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黙々と、しかし心の中は荒々としていると不意に、イアが口を開いた。
「ねぇ。あれ見てよ、あれ」
「ん?」
イアが指を指した方向には先程からやっている魔法少女アニメの映像が流れていた。
場面的に今回のボスとの戦闘シーンの直前だろうか。
「それがどうしたよ」
「あ、待ってもうちょっとで変わるから。……あ、今!」
指示通り遅れなく再びテレビの映像に目をやる。
するとそこにはよくある変身シーン。
背景の色が変わったり体が光り出して服装が変わったり台詞を言ったりしている。
まあテンプレだよな。
「それがどうしたよ?」
「魔法少女イア、物申す!」
「うおっ!?」
何かノリノリみたいなので便乗してあげよう。
ちょっと憤った様子のイアが小さく息を吸い、そして小さく吐く。
一体何が来るんだろうか? 予想がつかなかったりする。
そしてイアが口を開く。
「どうして変身シーンが無敵状態なんだよ!」
「……あー」
同業者故の意見か、いや、俺も何度かそう思ったことが無くも無いか。
確かにそうだ、何にせよ変身シーンって攻撃されない気がする。
「で、それがどうしたって?」
「ふざけんな!」
「えぇ!?」
突然荒ぶり出したイアに俺は動揺の色を隠せない。声色もいつもと違い、ちょっとだけ低い気がする。まあ、十分高い声に分類されるが。
「変身っていうのは本当は攻撃されるんだからねー。唯一の隙と言っても過言ではないんだからねー」
「うっわ、視聴者の夢を壊す現場の秘密とかうっわ」
「っていうか、プリキュアってリアリティ欠けるよねぇ」
「言っちゃった! 名前出しちゃった!」
いやそれプリキュアに限らないから、寧ろそのリアリティ無いのが二次創作の一種の特徴とも言えるからな!
にしてもイア、プリキュア嫌いだったのか……。
俺は割と好きなんだけどなぁ。
「因みに元春はプリキュアで何が好き? 私はなんだかんだプリキュア5がプリキュアシリーズの中で至高の存在だと思うんだけど」
「お前プリキュア好きじゃねぇか!! 因みに俺はマックスハートが一番だと信じているね!」
初代の次の奴ね。
失速せずに良い話だったと思う。5も割かし好きだぜ。
「でも俺はやっぱりおジャ魔女どれみの方が好きかな。世代的にもだし何よりOPが耳に残っているし」
「おジャ魔女どれみかぁ。イアあまり知らないなー」
あら、どれみ知らないのか。
時代の差を感じるな。
「ならセーラームーンは? あれなんて時代を股にかけて躍動するアニメの一つだと思うけど」
「ああ……この前元春がこっそり私にバレないように借りてきたDVDか」
「誤解を与えるような言い方をするな! 別に俺はイアに隠すつもりなんてなかったしこっそりとも借りてきてねよ、堂々と借りて来たよ!」
懐かしかったから借りてみただけだ。
ショップのお姉さんに「こういうの好きなんですか?」と、にやついた表情で言われたがな!
「冗談だよ冗談。でもイア、あれ一話のAパートで切っちゃったんだよね」
「何故に。ギャップでもあった?」
「いや、ちょっと作画が……」
「お前作画厨か! ストーリーや設定云々よりとにかく作画を優先してしまう作画厨か!」
「作画って、大事だよね。購買意欲をそそるかそそらないかの一種の天秤とも言えるよね」
「見た目十差未満の幼女が言う台詞では無い!」
「いや、萎えね?」
「お前何歳だよ」
色々と発言には気を付けろ。
ファン離れするぞ。
まあ、これはこれで需要あるんだろうから特に注意を促したりはしないけど。
と、ここで小休止。というかおしゃべりストップ、朝ごはん再開。