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「あ、夏生くんってあの人だよぉ!」
数学の授業中、香苗ちゃんが振り向き窓の外を指さすとそこにはサッカーをしている男の子の集団がいた。だけどここは三階で距離があるからあまりハッキリとは見えない。
「ふーん。それより香苗ちゃん、ちゃんと前向いて勉強しなくちゃダメだよ」
「凛子ちゃんのケチー。だって数学苦手なんだもん」
「だからってよそ見してたら余計分からなくなるよ」
「はぁい」
前世では病弱でほとんどベッドの上だったから、今勉強をしているというこの状況が私はとてつもなく嬉しい。このあと体育があるから、それも凄く楽しみだ。
「はい、じゃあここまで」
先生がそう言うと一気に騒がしくなる。そしてすぐにチャイムが鳴り授業が終了した。他のクラスがサッカーをしていたところを見ると、私たちもサッカーをするのだろう。
「凛子ちゃん更衣室行こー」
「うん」
朝先生が更衣室の場所を説明してくれたけど、迷う可能性もあるから移動しなくちゃいけない時は早めに教室を出ている。
「たしかこっちだよねぇ」
「そのはずだよ」
だけど行っても行ってもそれらしき所は見つからない。これは誰かに聞くしかないようだ。
「香苗ちゃん、そこに保健室あるし先生に聞いてみよう」
「そうだねぇ」
休み時間は短いし、そのうえ着替えなくちゃいけない。早く聞かないとと思い保健室のドアを開けると、そこには椅子に座る尚親様がいた。
「――っ」
思わず開けたドアを勢いよく閉めてしまった。後ろで香苗ちゃんが戸惑っているのが分かる。
「かっ、香苗ちゃんが聞いてきてくれない?」
「どうかしたのー?」
「いや、大丈夫なんだけど、でもお願い!」
「う、うん?」
そう言うと香苗ちゃんは私の代わりに中に入って行った。ドアを開けた時に香苗ちゃんも驚いたようで、あっと大きな声を出していた。
するとすぐにまたドアが開いて、香苗ちゃん早いなと思っていると出てきたのは尚親様の方だった。
「あっ、ご、ごめんなさい」
ドアの真ん前に立っていたから私が邪魔だろうと思い、そう謝ってから横にずれた。
あの人とは違うと分かっているのにやっぱり気になって、だけど恥ずかしくて顔を見ていられなかったから早く通り過ぎて下さいと思いながら下を向いた。だけど尚親様は中々立ち去ってくれない。
「え、な、何ですか?」
さっきから動揺して素直に言葉が出てこない。そう思いながら尚親様を見た。といっても156センチしか身長がないから見上げたという方が正しい。前世では165センチくらいだったからあの人とほとんど身長が変わらなかったのに、あの人に似た人を見上げるなんて変な感じがする。