六日目
「じゃ〜ん! というわけで今日はアイにキョウヘイをお貸ししま〜す!」
「僕は物かよ」
「え、どういう事ですか、ミツイさん?」
「キョウヘイでいいよ、クラスメイトなんだし」
「さ〜さ〜、さっさと遊びに行くわよ〜」
「ちょっと、リカ〜」
困惑するアイちゃんを放置ぎみに、僕達は街に遊びに来ていた。ショーの打ち合わせで、中々時間が取れないらしく、今日が最初で最期。甘いものを食べに行ったり、一緒に服を買いに行ったり、夏らしく海にも行った。
「アイも海入ろうよ!」
「え、でもわたし、水着も着替えも」
「いいからいいから」
「ひゃ〜、ちべたい〜」
服のまま、リカとアイちゃんは無邪気に水浴びをしていた。この前、教室で見た凛としていたアイちゃんは今はただの可愛い少女。なんで、こんな子が自殺ショーなんてしなきゃいけないんだろうか。
「あたし、ちょっと飲み物買ってくるね!」
「いってらっしゃ〜い」
「あ、あたしも」
「いいから、アイは待っててよ」
簡易的なベンチに座る僕達。濡れた服は夏の陽射しであっという間に乾き、身体が少しベタベタしてきた。
「リカが羨ましいです」
銀色の髪を揺らしながら、呟く彼女。
「羨ましい? なんで?」
「キョウヘイさんみたいな人と出逢えて」
「そ、それは言い過ぎだよ」
「キョウヘイさん」
「ん、どした」
「手、繋いでも、いいですか?」
これはマズイ。リカに見られたらどうしよう。辺りを見回した、その時。
「ごめんなさい、繋いじゃいました」
彼女の手は冷たかった。そして小さく。こんな手の持ち主が、今まで虐げられて、それでも誰かの為に命を使おうとしている。
「お祖母ちゃん、成功するといいな」
「……はい」
「ちょっと〜、なんでそんないい雰囲気なのよ〜」
「あ、ごめん、リカ」
「いいのよいいのよ、どんどん使っちゃって。ね、最後にアレ、乗らない?」
「大丈夫かな?」
「大丈夫大丈夫」
「ん、ちょっと気持ち悪くなってきた」
「キョウヘイさん、大丈夫ですか?」
「たく、男はだらしないわね〜」
「キョウヘイさん、手握ってたら楽になりますよ」
「あ、ありがと、アイちゃん」
「ちょっと、わたしも一緒に繋ぎたい」
「それじゃあ、三人で繋ぎましょう」
「お、もうそろそろだ」
僕達は去年できたばかりの、宇宙旅行へと来ていた。時間にして僅か十分足らずの旅行だが、球状の装置に入り、宇宙空間を漂う。全ての視角で青い星を楽しめ、今人気のスポットだ。
「……きれい」
淡い無重力空間で、短めの銀髪を漂わせながら、彼女は網膜に焼き付かせようと眼を見開いていた。その光景自体が僕には綺麗だと感じ、リカの握る力が少し強くなったのを感じた。
「リカ、キョウヘイさん、ありがとうございます」
頭を下げた勢いで、思わず一回転してしまったアイちゃん。そんな光景に笑ってしまった僕とリカ。
「でも、少しだけ。腹も立ちました」
無重力に身を任せながら、彼女は続けた。
「死にたく、なくなっちゃったじゃないですか〜」
くるりと顔を隠す彼女。次の瞬間、キラキラとした粒が僕の方に流れてきて、そして顔に当たり弾けた。僕達三人は地球に帰るまで、泣き続けた。何を話すでもなく、とにかく泣いていた。
「今日は、ありがとうございました」
別れ際の彼女の笑顔は、輝き、そして儚い笑顔だった。