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「また会ったね」
またねと言われたあの言葉の通り、数日後の学校からの帰り道に尚親様と会ってしまった。今まで帰り道に会ったことなんて無かったのに、それは偶然会わなかっただけで家はこっちの方にあるのだろうか。
「こ、こんにちは」
「なにそのとってつけたような挨拶」
本当に話し方まであの人そっくりだ。口を開くたびに嫌味ばかりで、だけどベッドから動けない私に毎日会いに来ては外の話をしてくれた。時には花だとか虫だとかを持ってきてくれて、私はそれが嬉しくて、例え嫌味を言うくらい私を嫌いなのに婚約者だという理由で会いに来てくれていたとしても、私は好きだった。
「すみません」
「別に謝らなくていいけど」
「そ、そうですか。えっと、家はこの辺なんですか?」
「それ聞いてどうするの?」
「……いえ、別に」
会話が成り立たない。もういいや、帰ろう。あの人と顔や話し方までそっくりでもあの人であるはずがない。前世の記憶を持っている私がおかしなだけ。凄く心臓がドキドキするけど、これは錯覚!
「じゃあ、これで失礼しますね」
「……っげほ」
尚親様の横を通り過ぎるときにそう咳き込む声が聞こえ振り返ると、尚親様が胸を抑えてうずくまっていた。
「フラン様っ、いや、尚親様!家、家すぐそこなんです!あああ歩けますかっ?」
「……うるさい」
「すっすみません」
「家どこ?」
「あっ、こっちです!」
本当にすぐそこで家に向かって指を指すと、うずくまっていた尚親様がすくっと立ち上がり私の手を取って歩き出した。
「あれ、身体は大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないから凛子の所で休ませて」
「名前教えましたっけ?」
「……」
あっという間な展開についていけず、とりあえず深くは考えないで連れられていくままに歩く。尚親様の足取りも軽いところを見ると、そんなに重症ではないようだ。本当に安心した。
「ここです。いま開けますね」
鞄から鍵を取り出してすぐに玄関のドアをあける。両親は仕事中でまだ当分帰ってはこない。だから尚親様を彼氏だと勘違いして騒ぎ出すことはない。
「お邪魔します」
そう言うと尚親様は靴を脱いで、それを端に寄せてから私の後を着いてきた。あの人はちょっと雑なところがあって、私に差し出した花はそこら辺で抜いてきた物だったのか、根と土がついたままだったこともあった。だからその丁寧さに驚きながらリビングへ案内した。