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「尚親様だ!相変わらず綺麗だねぇ」
今は高校の入学式の最中で、そう周りが騒いでいるのは新入生代表で挨拶を行った人の見た目が色白で髪の色素も薄く、細身で格好いいというよりは美しいと表現した方が合っているからだろう。こんな人、あの人以外に見たことない。ってゆうかあの人そっくりなのは気のせい?
「あ、凛子ちゃん知らないか!今の人はね、紺野尚親様って言ってこの地元では王子様みたいだって有名なんだよー。身体が弱いんだけど、そこも儚げで魅力的だよねぇ」
両親の仕事の都合で引っ越すことが決まっており、その引越し先に進学する事を決めて入学をしたからここの事は全く知らない。今色々と説明してくれているのは教室で席が前後だという理由で友達になった地元の子、香苗ちゃん。肩までの黒髪ボブに目はパッチリとした二重の喋り出すと止まらない可愛らしい子だ。
「尚親様、中学の卒業式のちょっと前から体調崩して入院してたみたいだから久しぶりに見たけど、元気そうだよね!」
「そ、そうだね」
「あれー、尚親様興味ない?」
私があまり尚親様とやらに食いつかないからだろうか、香苗ちゃんは不思議そうにしている。
確かに儚げで美人だけど、でも見た目が本当にあの人にそっくりでそれどころではないのだ。私が前世を覚えているというのが異常なことで、見た目がそっくりだからといってあの人そのものだという確証はない。それにあの人と違って、私の見た目は前世と全く異なっている。きっとこれは、何かの偶然だ。尚親様があの人で前世も覚えているなんてそんな夢みたいなこと、ありえない。
「私は尚親様、タイプじゃないかな」
「なるほどね!じゃあ夏生くんの方がタイプかもねぇ。ここでは尚親様派と男らしい夏生くん派に分かれるんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
とにかく、私は尚親様に近付かないようにしないと。こんなにも人気者なんだから、あの人じゃなくても近付いたら嫌がらせをされるに違いない。仮にあの人だとしたら尚更近付けない。私はあの人に嫌われていたから。
「本当に凛子ちゃんがいて良かったー。仲良い子みんな他のクラスだったからどうしようかと思ったんだよぉ」
入学式が終わり教室にいくと、前の席の香苗ちゃんが振り向いてそう言った。私も友達が誰もいないところに入学をしたから不安だらけだった。人見知りじゃないけど、全く知らない土地で知らない人に話しかけるのはやっぱり緊張するものだ。
「私も友達ができて嬉しいよ」
「ふふっ、それなら良かった!」
先生が話し始めると香苗ちゃんは前を向いた。あとは今後の行事の話などでこの日の学校は終わった。尚親様や夏生くんなるものは別のクラスだし、普通に過ごしていれば関わることもないよね。