改めて出発
「いやー、相変わらずえげつないね、アッシュ」
セリスが感嘆しているのか馬鹿にしているのかよく分からない口調で感想を言う。なんだかな…
「別に。早くカードがほしかっただけだ」
「じゃあ何で杖で殴らなかったのかな?」
図星。
そう。あんなやつこけさせて杖で殴れば終わりだった。しかしわざわざ恐怖のなかで殺した。それは何故なのか。
「…まあ、大事な仲間だからな。ちょっとムカついただけだ」
「おお♪ツンデレだね!」
「断じて違う」
そうなのかも知れないが、こいつにそれは言われたくなかった。
「じゃ、改めて出発だ」
さっきのカードは早々に売り払い、腹ごしらえをして次の村、夜景のきれいなロロール村へ出発する。やはりこの時のワクワク感は何にも勝るな。
「夜景か~。ちゃんとした夜景って初めて見るんだよね。すごいなー…」
まだ見てもいないのにホクホクした顔でセリスが歩き出す。すると。
「グオオオオオオ!!!!!」
なにやら変な見た目のモンスターが出てきた。猪っぽいが。
さてどうしよう。この手のやつには俺の魔法は効かない。基本的に魔法というのはそれについて熟知していなければならない。炎の魔法なら炎はどういうもので、食らうとどんな理屈でどんな風になるか、など。
そして、幻術は基本的に脳の構造や精神についてを熟知していなければならない。つまり、どう思うかが分からない話の通じない奴は俺にはお手上げというわけだ。もちろんどうすれば怖がるかは分かるので逃がすくらいはできるのだが。
「どうする?セリス」
「美味しそう」
「じゃあ一人で頑張ってくれ」
俺はどこ吹く風。だって俺腹いっぱいだし、なにもできないし。
「私だって考えてるよ。アッシュはこうしてくれればいいんだよ」
ごにょごにょ。
「…なるほど」
それならできるな。ならば一度逃げなければ。
シュパパパッ
二人で普段の三倍の速さで走る。流石に見失ったようで、俺たちが隠れている岩山には近づいてきそうもなかった。
「『ザ・ミュータントプロップ』」
これは対象の見た目を術者を除いた一番近くにいる者に変化させる魔法だ。魔力消費も少なくて使いやすい。
今回はつまり、セリスが猪に変身したわけだ。
「ありがとう。じゃあ…ぶ、ブモオオオオ!!!!!」
なんか大変だな。
…待てよ?
俺はこのまま隠れているつもりだった。透明になって。しかし、今回俺はセリスに魔法をかけている。
魔法というのは同時に複数使えない。同時に使うには脳の処理能力が足りないのだ。そして俺は近接戦闘が一切できない。
つまり、俺無防備。
「…やべっ」
隠れて観戦しよう。決して警戒を怠らないようにしよう。
岩山から顔を出してどんなものかと観戦する。すると…
「ぶも、ぶもおおお」
もうすでにセリスは声真似をやる気がないようだ。なんだか足に延々とローキックしている。なんだありゃ、狡いな。
まあ多分あれくらいの位置からモーニングスター振り回してるんだろう。モンスターは例外なくでかいのだ。
あ、倒れた。もういいかと思い『ザ・ミュータント』を解く。うむ、楽な戦いだった。
「お肉ー!」
あ、頭潰した。エグいな。
じゃあまあ。今回は実況の暇も無かったってことで。