八日目
アイのショーから一週間が経ち、僕は檻の中にいた。結局、殴り続けたババァは蘇生され、生きているらしい。
少しだけ後悔した。人を一度殺した事よりも、彼女の想いを軽んじてしまった事を。
「保釈金が出た。今日でお別れだな」
看守の言葉に多少寂しさを感じたが、それ以上に誰が保釈金を出したのか気になった。
「久しぶりだね、ミツイ キョウヘイ君」
「あなたは! なんでウツミさんが?」
「まあ、話はここを出てからにしよう」
外に出ると、自分の異臭が途端に気になり、周りの視線から過敏になった。
「とりあえず、座っていてくれ」
「こういうとこ、くるんですね」
「まあ、好きでね。照り焼きバーガーが」
たるくて、懐かしい匂いを連れてきて、ウツミさんは戻ってきた。
「食べるかい?」
文句を言える立場ではないが、いくつもあるバーガーは全て照り焼き。ふと、リカと来たときを思い出してしまう。そういえば、旅行連れてってやれなかったな。
「いただきます」
檻の中の食事とは違った、充分過ぎるほどの油に惑いながらウツミさんに真意を尋ねた。
「どうして……」
「どうしてこんな事をするのか、かい?」
「……はい」
「まあ、簡単に言えば私自身のためだよ」
「はい? 意味が分かりませんが」
「君は、先の事件で学校を退学になるだろう。そこでだ、君の身柄は私、いやネクストライフで預かる」
「はい!?」
「ん、まだ分からないかな」
「分かれ、という方が無理があります」
「まあ、先の事件で少なからず我が社にも損害は出た。責任は負ってもらおうと思ってね」
「殺人未遂の少年を中途採用ですか? どうかしてますよ」
「我々のビジネスは殺人と何も変わらない」
「……それ、あなたが言っていいんですか?」
「要は、人の欲につけこんで殺人を手助けしている事には違いない。殺人と違うのは、加害者と被害者が同一人物、だという事くらいだな」
「……少し、考えさせてください」
「考えても構わないが、結果は変わらない。君には我が社に来て私のサポートをしてもらう」
「ええ? そんな無茶苦茶な」
「無抵抗の老人を殴り殺した君には、言われたくないな」
「あれは! あいつらが」
「まあ、だいたい察しはつくよ。少なくないからね、あういう人間は」
「知ってたんですか? だったらなんで彼女に言わなかったんですか? 彼女が死ぬ必要なんて無かったのに」
「死ぬ必要があるかどうか、決めるのは本人だ。少なくとも私は、人助けのつもりでこの仕事はしていない」
「あなたは、どんなつもりで依頼者を殺してきたんですか?」
「知りたいかい? なら、私のサポートをしたらいい」
「……分かりました。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。寮にあった君の荷物は我が社の寮に移しておいた。このカードが鍵だ。とりあえず、一週間は身体を休ませといてくれ。あとは、会いたい人がいるなら会っておくといい。うちの、いや私のところはブラックだからな。休みは期待しないでくれ」
「……もう少し、考えてもいいですか?」
「ダメだ」
こうして、僕は何故かネクストライフに入社する事になった。とりあえずシャワーを浴びたい。一週間、どう過ごすかはそれから考えよう。