あの子に首ったけ
わたしには、すんごくかっこよくて、優しい彼氏がおります!しかも家柄もいいからまぁ大変。平凡で庶民なわたしにあの彼氏は相応しくないと、嫌がらせがしょっちゅう。その中でも、最近困ったのがあってね……
<校舎裏>
パシャッ!
「あ…ふ、ふん!貴女がいけないんですのよ!身の程?を弁えずに桐生さまに纏わりついているんですから!せっかく何度も忠告しましたのに。これに懲りたらもうあの方の周りをうろちょろするんじゃありませ…なくってよ!貴女など、風邪でも引いてしまえばいいんだわ。それでは、ごきげんよう。」
・・・・・・・・・・・・
「梨井奈、勝手に一人でふらふらするなとあれほど……なんだこの水溜まり。あ、靴に少し掛かってるじゃないか。早く脱げ。拭くから。」
「…………………ぐふっ。ぐふふふふふ~」
「……またか。」
「なにその呆れた目は~!だってしょうがないじゃぁん!あんな可愛い人見たことないんだもん!一生懸命考えた悪役っぽい台詞とか、嫌がらせとか、プルプル震えながらやってるんだよ!?しかも最後はやりきった感があるのか、素で『ごきげんよう』って言っちゃうし。もうすんごい可愛い!!ぜひともお近づきに、いや!友達になりたいっ!!」
「お前、嫌がらせをしてるやつと友達になりたいとか…どんだけだ。」
「こんなの嫌がらせに入らないしっ。水を頭からかけるならわかるけど、足下に、しかもコップ1杯分だけかけるって!この間なんか、多分ノートをぐちゃぐちゃにしたかったんだろうね。でも出来ないからって隅っこの方にちっちゃく『おバカさん!』って書いてたんだよ!?見たときには思わず悶えちゃったわ。可愛いすぎて。そんなんが嫌がらせの内に入るとお思いで?桐生サマン?」
「その名で呼ぶな。確かに悪意のあるものではなさそうだが、いい加減鬱陶しい。そろそろ芽を摘むぞ。」
「ダメダメ!勝手に動かないで!ちゃんとタイミングを見計らわないと!モエナちゃんのオトモダチになれないでしょう?ぐふふ。オトモダチになったら~とりあえずお嬢様がいつもは行かないような場所に遊びに行ったり~うちの狭い部屋でお泊まり会とか開いちゃうんだもんねぇ~。あ~楽しみだわぁ~。」
「…………それじゃ俺と一緒にいる時間がなくなるだろ。」
「え~、いいじゃん別に。夕奈とはいつも一緒にいるんだし。」
「嫌だ。梨井奈の傍にいるのは俺だけでいい。」
「わたしはモエナちゃんといちゃいちゃしたい!可愛いは正義だ!」
「なら俺も若林といちゃいちゃする。」
「いやそこは御付きの人じゃなくて『浮気してやる!』ぐらい言いなよ。」
「……俺は梨井奈一筋だ。」
「…………(何この子可愛い!モエナちゃんに嫉妬してる夕奈可愛いぃぃ!)」
「梨井奈?」
「あ、うんごめん。何でもない。夕奈可愛いなんて思ってない!」
「……可愛くて構ってくれるならそう思われてたって別にいい。梨井奈だけだから。」
「……(んもぅ!悶え殺す気ですか!氷の王子の異名を欲しいままにしてる夕奈が!わたしだけにデレるとか!もぉハァハァペロペロなんですけど!)」
「だから梨井奈。あんな女と仲良くなんかしないでくれ。」
「それは無理!」
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<廊下>
「へぶしっ!」
「大丈夫か?風邪でも引いたのか?」
「ん~なんだろ。昨日髪の毛乾かさないで寝ちゃったからかなぁ。ちょっと寒気がするかも。」
「なんでそんなこと…」
「だって仕方なくない?誰かさんが髪の毛乾かす係りなのに、模擬テストかなんかで帰りが遅くなるからぁ~。待ってたのに~。」
「それは……悪かった。じゃあ俺が責任をもってかんびょ」
「あっ!さっきモエナちゃんは『風邪でも引いてしまえばいいんだわ。』って言ってたから、責任感じるかも!そこを狙ってお近づきに…ぐふっ」
「……(絶対知らせないようにしないと)」
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<夕奈宅>
