月影の海
私は海下を見つめた。
月は輝いている。
真夜中に落ちた月は海に沈んで、星と同じ輝きを放つという。
誰しも見ることのない幻想の国。
そこへ行くとどうなる?
空はあわい波を運び、雲は世界を誘っていく。
太陽は惶々と輝くけれども、誰もその姿を見ることはない。
海だけは普遍的に澄み、幾つもの不思議を受け入れて包み込む。
その海の下で、月が星に紛れて輝き続ける。
そんな場所。
波がそよぐ。
月影が夜の海に揺れていた。
星は漆黒の夜空に瞬いて、潮風が髪を撫でていく。
たとえ時計塔の針が真夜中を知らせても、なんら変わることはない。
腰掛けた桟橋から素足を投げ出す。
月影が揺らいで、きらきらと足に触れた。
そして気付いたんだ。
月は遥か頭上で確かに輝いている。
私は口元をゆるめた。
灯台守も塔の中で、静かに寝息をたてる頃。
腰掛けた桟橋の上で、きっと大人も知らない秘密を知る。
島の誰もが知っていて、行くことのできない空想の国。
私はその断片を見た。
桟橋に腰掛けて確かに見た。
闇夜に昇る月より強く、波間に浸した足下で、きらきらと月が瞬いていた。
2005年頃初掲分