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第5話 「空なんか飛べないよな」

 二号館から三号館に行くには二階にある渡り廊下を渡らなければならない。というのも、他の校舎がそれぞれ繋がっているのと違い、二号館だけ少し隔離されたような位置に建っている。それはまるで、造り忘れたから少し遅れて造ったと言わんばかりである。それを花梨に気に入られたのは幸か不幸か――。


 柚希はそんな三号館に行くための渡り廊下で唖然としていた。自分の知っている渡り廊下とは違う姿になっていることもそうだが、それに加え、その変わりようが意味不明だからだ。台風が通過したような、爆弾が投げ込まれたような光景でもあるが、そこにはどこか人間味がある。どうしたらそうなるのかわからないが壁には人型の穴が開いており、その周りには赤い痕があるようなないような。そして当然のように天井は吹き飛んでおり、当然のようにつり橋のような不安定さを手に入れた床があった。


 しかし柚希が驚いているのはそこではない。


 そんな豪快な破壊が渡り廊下で起きていたということに気付かなかったことに対して驚愕せざるをえなかった。これだけの爪痕を残すほどだ、そうとうな戦いがここであったはずである。それこそ台風による暴風の吹き荒れるような音や、投げ込まれた爆弾が爆発した音くらいあってもいいものだ。だが、それらしき音など皆無だった。


「マジかよ……。まさかとは思うが、花梨先輩たちか? ついに音を発てずにここまでのことができるようになったのか。……どこで会得したんだ?」


 どこで会得したかはともかく、あの三人が忍者並み――いや、それ以上のスキルを会得していたとしたら、この部活動で柚希が勝つ可能性はないに等しい。基本的に猪突猛進、獅子奮迅、粉骨砕身の権化である彼女たちが、全く逆ベクトルの無音殺傷を会得したというのなら、忍者も思わず音を発てて逃げ出してしまうことだろう。


 本格的に彼女たちは軍隊と対等な戦いができるレベルに達している可能性がないとは言えない。一介の高校生である彼女たちにそこまでできるとは到底思えないが――思いたくないが、そんなことが柚希の脳裏を長い廊下をもの凄い速さで雑巾掛けしているかのように何往復も過ぎっていく。汚れが綺麗になくなった廊下の板が、雑巾との摩擦によって磨り減り始めてもおかしくはなかった。雑巾がダメになるのが先か、廊下がダメになるのが先か――あるいは摩擦熱によって煙が出始めるのが先か。


 それだけの脅威がこの校舎に潜んでいる。


 今も尚、音も姿もない。


 柚希は不安定な床を超えて行けるかを考えたが、どう考えても崩れるイメージしか湧いてこない。


「仕方ない」空を見上げて言った。「空でも飛ぶか」


 飛んで行けば、足場の悪くなった廊下など関係なく、三号館に渡って行ける。途中でなにかのアクシデントに巻き込まなければ、地面に落ちることはまず間違いなくないだろう。そのなにかに巻き込まれてしまうと、普通に地面に落ちるよりも重傷を負うことになるが、やむをえない。そのリスクを考えても飛んで行ったほうが、効率がいい。


 人間は空を飛ぶことができる。


 誰かがそう教えない限り、飛べることはないだろうが、信じる者は救われるのだ。信じる者は、誰もが不可能だと思ったことを悠々とやってのけることができる。想いの力とは偉大だ。漫画や小説、はたまた海外映画までが想いの力でピンチを切り抜けることができている。しかし、それは創作物の話だからであって、現実では到底信じられることじゃない。


 だが、花梨曰く、ここは二次元らしい。


 ならば空を飛ぶことくらいのことは造作でもないことではないのか?


 柚希は廊下の先に見える三号館を見据える。


 距離はほんの数メートルでしかない。


 一度深呼吸をして息を整える。


 そして――



 踵を返した。



「空なんか飛べないよな」


 そう呟きながら、歩を進めていく。


 目指すは四階へ行くための階段。


「こんな天気のいい日はお茶でも飲んでたほうがいいや」

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