ふっかけられた決闘
今回はやりたい放題です。
「さ、じゃあ次の村へ行こうか」
「おー!」
この村での目的、すなわち夕陽を見ることはもう果たした。ならばもうこのオーレン村に用はないのだった。
「じゃあ次は順路通りに行けば…高台からの夜景が綺麗なロロール村だな。ここから…北に50キロくらいだ」
「割と近いね」
「近い村回って行ってるからな」
近い村を飛ばして別の村へ行くより、近い村から順番に回っていった方が効率がいい。冒険者学校生でも分かる。
「じゃ、チェックアウトしなきゃな…ん?」
「どうしたの?アッシュ」
「いや…なんでもない」
おかしい。なんだかフラグが立っている。だが前払いだったし、そもそも財布はある。なんだろう。
釈然としない思いを抱えながらチェックアウトする。すると…
「おうおう兄ちゃん。かわいい女の子連れてるじゃねえか、俺様に渡してけよオラ!このCランク冒険者、『筋骨』のゴート様によ!」
「「二つ名カッコ悪っ」」
あ、やべ。本音がちらり。ほら、こめかみに青筋浮かべてるよ。
つーか立ってたフラグってこっちだったのかよ。宿屋から出るとちょっと強い筋骨粒々の大男に襲われるってフラグね。
「ハッ、まあいい、俺様は心が広いんだ。そこの弱そうな兄ちゃん、俺と決闘しようぜ!お前が勝てば俺のギルドカードをくれてやる。ただし!俺が勝てば、そこの姉ちゃんは貰ってく!」
「…」
ギルドカードは、ギルドの登録証だ。基本的に必要なことはここに記録されている。
自分が持っていればそれはただの身分証明書だが、他の者が持っていると、それはその者を倒した証になり、売ると高い。Cランクなら、余裕で昨日の宿屋に半年泊まれる。
「…条件を聞こう。決闘の際、相手の生死は?」
「問わないぜ。それともてめーは問うた方が安心か?」
「いや、いい。魔法は?」
「アリだ。俺はこう見えて魔法も使えるからな!」
「OK、乗った。いつからだ?」
「今から広場に移動してやろうじゃねえか」
「分かった」
横から「こいつ乗りやがった」みたいな目で見てくる奴がいる。俺はセリスに小声で安心しろ、と言った。
「もし俺が負けたらすぐ逃げろ。お前は足が速いから追い付かれないはずだ」
セリスは頷いた。が、「心配なのはそこじゃないんだけど…」と呟いた。
「なんだ、俺が負けること自体に心配してくれてるのか?嬉しいな」
「ち、違う!」
ニヤニヤとしながらセリスを弄る。まあ、腐れ縁だしな。心配してもらうのもやぶさかじゃない。
前から居心地の悪そうなゴートがチラチラ見てくる。こいつなんか可哀想だな。
「着いたぞ」
そこは、確かに広場だ。広場ではあるのだが、どちらかと言うと…
「…公園?」
そう、まさしく公園だった。滑り台とかあるし。
「…まあ、いいだろう。さあ、始めようじゃないか」
バサ、とマントを脱いでセリスに渡す。見ると、ゴートも同じように上着をセリスに渡していた。大変そうだな、セリス。
「じゃ、じゃあ…始め!」
セリスの合図でゴートが俺に飛びかかる。得物は…トンファー!?でかい割にテクニカルな武器を!
ガッ、と音がして杖に衝撃が走る。どうやら折れたりはしてないようだ。そして俺の魔法が完成する。
「『フルブラインド』」
かけた瞬間、ゴートは転んだ。『フルブラインド』は相手を暗闇に落とす魔法だ。その拍子に首を軽く引っ掻き、新しい魔法を使う。
「『フォールレイン(偽)』」
ここからはゴートに聞こえないように。水属性魔法の雨を降らす魔法、『フォールレイン』を幻術で作ったもの。それを俺の上だけに降らして、砂場に落ちていたバケツに水をためる。
「『ホットキットコード』」
バケツを少しずつ首に垂らしつつ、『ホットキットコード』で温かく感じさせる。あとはトドメの一言。
「君の首を切ったんだけどさ。血、ドバドバ出てるよ。この分ならすぐに死ぬね」
それを聞いた瞬間、ゴートの心臓は止まった。悲しいけど、これって決闘なのよね。
セリスに手を出した罪は重いのです。だから単純に杖で殴らなかったんだろうな…