「…38度か。待ってろ、今医者を呼んでくる。」
「いいっていいってぇ~。薬飲んで寝てれば治るから~。こんなことでお抱えさん呼んだらカワイソウだよ?美羽さん(夕奈の母)にも心配かけちゃうし。」
「……(母さんなら親父に軟禁されてるところだろうが言うまい)なら今日は俺が付きっきりで看病する。」
「それもいらない。」
「…なんで。」
「(しょんぼりしないで可愛いから!)夕奈はちゃんと寝て明日学校に行ってよ。そしてモエナちゃんに遠回しにお見舞いに来て欲しいと伝えるのだっ!」
「却下」
「それこそなんで!!」
「あの女に梨井奈は渡さない。……梨井奈、いい加減俺だけを見ろ。じゃないと何するか分からない。」
「わたしは(男の中では)夕奈しか見えてないよ?こーんなかっこよくて優しい彼氏がわたしみたいな平々凡々女でいいのかって不安になるぐらい。夕奈こそ、わたしなんかでいいの?」
「梨井奈じゃなきゃ駄目だ」
「ふふっ、良かった(話題がそれて)。今日はダメだけど、明日からまた一緒に寝ようね。だからそのぉ…離して?ちょ、この手はなに!わたし風邪引いてるんだってば!うつるから止めなさいっ!」
「汗をかけば熱も引く。どうせ明日は休まなくちゃいけないんだから、このままシよ?大丈夫、梨井奈は動かなくていいから。」
「そーゆー問題じゃないってーの!」
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<翌日の夕奈宅>
「ご、ごめんなさい。わたくしのせいでこんな……謝って許されるものでは
ないですけれど、どうしても言いたくて……」
「自己満足だな。許さんから帰れ」
「夕奈!ごめんね?わたしは大丈夫だから(ってか水掛かってないし)。とりあえず座らない?夕奈、お茶頼んできて?」
「……………」
「おねがい」
「……分かった。すぐ戻る。」
パタン
「やっと行ったか…えーっと、モエナ…じゃなくて、萌花さん。わざわざここまで来てくれてありがとう。すんごい嬉しい!」
「怒ってないんですの?」
「ん~ちょっとは怒ってるかなぁ。なんであの子の言いなりになってるんだろうって。」
「!!」
「分からないと思った?ざんね~ん!梨井奈さんは何でもオミトオシなのよ?……だから、萌花さんの口から聞きたいな。今までのこと。」
「…………本当は、こんなことやめるべきだと思いましたの。何度も、止めようとしましたの。でも、その度にもし嫌われてしまったらと考えてしまって……梨井奈さんには本当に悪いことを……」
「あ~そこら辺は気にしないで。萌花さんのは可愛いイタズラレベルだから。むしろあの子自身がえげつなーいぐらい色々してくれちゃってるからね。」
「え、……」
「萌花さん気付かなかった?あの子、貴女を隠れ蓑にして、散々やらかしてくれちゃってるよ?そろそろ頃合いかなと思ってたから、こうやって話し合えて好都合だったんだよね。……ごめん、大切なお友達、一人いなくなっちゃうけど、わたしには止められないの。夕奈が許さないから。」
「いいえ、いいえ!わたくしがいけないんです!もっと早く彼女を説得出来ていれば、こんなことにはならなかったのに…!」
「泣かないで萌花さん。あの子の代わりにはなれないけど、新しい『わたし』っていう友達は作れるよ?」
「梨井奈さん……!貴女はお人好しすぎますわっ…こんなわたくしのために、愚図で一人じゃなにも出来ないわたくしのためにっ……」
「いやだなぁ~萌花さんってば。貴女は何でも出来るよ?だってあの嫌がらせ、萌花さんが考えたんでしょ?ちょーっとその方面は才能がないみたいだけど、それを別のことに役立てればいいんだよ!何かはさっぱりわからないけどねっ!ハッハッハ~」
「梨井奈さん、あ、の、…ありがとうございます。」
「!!(やっべーちょーかわゆすなんですけど!犯罪級!上目遣いのはにかみ照れ笑顔なんて理性吹っ飛ぶやないかーい!……いっちゃう?今なら許されるか!?)」
「ストップ」
「夕奈!!」
「梨井奈、俺が昨日言ったこと全然分かってない。あとでお仕置きな。」
