プロローグ
突然、雨が降る。雫が僕の涙と混じり、そして地面へと流れていく。何故君はこんなにも僕を悲しませるの?
「……大嫌いだよ」
呆気なく死んだ君を許さない。だからわざわざ君の墓の前で呪文を唱え、すると足元に現れた赤黒く光る魔法陣に沈み僕も死んだ。君のいない世界で生きていたって何の意味も無い。僕の死に誰かが悲しもうが、そんなものは関係ない。
◇ ◇ ◇
「尚親、本当に大丈夫?具合悪くない?」
「心配しすぎ。僕は大丈夫だから、行ってくるね」
前世で自分の命を粗末に扱ったからなのか、今回の僕はとても病弱で産まれてすぐに死の淵を彷徨うことになった。そこから成長と共に回復し、やっと最近高校生になったばかりだ。まだたまに体調を崩すけど、数日寝ていれば治る程度だ。
「気分が悪くなったらすぐに保健室に行くのよ?」
「うん、分かった」
「じゃあ、気をつけてね」
今朝顔色が悪いだけでこの心配ようだ。まぁ心配掛けてる僕が悪いんだけどね。でも人はいつ死ぬか分からない。とにかく生きて、生き延びて、君にまた会いたい。
家を出ると幼なじみが待っていた。これが女なら君かと疑うことも出来たのに、残念ながら男の幼なじみだ。
「おい、顔色悪いぞ。大丈夫か?」
黒髪短髪、スポーツが得意で学力もそこそこ。顔は格好良く身長も175センチと高い。これが幼なじみである三上夏生だ。
僕は前世と変わらず166センチしかない身長に色白で、スポーツは医者に止められているから筋肉もあまりない。だから勉強だけはしっかりやっているけど取り柄はそれだけ。顔は君に気付いてもらえるよう前世と同じだから女顔。地毛である色素の薄い茶髪に茶色い目が余計に男らしさを無くしている。
つまり、僕は夏生が羨ましいのだ。君も前世では夏生みたいな身長が高く筋肉質な男らしい人が理想だって言っていたから、もし君が夏生を好きになったらどうしようかというのが悩みだ。
「おい、返事くらいしろよ」
「朝から何十回ってそれ聞かれたから返事するの面倒くさい」
「それだけみんなお前のことを心配してるんだよ」
「分かってるから母さんには愛想よくしといた。夏生にはしない」
「なんだそれ」
とりあえずこんな風に夏生には日々八つ当たりをしているけど、それでも機嫌を損ねず笑って僕を心配する辺り夏生ってば相当僕のことが好きらしい。
前世ではクズみたいな両親と権力欲しさに僕に近づく同年代の奴らばかりが周りにいたけど、今回は本当に周りに恵まれている。だからって君が僕の全てであることには変わりないけどね。
「とにかく、ちょっとでも気分が悪くなったら言えよ」
「はいはい」
死ぬ時に唱えた呪文に組み込んだことは二つで、一つは顔はこのままであること。そして二つ目は転生した君の側に僕も転生すること。そんな魔法を命と引き換えに発動させた。
そして病気でいつ死んでもおかしくなかった君にもある魔法をかけていた。それは転生した君が分かるよう、ある目印を付ける魔法だ。
それを頼りに、僕は今日も君を探す。