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「君、何でさっき僕を見て辛そうな顔をしたの?」
綺麗な外見だからか、表情の無い顔が凄く怖い。あの人は常に私を小馬鹿にし、そしてたまに笑っていたから怖いなんて思ったことが無かったのに。
「聞いてる?」
「あっ、はい!えっと……見間違いじゃないですか?」
あの人じゃないと分かっていても嫌われていたことを思い出すと凄く悲しくて、苦しくなる。だから辛そうな顔をしてしまったのだろう。だけどこんなこと言えないから、そう誤魔化した。
「見間違いか、嘘が下手だね」
そう言うと尚親様は右の口角を上げ、私を馬鹿にするように笑った。その表情が本当にあの人にそっくりで、思わず目を見開いて驚いてしまう。
「じゃあ、またね」
なぜまたねと再会する気でいるのか、そう言って私の頭に左手を乗せくしゃくしゃと髪をかき混ぜると尚親様は去って行った。全くもって、意味が分からない。
「りーんーこーちゃーん!尚親様とどいう関係なの?出て行こうとしたのにドアの前で話してたから出て行けなかったじゃんっ。ってゆうか尚親様が女の子とあんなに話してるの見たことないよぉ!」
「ちょ、ちょっと香苗ちゃん落ち着いて。私尚親様とは初めて会ったの。だから全く関係とかないから!」
きっと尚親様は綺麗だとか騒がれたことはあっても会ってすぐに辛そうにされたことなんて無かったのだろう。ってゆうか誰だって初対面で辛そうにされるなんて中々ないはずだ。だから物珍しくて話しかけてきたに違いない。
「私香苗ちゃんが尚親様を好きなの知ってるから、本当に応援してるよ!」
香苗ちゃんのお陰でクラスの子ともすぐ馴染むことができたし、こんな事で嫌われたくない。必死でそう言うと、香苗ちゃんは何故かキョトンとしたあとに笑い出した。
「へへへっ、違うよ凛子ちゃん。私は芸能人を好きな感覚と同じように尚親様を好きだって言ってるんだよぉ。恋愛じゃなくて、ただの憧れ」
「……そうだったの?」
「ってゆうか殆どの人がそうだよぉ。芸能人と本気で付き合いたいって思う?現実的じゃないでしょー。でも中には本気の人もいるから、気をつけた方がいいかも」
「うん、分かった。多分もう話すことなんてないだろうけど、一応近付かないように気をつけるね」
そう言ってから凛子ちゃんが先生に聞いてくれた更衣室までの道を急いで歩き、なんとか授業までに着替えることができた。まさかその授業の風景を尚親様が窓から見ているとは知らずに、私は身体を動かしスポーツができることに喜びを感じていた。