難解な客/新人研修生
-【難解な客】
ここ…アビスではあるリストが存在する。
私はこれをブラックリストと読んでいる。
その中には7人の警戒すべき宿泊客の情報が載っている。
本来はもっと多かったが、何年か前、思春期真っ盛りの男の子を雇った時、
「こんなに多かったら分かりにくく無いですか?うーん〜…そうだ!七つの大罪とかに名を冠してこのリストのメンバー7人に絞りましょうよ!なんかこう、"お昼から憤怒の部屋掃除参ります"みたいな会話したいですって!」
と言う発言からこうなった。
彼は今思春期を卒業しているので、この時の発言を凄く後悔しているらしい。
だがしかし、私は私でこの制度はそんなに悪くないと思っている。
というのも新人がいた時に特に注意するべき7人と紹介すると凄く印象に残るらしく皆忘れない。
プラス、この部屋は憤怒を関する人がが…とかこの部屋は嫉妬が…っと教えてあげれば大体なぜ注意すべきお客様なのかすぐ理解出来る。
ので彼はいい仕事をしたと思う。
今では役職を持って部下を管理する結構偉い人立ち位置になってしまったのが少々感慨深い。
因みに先日の吸血鬼、エーリー・レーク様は色欲の名を付けている。
それに対し本人は、
「色欲?そんな色気出てる私?……エゼルちゃん私をそんな目で見てたのね//イイわよ好きにて」
とかなんとかほざいていてだいぶ気に入ってるらしい。
だが!しかし!色欲はこのブラックリストの中で最弱の迷惑度なのである。
なんならレーク様は変に女性スタッフに構うことよりも著名人過ぎて、なまじ少しでも雑な対応があればすっごく角が立つことのほうが厄介なのである。
特にこのリストで私が特にストレスの種になるのが…この523号室…強欲のエークル・ビジリス様である…
一呼吸置く…そして自分を鼓舞しドアを開ける…
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〈532号室〉
「お呼びでしょうかビジリス様」
部屋内はあり得ないほど多くの物で溢れかえっていて、未開封の食べ物や幾つかの椅子、机、中には絶対に使わないであろう西洋甲冑なんかも見られる。
そして私の目線の先には、途轍もない装飾が施された一際大き椅子に足を組んで座る角の生えた大柄な筋肉質の男が見える。
「お呼びもクソもねーよ!エゼルテメーの時の新人教育はどうなってるんだ!あぁ!?」
ほぼ怒号である。
この人は結構短気で気難しい人なのである…いや人ではない。
こちらのエークル・ビジリス様は龍人と呼ばれる種族だそう。
あまり龍要素は感じられないが曰く本気を出せば龍っぽい翼と龍っぽい尻尾が生えてけるらしい。
この平和はアビス内ではあまり使う必要がないため普段は閉まってるのこと。
「申し訳ございません何か不備がございましたでしょうか?」
大体60°ほど頭を下げて謝る。
こうでもしないと怪我人が出かねない。
「あのなぁ!俺がちょっと留守にして間ここんとこの新人?かなんか知らねーが俺宛の荷物に傷つけてやがるんだ!それだけなら俺だってこのアビスの中だし、多少は平和主義に則って寛大な心で見てやるよ、だがなぁ!謝罪が気に障るんだよ!ヘラヘラしやがって!そんで説教してやったら開き直りやがってそういうのはエゼル!お前が責任取るべきだろ!?」
"うぅ…"っと自分から声が漏れた気がした。
この方のクレームは大体的を得ているのである。
この方が強欲たる所以はただ物欲がすごいだけじゃない、基本的に完璧主義なのである、自信にも厳しく他人も厳しい。
もしミスをしてしまっても完璧にカバーできるかとか卒なく役割をこなせるかとか。
そういう考えがこの方は行き過ぎる場合がある。
今回に関しては凄くこちら側の非でしか無いのだがたまに全く持ってくだらない事でこれと同じ熱量で怒ってくる事があったりする。
まぁどちらに転んでも私のストレスの種でしかないためこの方はそんなに得意ではない。
「も、申し訳ございません…今回に関しては私どもの落ち度であります、つきましては後日の正式な謝罪と傷つけてしまったお品物の弁償等、少々お時間いただく事になりますがよろしいでしょうか?」
出来るだけ丁寧なトーンでそういう謝罪する。
これは問題に対象したいがための物だけではなく、自分の立場からくる本当に心からの謝罪である。
「あぁ、別にいいよ…ちっ気分がわりー」
そんな独り言が小さく聞こえてくる。
「ビジリス様のお好きなクッキーと紅茶でしたら即座に用意できます、今回の件も有りますのでお代は結構です。」
こういう時こそサービスの心である、このままお互いいやな気持ちで終わってもよくない、相手が少しでも嬉しい気持ちになってくれたら物事も収まりやすい、だから毎回こういう時には全力の対応をする。
「ちっ、いいよ代金は払う、ついでに何か甘い物も持ってきてくれや、それで満足だ」
