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砂漠の魔女

作者: 天内君保

 小さな村に生まれたユウリは13歳の頃を境に自分の不可思議な能力に悩まされていた。

 朝になれば小鳥の囀りが聞こえたはずが幼子の話声のように聞こえ、見えない太陽が鮮明に見えたり手が火を吹いたように焼けるように熱い。

 そんな日々が続いた少女は両親や友人にそのことを話た。

 だが少女が言うその不可思議な現象は実際に他人に見せなければ到底信じてもらえるような内容ではない。

 仲のいい友人や家族からは夢の出来事だと、心無い人達からは嘘つき呼ばわりされるようになった。

 それから少女は更に物体を動かせるようにもなった。自由自在とまではいかないが、時として動かせる場合があった。


「どうしてユウリにそんなこと言うの?ユウリは何もしてないじゃない!」


 ユウリの親友でもあった同い年のカトレアはユウリが責められているといつも仲に入って止めてくれた。

 以前までは仲が良かったのに自分の能力のせいでそうなってしまう人や自分の能力までをも憤りを感じ始める。


「わたし、わたしは…」


「そんなに気にすることないってば。ユウリに何があってもわたしはユウリの見方だよ!」


「うん!」


 嫌な毎日が続いてもそんなことを言ってくれるカトレア、その屈託の無い笑顔がユウリをいつも元気づけてくれていた。


 ユウリの超能力を見せてもらおうとユウリの周りにはいつも人の群れが出来た。

 それは優しいものではなく、最初から信じているものなどいるのかという煽るような言葉で。

 その中の一人がふざけてユウリの右手を掴んだ瞬間だった。

 灯油に火をつけたような音と共にユウリの手から炎を発し、その者に火傷を負わせた。

 ユウリの小さな掌も自分の炎で火傷を負い、取り囲んでいた者、火傷を負った者は後退りし、瞬く間に姿を消した。

 怪我を負わせてしまう形にはなったけれど、嘘つき呼ばわりし能力を認めていなかったのに実際に目の当たりにすると人々は認めることを飛び越え恐怖の対象と見なすようになった。

 ユウリはしゃがみ込んで泣きじゃくった。その噂を耳にしたカトレアは、カトレアと家族だけはユウリの見方をしてくれた。


「わざとじゃないんだもん。ユウリはぜんっぜん悪くないし、その人達が悪いに決まってる!」


 この日カトレアは火傷をしたユウリの掌を水で冷やしながら帰ってくれた。


 でもユウリは村にはもういられず、数ヵ月後に家族共々引っ越すこととなった。

 別れの日、ユウリの前では泣くまいと思っていたカトレアもこの日は堪えきれず大粒の涙を溢した。


「ユウリ…ずっと、ずっと友達」


 涙しながらやっと喋れたそのカトレアの言葉にユウリは二度、三度と声にならない声と頷きで答えてお互い見えなくなるまで手を振り合った。


 それから20年が経った。


 かつてユウリが育った村にカトレアの姿はもうない。

 その村では深刻な水不足と猛暑で若い命が無くなるのも珍しくなくなっていた。

 土地の過疎化、遠くを見れば何とか見えていた砂漠が見る見るうちに村に迫って来ているのを村人は感じていて、それはいつしか「砂漠の魔女」のせいだと噂されるようになった。

 巨大な砂漠の中心には巨大な魔女の城があるのだと根拠の無い噂が広まるようになった。

 国の部隊はそんな噂など気にも止めなかったが、その噂を聞きつけ砂漠の中心を目指そうとする腕に自信のある若者が何人も足を踏み入れ結局誰一人として帰る者はいなかった。

 砂漠だということもあるが、誰一人帰って来ないというのは人々にとってはとても恐ろしく姿を見せない魔女の噂は村人にとっては真実に限りなく近いものとなっていった。

 そこで突然、当時巨大な組織になりつつあった宗教団体「オオノトリ」がある人物とその他人員を派遣。

 白い服に身を包んだ優美なその女性の名はカトレアと言った。


 そのカトレアと名乗る怪しげな女性は魔女の力である砂漠化を止めると村人に告げるとその他人員と共に軽装のまま砂漠へと向かった。

 そこには噂通り巨大な城があった。城よりずっと手前の錆びれた巨大な門はこじ開けると数々の罠が待ち受け、それは城の中に何かがいることを示していて罠から女性を護りながら男達は負傷しその場に倒れていった。

