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ていうか考え事してたら帰るの遅くなるな。今更気付いたが遅くなるな。
ちょっと早歩き気味にするか。
「おい」
加速し始めの俺の耳に、後方から不意に聞こえてきた呼び止める声。俺はぴたりと足を止める。
それは――聞き慣れない声であった。
だけど、その声は俺の家に住みつく幼女に似ているような気がしないでもなかった。
声質が似ている、とでも言おうか。
周りには誰も居ない――だからきっと、呼び止められたのは他でも無く俺だ。
けれども俺は再び足を前に運び始める。
別に、怖いからでは無いし、実は死角に入っていて気付かなかったが人が居てその人に話しかけていて俺がよぅとでも返事をして恥ずかしい思いをしてしまうのが嫌だ、という訳でもない。
ただ、早く帰りたいだけだ。
という訳でそそくさと御暇させてもらおう。さようならどっかの誰かさん。多分声的に少女なんだろうけど面倒臭いしさようなら。
「おい、アンタだよ――伊波元春」
刹那、その言葉と共に歩き出そうとした俺の足元に一本の黒光りした鉄が飛来し、アスファルトに突き刺さった。
「………………!」
絶句。
背筋が凍るとはまさにこのことだろう。
「某手裏剣だよ」
静止した俺に向かってそれはそう説明してきた。
棒手裏剣、名前の通り手裏剣の一種なのだろう。正直その方面の知識には疎いためこれ以上は何も分からない。
ただ、もう一つ分かるのは、これは人を攻撃する――人を傷つけるための道具であるということだ。
「ビビった? ……いひひ」
意地の悪い笑い声が聞こえてくる。
それは、まるで大人を上手く騙したような子供の心の中で出ていそうな笑い声であった。
先程も言った通り多分この声の主は少女、いや、幼女だろう。
ていうかこりゃビビるって。ビビるどころじゃ無いって。
さっき、怖くないって言ったけど訂正。
超怖ぇ。
「ねーぇ、ちょっと何か話してよー。これじゃ私の独り言パーティーナイトじゃん」
少なくともこれはパーティーではねぇ。
「……あ、まさかビビり過ぎて小便漏れたとか? ……いひひ」
またその笑い方かよ。
ちょっとだけ可愛いから憎めないんだよなぁ。
だがこれ以上黙っていると完全に怖気着いた負け犬だ。
「……漏らしてねぇよ。漏らす予定もねぇよ」
「お、しゃべれんじゃーん。……いひひ」
口癖なのだろうか。
「いやー、ようやく事が進みそうで何より何より、うん」
俺が口を開いたことによって何らかの進展があるらしい。