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「気分が悪かったら横になって下さいね。ソファー大きいので、遠慮なくどうぞ」
「もう大丈夫だから。それよりお茶」
「お待ちください!」
何がどうなってこうなっているのか。尚親様とは関わらないって決めていたのに、家にいるよ。何だかおかしな展開になってるよね。
そう思いながら冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出し、コップを一つ棚から出して注いでから尚親様の元に出した。
「ありがと」
「いっ、いえ」
あの人の顔でお礼なんて言われると、戸惑う。
「隣座れば?」
ソファーの横に突っ立っていたからだろう、私の家なのに尚親様はそう言うと私を隣に座らせた。
「凛子、身体のどこかに変な痣とか無い?」
突然そう言われ、何故そんなことを尚親様が知っているのだろうと不思議に思う。確かに産まれた時から私の鎖骨辺りには赤みがかった黄色い花のような模様をした痣がある。
「ありますけど、何でそれを……?」
「その痣、見せて欲しいんだけど」
「えっ」
「早くして」
本当にあの人の顔でお願いをされると断れないのは今後どうにかしていかないと。この人はあの人とは違う人!違う人!
そう言い聞かせながらも素直にリボンを取ってからシャツのボタンを二つだけ外した。そして襟を下げて痣を尚親様に見せる。
「この痣がどうかしましたか?」
「さっきさ、僕のことフラン様って言わなかった?」
――フラン様、それは前世の私の婚約者で尚親様と瓜二つなあの人の名前。私はさっきその名前を口にしたらしい。正直目の前で倒れたから気が動転していて自分がなんと言ったのかなんて覚えていない。
「気のせいじゃないですか?」
「イルミナ、嘘は駄目だよ」
その言葉に思わず立ち上がり、尚親様を見下ろす。
「……っ嘘、だって、何で…」
イルミナというのは私の前世での名前で、いや、きっと聞き間違いだ。だって、フラン様がこの世界にいるはずない。
「やっぱりそうだね、イルミナ。僕のこと、覚えてる?」
……イルミナって、また言った。聞き間違いじゃないの?思わず涙が出る。もう二度と会えないと思っていたのに、何でここにいるの?
「覚えて、ます!でもっ、わた、しっ…フラン様と、違って…外見とか、変わったでしょう?何故、わっ、分かったの?」
「泣きすぎ。ほら、落ち着いて」
尚親様、もといフラン様は私の手を引くともう一度座らせ、私の頭を撫でてくれる。また会えて、そして触れてくれる。こんな幸せなことって来世でも来ないかもしれない。
だけど待って。突然のことで大人しく撫でられているけど、フラン様は私の事が嫌いだったはず。こんなに優しい顔をしているのは何故?やっぱり偽物?