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魔法少女の日常  作者: 道の人
第一話
1/68

Prologue

 Prologue



 ――俺は、絶命の危機に瀕していた。

「なんなんだ……!!」

 別に今日の朝の占いが思わしくない結果だった訳では無い。

 別に今日が曰くつきの日付だった訳では無い。

 いつも通りの週末、金曜日の夜。

 コンビニバイト帰りの俺はどういう事か

「どうして怪物に追われなくちゃならないんだよ!?」

 必死で腕を、足を、体全体を動かす。

不意に。

 ちょっと高めのアイスを買って、幸せ色にさえ見えていた周りの風景が突如、日曜朝に放映されている魔法少女アニメに出てきそうな、正直言って気味の悪いカラフルで埋め尽くされていると共にどう言えば良いのか分からない奇妙な生き物や植物が所々にある風景に変わったのである。

 そしてそこに居た風景と同じくカラフルで気味の悪い怪物。

 まるで、俺を待ち兼ねていたと言わんばかりに、だ。

 何の予兆も無くこの状況に置かれた俺の心境がどのようなものかは安易に想像がつくと思うので特に説明はいらないだろう。

 生死を賭けて、俺はこのファンタチックな世界を走る。

 仄かに甘い香りがするのは所々にお菓子の家があるからだろうか。

 上を見上げると空は無く天井のようなもので閉鎖されており、そこからは紐のようなもので気味の悪い女の子のぬいぐるみが吊り下げられており、それは――生きているようだった。

 言葉にならない声を挙げながら、俺をサーカスの出し物を見る時のような表情で面白がって見ている。何と気分が悪く、何と気持ちが悪いことだろうか。

「(ち、畜生……俺が一体何をしたっていうんだよ)」

 力無く、心の中で小さく呟く。

 後方の追っ手である怪物を確認すると、こちらもこの世界観にピッタリな奇妙且つ摩訶不思議な容姿をしており言葉にならない声を挙げながら無我夢中に俺を追いかけている様に見える。獲物を見つけた時のライオンのような様子で追いかけてくる。

「ッんな!?」

 瞬間、俺は壮大にコケた。

 別に後方を確認していて足元を取られた訳では無い。

 言うならばこの世界に足元を取られたと言うべきか。

 突然、走っていた地形が歪んだのである。

 こりゃ、どうしようも無いにも程があるだろう。

 反則技だ。

「くッ……」

 どうやらサーカスの時間はそろそろおしまいのようだ。

 言葉にならない声を挙げていた怪物がいよいよ、俺との距離を数メートルにまで縮めてきた。汚らしく涎を垂らしながら気持ちの悪い笑顔で俺に迫ってくる。

 逃げなくては。

 逃げなくては――喰われる。

 そんなことは分かり切っているし俺だって出来ることなら逃げたいが、もう、逃げ切れる気なんて皆無だった。本能が言っている。もう逃げても無駄だ、と。

 そうして俺と怪物は対峙し、急に怪物が話を始めたりする筈も無く、早速獲物の俺を意外にもソフトに優しく掴んだ。気色の悪い感覚で瞬時に鳥肌が立ち、底無しの恐怖で俺の背筋が凍ったような気さえした。

 ――もう、駄目だ。

 絶望感が俺を覆う。

 もう、抵抗なんてしない。

 もう、抵抗したって何が起こる訳でも無い。

 喰われるだけだ。

 だけど、このまま何もせずにただ喰われるのを待つことなんて出来なかった。

 都合の良い人間らしく、こういう時だけ俺は祈った。

「(神様……俺を助けてくれ)」

 普段は神様という存在を殺しているのにも関わらずこういう時だけ。

 人間の拠り所、神様に祈る。

 いや、神様だけではない。誰か、だ。

 悪魔でも。

 詐欺師でも。

 鬼でも。

 幽霊でも。

 その他でも何でもいい。

「(誰でもいい………………!)」

 怪物がいよいよ俺をその気色の悪い口へ運ぼうとする。

 その前に俺は無様に、そして最期に叫ぶ。

「助けてくれぇえええええええええええええええええええええええええええええッ!!」

 無駄な叫びかもしれないが、叫ぶのは勝手なことだろう。

 煽り立てられる恐怖の中で急に流れ出した走馬灯を見ながら

「(早く早く早く!! 見てねぇで来いよ救世主!)」

 潔さなんか微塵も見せずに最期の最期まで祈る。

 まるでそこに誰かが居るような物言いで。

 けれど結局は、変わらない。

 誰も来るはずが無かった。

 そして俺は

「……さよなら、世界」

 厨二風に、最期の言葉にしては大分もったいないことを言い残して――世界を、去った。

 

 


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