみも込めて美亜って呼んでほしいな」

くっ、もう俺のHPはほぼゼロだ。


「美・・美亜さ・・美亜は、今日は何か目的とかあるの?」

「うん!紫苑くんと一緒にいるのが目的かな!」

「ぐ・・・そ・・・それじゃあ、近くに美味しいケーキ屋さんが

あるから、そこに行かない?」

「でも、私手持ちがないんだ」


「いいよ、俺は少し余裕あるから楽しもうよ。」

こうして世の中の貢ぐ君は完成していくのか。

「ありがとう、紫苑くんは相変わらずやさしいね。」


こうして、俺と美亜は少し離れたケーキ屋さんに向かうのだった。


        ☆


15分程歩いただろうか、目の前に白を基調とした建物が見える。

大きなディスプレイ用の硝子を通して、中の様子が

分かるようになっている。入口の自動扉からまっすぐ突き当たると

ショーケースがあり、本日のメインディッシュともいうべき

ホール状の色とりどりのケーキがところ狭しと鎮座している。

ショップの中では、そのケーキを買うべく10人くらいのお客さんが

色々と物色している。

また店内には飲食スペースがあり、その場で休憩もできる。


俺達も中に入り、人だかりの中、ケーキを選ぶ。

「美亜はどれが食べたい?」

「私はこのモンプ・・・じゃなくてモンブランがいいな」

なにやら怪しい名前が聞こえそうになったが気にしない。


「そ、そうだね。飲み物は何にする?」

「ホットミルク!」

「わかった。店員さん、モンブラン2つとホットミルク

それとコーヒーをお願いします。」

「はい、かしこまりました。ご用意できましたらお持ちしますので

お席でおかけください。」


店員さんに了解の旨を伝え、美亜と窓際の席につく。


しばらくすると、注文したケーキと飲み物を持って

店員さんが席に来た。

「ごゆっくり、お楽しみください。」

そう言って、お辞儀をしたあと戻っていった。


「このケーキ、おいしそうだね~!」

少しテンションを上げ気味に美亜が言う。

「このお店は評判が高いからね。間違いないと思うよ。」

「そっか、それではいただきます!」


かなり食べたかったのだろう、会話もそこそこに

待ちきれないとばかりに、ケーキにかぶりつく。


「うん、甘さも控えめでこれだったらいくらでも食べれそう!」

「評判通りだね、急いで食べなくても逃げないよ。」

美亜の勢いを見て、牽制の言葉を投げる。

この目つきは肉食動物のソレだ。


「そうだね。美味しくて制御できなくなっちゃった。

ちょっと、ミルクを・・・」

と言いつつ、ホットミルクに口を付ける美亜。

その瞬間、絶叫があがった。

「っ熱い!!こんな熱いの飲めないよ!」

厳しい口調で、ホットミルクに抗議する。

その様子をみて、俺は彼女のカップに手を触れてみる。

そこから伝わってくる熱は、そこまで声を荒げる程の

温度ではないように思えた。


「美亜はひょっとして猫舌なの?」

すこしからかい気味の温度で聞いてみる。

「それはそうよ、だって私はねk・・じゃなくて、普段そんなに

熱いものは食べない主義なの!やけどしたら大変でしょ!?」

う、ん?ねってなんだ?まぁいいか

「そっか、嗜好は人それぞれだよね。」


そんなことを話ながら、時間は過ぎていくのだった。


        ☆


ケーキ屋さんで、他愛のない楽しい話をして気がつけば

周りは暗くなっていた。

切りの良いタイミングで店を出る。

ふとみると、雪が降っていた。


刹那、腕に重さを感じて隣を見る。

すると美亜が俺に体重をかけながらしがみついていた。

驚愕で美亜の顔を覗き込むと、少し前までは

元気だった彼女の顔は色を失ってる。

「!大丈夫かっ、美亜っ!!」

状態の急変に、冷静さを保てない。

周りの事など気にできず声をあげてしまう。

「だ、だいじょうぶ、だ、よ。少し休めば、も、もとにもどるから・・」

美亜は息も切れ切れ、そう答える。

俺は、美亜につかまれた腕を、俺の首に回し

彼女を背負うように立ち上がった。


「ん、ありがと、う、紫苑くん」

「気にしないで、少し移動するよ。」

その言葉を肯定するように彼女は小さく頷いた。


少し歩くと、待ち合わせをしたツリーが見えてきた。

やはり、夜になるとカップル密度が昼に比べて、濃厚になる。

周りを見渡して、腰を下ろせる場所を探す。

ちょうど、ツリーの真下のベンチが空いてるので、

彼女をゆっくり座らせると、俺も隣に座った。

そして、状態を確認しようとすると、彼女が口を開いた。


「もう大丈夫だよ。紫苑くん、今日は一緒にいてくれてうれしかった。

ずっと、前に助けてくれた時からずっと言いたかったの。

本当にありがとう。」

「そのことが思い出せないんだけど・・・」

昨日も言われたことだが、俺には覚えがない。


彼女はその言葉に微笑むと、しっかりとした口調で

言葉を紡ぐ。

「君が覚えていないくらい、当然と思ってすることが

この日常で特別なことだってあるんだよ。

そして、そのことで私は命を救われたの。

君はずっと、今のままの君でいてね。」

「なんだか、漠然としているな」

「ふふ、詳しくは話せないの。

紫苑くん、少し体が冷えて来ちゃった。あったか~い

コーンポタージュが飲みたいな。」

「そっか、ちょっと買ってくるから、無理しちゃだめだよ」

それに対して、彼女はウィンクして答えた。


ここから自販機は1分くらいの距離だ。

あったか~いコンポタとコーヒーを買い、俺は先ほどのベンチへ向かう。

ちょっと目を離したら、彼女がまた不調になりそうで

急いで戻ろうとする。

カップルが多く急ごうとすればするほど、進めない。

ようやく人混みを掻き分けて、ベンチにたどり着く。

しかし、そこには美亜の姿はない。


ふわりふわりと降る雪は、周りを白く染める。

シルバーブロンドのアメリカンショートヘアはふわりふわり

人混みの中へと消えていくのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょうど今の時期に読んで良かったなと思いました♪ 非日常のひとこま?みたいでとても良かったと思います。 切ない所もありますが、物語だって感じがしてとても面白かったです♪ 情景描写や感情描写…
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