 やっと城の前に着いたカトレアは一人となり息も荒く、衣服も汚れていたが城内へ入り埃臭く薄暗い城内を真っ直ぐ進むと青白く光る蝋燭の炎に包まれた中に黒いボロ切れのような服に身を包んだ魔女と呼ばれていた者の姿を初めて目の当たりにする。


「と、とうとう見つけたわ」


 魔女は天を見るような形で固そうな椅子に腰かけていてカトレアの声がすると顔を真っ直ぐ向け獣のような丸い鋭い瞳でカトレアを睨みつける。


「周辺の砂漠化を行っている術者はあなたね。今すぐ止めなさい!これは警告です!」


「……さ、ばく?」


 久しぶりに声を発したのか痰が絡んだようながらがらとした声でそう答える。


「とぼけても無駄よ!」


「……とぼけたつもりはないよ。よく此処まで来れたねえ、此処まで来るのは……ディミトが最初で最後と思っていたのに……」


 弱々しい低くかすれた声で魔女はそう言う。


「砂漠化の話をしているの!」


「砂漠化は言う通りこのわたしだよ……。生きているということさ、生きているというのは必ず何かを犠牲にしなければならない。……生き物の命もそう、わたしはそれが大地の命だったというだけのこと……」


「な、何を。それでも他人の土地を無くそうというのはやっていいことではありません!」


「………………」


 魔女は黙り込んだ。

 カトレアは怯えた瞳を殺気に満ちた表情で隠し魔女を睨み続ける。


「それでも、どんな理由があろうと数々の人を殺め危険に曝し貴女のような存在……いや魔女の存在を、人々は許さない!」


 カトレアは自ら持っていた杖のような物の先を相手に向けた。


「自らが生きるために闘うか……」


 その言葉の直後、魔女の足元から黒い煙が勢いよく上がりそれは蛇のような形を取り魔女の全身を包み込み真っ黒いオーラを放つ。

 生暖かい風と共に蠢き続ける巨大な蛇。その不可思議な光景に驚いたカトレアは後退りするが戦闘態勢は維持したまま。


「私はお前達が言うように魔女だよ。魔女、スカアハ」


 カトレアの視界に黒い影を広げたかと思えば、瞬く間にスカアハはカトレアの背後に移動していた。


「な、どうやって……!」


 カトレアが近くで見る魔女スカアハの顔は想像とは遥かに違い、髪はボサボサで肌色は悪いのに何処かまだ若さがある、それでいて何処か寂しげな瞳。


「ぐぅッ!!!」


 何が何だか分からないままカトレアは壁まで吹き飛ばされる。後からくる腹の痛みで殴られたのだと気づく。

 相手にならない……

 絶望的な状況でスカアハは怪しげな笑みを浮かべたままゆっくりと近づいてくる。


「だめだ……殺される」



 こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわい

 絶望的な状況にカトレアは悔し涙を流した。


「名は?」


「…ぁ、かカトレア!」


 カトレアという名を聞いた瞬間スカアハの表情は固まり、周りの黒い蛇は消えそのまま硬直したように立ちすくむ。

 その気を逃さなかったカトレアは無我夢中で一か八か、杖をスカアハにぶつけ中に入ってた聖水をスカアハに浴びせた。

 頭をかきむしり仰け反り、大きな叫び声を上げて崩れていくスカアハ。


 カトレアの足元にしゃがみ込んだスカアハからは真っ白な煙が立ち込めスカアハを中心に辺り一面が光り輝きカトレアが目を背けると、女性の泣き声が聞こえた。


 視線を戻すとそこにあったのはあの時と何も変わらないユウリの姿だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 段落の最初を1文字空けず、代わりに段落の間を1行空ける手法について、当方ははじめPCでアクセスして読みにくく感じたのですが、念のためスマートフォンで開くと嘘みたいに見やすくなっていました。…
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