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41 I must be cruel

 フェイスの書斎。デスクに向かって座るフェイスがただ一人、静かに目を閉じていた。無限に長く感じる時を、そうしてやり過ごしていた。


 それでも、目を開かなければならない時がくる。目を開いた。目の前には――ブレインが静かに座っていた。


「……君がここに来た。なら、息子は、死んだのだな?」


 無言を肯定とし、ブレインはフェイスを見つめた。長い沈黙が横たわった。先に口を開いたのは、フェイスだった。


「コニャックをやるか」


「……いただきます」


 ブレインはフェイスが指した二つのグラスの片方を手に取ると、フェイスの目の前に置いた。フェイスはコニャックのボトルを引き出しから取り出し、そのグラスに注ぎ、次いでブレインのグラスにも注ぐ。


 二人の間に、ナッツを載せた銀皿が置かれた。二人は、軽くコニャックを呷り、ナッツを一粒齧る。再び沈黙が流れるが、それを破ったのはまたしてもフェイスだった。


「……儂の妻はな、身体の弱い女だった」


 哀愁と呼ぶほかない顔でフェイスは語り始める。ブレインは黙してそれに耳を傾けた。


「医者には子供は諦めるように言われておった……だが、妻は言った。『もうどうせ長くはない。せめて、あなたに子供を遺したい』と。ゆえに妻は儂の子を……あの子を産んだ。自分の命と、引き換えに。妻の亡骸のそばで、儂はあの子を抱いて誓った。必ずこの子を幸せにするとな」


 哀愁から懐古へと移ったフェイスの顔。しかし、それはすぐにまた別のものに変わる。


「本当は、あの子にA Manに関わらせるつもりはなかった。だが、総帥の息子が命を狙われるのも当然。関わらせざるを得なかった。何より、あの子自身が君に憧れ、追いかけた。それでもまだ、あの子が幸せになることはできたはずだ。誤算だったのは……あの子の思想が、A Manの理念に反するものになってしまったことよな。トルソーがA Manを離れたのも、あの子が原因だった」


 嘆きへと変わった顔を手で覆い、悶え苦しむように頭を振るフェイス。


「儂は苦しんだ……理想と、息子。このままでは息子は我々の理想を破壊する存在になってしまう。だが、儂が思い悩む隙にあの子は急激に力を付け、もはや儂には止められぬ存在となっていた。止められるとしたら、君だけだった。しかし、儂はそこではたと気づいた。気づいてしまった」


 フェイスは顔から手を離し、頭を上げる。そこにあったのは、底の知れない恐怖の顔。フェイスはしわが寄った震える指でブレインを指した。


「このまま二人の対立が深まれば、君はきっと、あの子を殺してしまう。あの子では、あの子では君には勝てない。そう思った時……儂の天秤はついに片方に傾いた。理想を捨て、悪魔に堕ちようとも、あの子を守るとな」


 醜い、と表して差し支えない決意の顔。それを向けられたブレインは沈黙を断って口を開く。


「……だからあなたは俺を殺すためにレッグとフットを動かした。そして何より……妹を、リセラを狙った」


「そのとおりだ。儂はあの子を守るために越えてはならない一線を越えたのだ。だが君なら、妹の……たった一人の家族のために悪に手を染めた君なら分かってくれるだろう? たった一人の愛する家族のためならば、人はなんだってできてしまうのだと分かってくれるだろう?」


「ええ、痛いほどにね。だからこそ……」


 ブレインは銃を抜き、銃口をフェイスへ向けた。


「俺はこうしなければならないのだということを、あなたにもご理解いただけるはずだ」


「ああ……分かるとも。だから儂はあの子を殺した君をこうして迎えたのだ。やれば、やり返される。その当然な末路を迎えるためにな。そして……結果的にあの子を死に追いやった儂自身を断罪するために。儂は死のう。儂自身の罪の報いとして……! さぁ!」


 フェイスは向けられた銃口をまっすぐに見つめ、時を待った。しかし、なかなかその時はやってこない。フェイスは怪訝そうに眉を上げる。


「……実のところ、俺はコニャックとナッツの組み合わせを旨いと思ったことはありません」


 ブレインが言った。フェイスの眉はさらに怪訝を表す。


「なぜ今までそれを旨いと言ってきたのか、分かりますか?」


 フェイスの顔は困惑の極みに陥っていた。なぜか分からないのは明白だった。そんなフェイスを見て、ブレインは答えを明かす。


「あなたとグラスを交わすこの時間が好きだったからです、総帥(Father)


 フェイスは一度目を見開き、そして徐々に閉じていった。閉じていく瞼に合わせ、身体も力を無くし、椅子に崩れていく。


「……そうか、すまなかった」


 その言葉の直後、書斎に一発の銃声が鳴り響いた。


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