「(チッ!モエナちゃんに抱きついてスリスリハァハァしようとしてたのがバレたか!)」
「あの、梨井奈さん?どうかなさいまして?」
「んーん!何でもなぁい!とりあえずまぁそんな感じだから、萌花さんには悪いけど明後日お休みしてくれる?」
「え?」
「さすがにお友達が罠に嵌められるのを見たくはないでしょう?明日は罠の下準備をして、明後日には嵌めるつもりだから。」
「…………いえ、わたくしもその場に立ち会いますわ。」
「いいの?」
「ええ。もう、何も出来ない愚図なわたくしから卒業したいんですの。それに、梨井奈さんたちばかりに泥を被せる訳には参りませんわ。」
「(いや~わたしはわりかし楽しんでるんだけどねぇ)あの子のことだから、どんな罵詈雑言浴びせるかわからないよ?」
「承知してますわ。……昔は、ヒーローだったんですのよ?男の子にからかわれるわたくしを守ってくれて。それが、いつからでしょうか。歪んでいってしまったのは……」
「萌花さん」
「せめて明日ぐらいは、昔のようにお喋りしたいですわ。何もしがらみがなかった頃のように。」
・・・・・・・・・・・
「病み上がりなのに長居をしてしまってごめんなさい。もうお暇しますわね。ごきげんよう。」
「萌花さん!わたしも(主に夕奈のせいで)友達少ないからあんまり偉そうなこといえないけど、これだけは言わせて。友達だからって全部をさらけ出すのは無理なんだよ。そんなの、感情がある人間にとっては出来ないことだと思ってる。だけど、悪いことは悪いって、駄目なことは駄目だって言う権利が友達にはあると思う。それを言わせない関係は、もう対等な友達じゃなくて、上下のある関係だよ。あの子は間違えた。友達だから何をしてもいいって。何をしても許されるって。でもやり直すことが出来るのも、友達だと思うの。わたしたちにチャンスは与えられない。友達じゃないもの。でも、萌花さんは出来るよ。貴女が今度こそ自分が思ってることを言えるのであれば。」
「…………ありがとう、ございます。ごきげんよう。」
パタン
「……言いたいこと、伝わったかなぁ。」
「さあな。」
「ヒドイ!一生懸命考えたのに!」
「あとはあの女が決めることだろ。俺たちは俺たちでやることがある。」
「うん、そうだね。……しっかしこれは頂けないねぇ。さっきはモエナちゃんの為にああ言ったけど、あの子が改心とかカッコ笑な感じだよねぇ。」
「あの女が庇い立てしても許さない。俺の梨井奈に……!」
「あのぉ~、ユウナさん?写真見ても冷静でいてね?後がコワイの、わたしだからね?理性保ってね?あくまで偽者だからね!」
「……なるべく努める。」
「……(不安だぁ~~!)」
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<翌々日のパソコン室>
「フフッ、これであの女も終わりね…ったく、萌花が役立たずだから、結局あたしが動くことになったじゃない。まぁいいわ。これで桐生様はあたしのものね。」
ガラッ!
「なんでそこで夕奈があんたのものになるか分からないけど、茶番は終わりだよ~、ユカリさん?」
「なっ!なんであんたがここに!」
「イヤだな~わたしがユカリさんをここに来るように仕向けたからに決まってるじゃ~ん!大体、おかしいと思わなかったの?いきなり家のプリンターが壊れて、ちょうどよく今日『だけ』パソコン室が開いてるなんて。出来すぎだと思わない?」
「!!」
「最初っからユカリさんを誘き出すためだったんだよ。『なに』をするかは事前に把握してたからね。しっかし、すごいねこの写真。どっから拾ってきたの?本物の良家のお嬢様なら卒倒モンだよ?こんな、AV顔負けの乱交写真。しかもご丁寧にわたしの住所と電話番号、名前まで入れて。個人情報保護法ナニソレって感じだね。これ、嫌がらせじゃなくて立派な犯罪だよ?」
「…………あたしは!たまたま見つけただけで!あんたこそ、こんな写真見られたら終わりなんじゃないのっ!?」
「ま~いくらわたしではないとは言え、こんなのが出回るとちょっと困っちゃうなぁ。でも、夕奈が処分するだろうし。見た人ごと。ハハ……(本気で)」
「ふん!桐生様だってこんなの見たらあんたなんか相手にしないわよ!ただのビッチじゃない!」
「だからお嬢様がそんなこと言っちゃダメだって……。残念ながら夕奈は信じないよ。こんなことする暇がないのは夕奈が一番よくわかってるからね。四六時中一緒にいるのに、出来るわけないでしょ?ちなみに、家もほぼ夕奈宅で過ごしてるから。文字どおり『四六時中』なの。夕奈が離してくれないから~。」
「…………なんで、なんであんたみたいな女が!桐生様に相応しいのはあたしよ!婚約の話だって!」
「それはとうに断ったはずだが。」
「桐生様!」
「夕奈、遅くない?」
「すまん、中々親父と連絡が取れなくて。予想はしていたが。…さて、俺の梨井奈に手を出したこと、後悔させてやろうか。…名前知らないが。」
「何回言ったら覚えるのさー!ユカリさんだって!わたしも名字は知らないけど!(ウソだけど)」
「梨井奈のことさえ分かっていれば十分だろう?他の女の名前なんて、知る価値がない。」
「んーもぅ!夕奈ってばん!照れるっ!」
「…………でも、桐生様のお父様はいいって、」
「いいは"良い"じゃない。"どうでもいい"の方だ。親父は母さん以外に興味がないからな。だが母さんが正式に断りの連絡をしたはずだ。」
「ですが!こんな女よりあたしの方が!」
「黙れ。梨井奈に言われてたから何もしなかったが、俺はさっさと潰したかったんだ。俺以外のやつに梨井奈の意識を持ってかれるなんて、我慢出来ない。」
「つぶし!?」
「あ~割り込みますよぉ~。わたしにも喋らせてよねぇ。ふぅ、ユカリさん?ここで問題です!桐生家を敵に回したあなたはこれからどーなるでしょうか!①、どーにもならない。②、桐生家の傘下に入る。③、一家で路頭に迷う。お答えください!」
「は、はぁ?あたしに何か出来るわけないじゃない。そんなこと、萌花が黙って、」
「わたくしは何も致しませんわ。」
「萌花!!」
「萌花さん、やっぱり来ちゃったんだ。」
「けじめ、ですもの。ユカリさん、これはわたくしと貴女の問題です。家を巻き込むつもりはありませんわ。」
「…………あんた、あたしを裏切ったのね!?あんたが今まで誰のおかげで普通の人並みに過ごせていたのかわかってんの!?愚図でノロマで一人じゃ何にも出来ないあんたを、あたしが面倒見てやってたのよっ!?それを仇で返すなんて……!最低よ!あんたのために友達になってやったのに!大体あんたがさっさと親に言ってこの女を排除しないからあたしがこんな面倒なことしなくちゃいけないんじゃない!ほんっと役立たず!あんたのせいで何もかもお終いよ!」
「…………」
「萌花さん?これっぽっちも気にしなくていいからね。ぜーんぶユカリさんの言いがかりだから。ユカリさん、さっきから言ってるけど、口悪すぎ。お世辞にも育ちがいいとは言えないよ?」
「庶民のあんたに何がわかるのよ!!」
「そうだね。わからないし、わかりたくない。お祖父様が苦労して立ち上げて、あそこまで大きくした会社をまるで自分の手柄のように食い潰して平然としてられるあなたの両親とあなたの気持ちは。呑気にこんな下らない嫌がらせをしているユカリお嬢ちゃんは父親の会社がどれだけ赤字経営か知ってる?倒産寸前、桐生家が何もしなくても遅かれ早かれ潰れる運命にあるんだよ。申し訳ないと思わないの?一生懸命働いてる社員の人たちに。思わないかもねぇ~。下々のものは自分たちのためにあくせく働けばいいんだって高笑いしながら言ってるような性根の腐った人だもんね。でもこれからは一家揃って"下々"のものだよ。」
「ど、ういう」
「そこでさっきの答えです!答えはぁ~……②番!桐生家の傘下に入る、でしたぁ~!パチパチパチ~。まぁ正確に言えば吸収合併だね!これがどういう意味かわかる~?」
「…………ぁ、」
「わかったみたいだねん!さーて、急いで帰った方がいいよ!会社の借金までは肩代わりしてないから、今頃お家の隅から隅まで差し押さえられちゃってるぞ☆」
「!!どきなさい!邪魔よ愚図!」
バタン!
「ユカリさん……」
「行っちゃったね~。今から行っても後の祭だろうけど。」
「あの、ユカリさんのお家は本当に?」
「全部本当だよ。会社が桐生グループのものになったのも、家を差し押さえられてるのも。…辛い?」
「いいえ!むしろ、ありがとうございました。ユカリさんにチャンスを与えて下さって。これでユカリさん、やり直すことが出来ますわ。わたくしのことはもう顔も見たくないでしょうけれど、影ながら応援しようと思いますわ。梨井奈さん、今まで本当にすみませんでした。」
「いいんだって~。顔あげて?萌花さんがわたしの友達になってくれるなら、許してあげるから!」
「梨井奈さん……!」
「ダメ?わたしが友達じゃイヤ?」
「そんなこと!むしろ、わたくしがお願いしたいぐらいですわっ!」
「じゃあ問題ないね!あ、ここはわたしたちが片付けておくから、先に帰ってて?また明日!」
「……ではお願い致しますわ。今度、わたくしの家に遊びにいらしてね?お母さまたちに紹介したいわ。」
「もっちろん!じゃあ、気を付けて。」
「ええ。ごきげんよう。」
パタン
「……おめでたい女だ。あれであの女が救われたと思ってるなんてな。」
「いいんだよぉ~。モエナちゃんはあれで。否が応でもいずれは汚いことを知らなきゃいけないんだから。今は綺麗なモエナちゃんが好きんっ!」
「……俺は」
「イヤだん!夕奈が一番好きだよん!」
「ならいい。」
「(んもぅ!やっぱり夕奈は可愛い!)……モエナちゃんは気付いてなかったけどさ、人を傅かせ、人を使うことしか知らないムダーに高いプライドの人たちが、今度は自分がその立場になるっていうのは、ある意味死よりも辛いことだよねぇ。しかも、今まで下々と呼んでた人たちよりも下。むしろ最下層で働くなんて、もしかしたら堪えられないかもね。まぁそれが狙いなんだけど。」
「まぁな。一家離散よりも遣り甲斐はあったし。……だが足りなかったかもな。こんなものまで作りやがって……!」
「あ~落ち着いて?言ったでしょ?ホンモノじゃないよ?ニセモノだからね?わたしこんなことしないからね?ねっ!?」
「わかってる。でもやっぱり抑えきれないから、今日は優しく出来ない。」
「夕奈さぁ~~~ん!」
~~~~~~~~~~~~
<翌日の中庭>
「ご迷惑じゃありませんでしたか?急にお昼を一緒に取りたいなんて言ってしまって。」
「大丈夫大丈夫~!むしろ嬉しいよ!萌花さんと親睦を深めるチャンスだもん!」
「そう言ってもらえる安心ですわ。……昨日のこととか、まだちゃんとお話してなかったですし。」
「うん、そうだね。クラスは大丈夫そう?」
「ええ。皆さんとても良い方ばかりで。どれだけわたくしの世界が狭かったか、よくわかりましたわ。」
「そっか。これからもっと広がるよ。」
「そうですわね。……それで、突然なんですけれど、わたくしイギリスに留学しようと思いますの。」
「え、ええぇぇぇぇぇ!?なんで急に!?」
「ある方に言われましたの。視野が狭すぎるって。だからユカリさんに言いように使われるんだって。わたくしもそう思いましたわ。ですから、ここではないところで、色んなことを学んで来ようと思いますの。……せっかく梨井奈さんのような素敵な方と出会ったんですもの。梨井奈さんの隣に立てる立派な人になりたいんですの。応援、してくださるかしら?」
「~~~~!!するよ!するに決まってるじゃん!いきなりイギリスとか寂しすぎるけど、長期休みは遊びに行ってもいい?」
「勿論ですわ!それとその、お願いがあるんですの。」
「なに?なんでも言って!」
「わたくしがイギリスに行っても、離れ離れになっても、お友達でいてくれますか……?」
~~~~~~~~~~~
<ある日の屋上>
「あ~行っちゃったねぇ。」
「見送り、良かったのか?」
「うーん、本当はしたかったんだけどね、見送りされると行きたくなくなっちゃうかもしれないからって。どこまでも可愛いんだよね、モエナちゃん。」
「ノックアウトされてたしな。」
「だって反則じゃない?あんな可愛いこと言うなんて!頼まれなくてもずーっと友達でいるってーの!はぁ。寂しい。」
「…………」
「ねぇ夕奈。本当は今日家に帰る予定だったけど、一緒にいていい?なんか今日は離れたくないな……」
「わかった。なら今すぐ家に帰るか。」
「へ?今じゃなくて、って!どこ触ってんの!いや、ちょ……んん!」
「離れたくないって言うから。ずっと繋がってればいいだろ?」
「そーゆー問題じゃなーーいっ!!」
本当はもっと短い予定でした。そして気づく人は気づく、裏設定有り。
ちなみに、梨井奈が"モエナちゃん"と"萌花さん"で呼び分けてるのは、自分の名前で韻を踏みたいから。夕奈が突っ込まないのはただ名前を覚える気がないから。……こんな設定いらなかった。