「かしこまりました…この度は本当に申し訳ございませんこのあと配膳係の職員がご希望の品持ってまいりますので他に要望があるようでしたらその者にお伝えください」
最後にそうだけいって部屋を出る。
(うぅ…人員不足で研修生を一気に入れすぎた…これは私の反省だな〜後で説教しとかないと…多分話を聞く限りあの子だよな…っかその確認もしとけばよかった、まあ後でもう1回伺うか…)
やっぱりちょっとこの方の対応にあたるとストレスが増えるのであった…
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--【新人研修】
"ふ〜…"
っとため息が漏れる。
先ほど該当の新人を連れていって正式にビジリス様への謝罪が済んだ所だ。
「あ、あのエゼル様…お疲れの所ろ申し訳ないのですが」
私が一息休んでいると、ある女の子が話しかけてくる。
この子はナーシャ・テイゼ最近入ってきた研修生の子である。
「はい、なんでしょうか?テイゼさん」
「あ、あ…そのほ、本当に申し訳ないんですがその…中庭って…何処にありましたっけ?」
「ん?あぁ良いですよ中庭ですね一緒に行きましょう」
この子は大人しいし話をよく聞いてくれて前向きで愛想もよくとても接客向きだとは思うがつくづく物覚えが悪くて困る。
少しふっ…っと息を整えて、テイゼを連れて中庭へ行く。
「あ、あの…エゼルさん…その…」
移動中そんな風に気まずそうにテイゼは言ってくる。
奥手な性格なので多分話しかけるのが気まずいいんだろう。
「あのテイゼさん、ここでの仕事は慣れてきましたか?」
別にテイゼ相手に業務中のトーンをする意味もないのでいつもよりずっと感情を込めて温かい声で話しかける。
こっちから話しかけたのに驚いたのかテイゼは少しキョドりながらも返す。
「は、はい!」
その後はなんてことのない相談を受けながら中庭へとゆっくり進んでいく。
少しして中庭にテイゼと共に来た。
私は別に用はないが少し休みたいのでベンチに座る。
テイゼは掃除用具を持ってきてベンチを拭いたり噴水を拭いたり、ここらへんは鳥が居るのでそこら辺のフンを拭いたりと掃除に勤しんでいる。
このままお互いに黙っていても面白くないので話しかける。
「テイゼさん、どうですか?アーゼさんとは上手くてやれていますか?」
「あ、はい、結構上手くてやれてるつもりです」
私の問いかけに少しこちらを見て、その後掃除場所を向き直しながらそうテイゼは答える。
「そうですか、最初2人は真反対の性格でしたのでペアとしてうまくできるか心配でしたよ」
ここでは新人は2〜4人ほどのペアで動く、何せホテル自体巨大も巨大なのだ、全約8600室を超える巨大な部屋数と併設する施設の管理全てが従業員の仕事。
流石にその仕事量を新人一人で…ってのは酷な物で作業分担の為にこうやってペアを組ませる。
しかも厄介なことにこの施設は少し独特な魔法が施されており、8600人を超えると途端に施設自体…いや空島ごと大きくなるのだ。
どんどん大きくなって今や最初の3倍ほどの大きさとなりつつある。
そのせいで間取りが少し変化したりとするので把握が大変なのである。
そうこうしている内にテイゼは庭の掃除が片付いたらしい。
道具をしまい始めた。
やはり仕事の速さは規格外…本当に物覚えの悪さがたまに瑕…いや致命傷である。
本当にどうにかしてほしい…
「あ、あの…エゼルさん、その私、前々からずっと聞きたいことがあったんです!」
大体の道具をしまってテイゼは私の前に立ちそう言ってくる。
「はい?なんでしょうか?」
私がそう聞き返すとテイゼは凄く申し訳なさそうと言うか…気まずそうというか…とにかく凄く縮こまってモジモジする。
「あ、あの…凄く失礼ですし、エゼルさんが返答したくないなら答えてもらわなくていいんですが…その」
そこまで言ってテイゼは深呼吸し一拍置いてから話す。
「エゼルさんって、何族なんですか?いえ…何歳なんですか?」
っと質問を設けてくる。
「あぁ…そんなことですか、因みにですがどうしてそれを?」
「えっと…その私ここの空島生まれなんです、それですっごくずっと前、多分12年前くらいにここに泊まりに来たときエゼルさんに会ったんです、それでその時はっきり言って凄く美しい人が居るんだなって幼心に思ったんです。だからずっとその事を覚えてて、それでここに働きに来たんです。」
そこまで言われて大体言いたいことが分かった。
「そしたら、その、記憶の中のエゼルさんと今のエゼルさんが全く同じ見た目なんです、エゼルって見た目年齢大体24〜6くらいだと思うんですけど、その理論で行くと多分今40手前…にしてはすっごく若々しくて。でもエゼルさんって凄くベテランでお客さんの事も誰よりも把握していてそれも考慮すると多分60代くらいなのかなって思うんですけど」
終始気まずそうにそんな事を聞くテイゼ。
それに対し返答のため口を開く。
「私も自分の詳しい年齢は忘れてしまいました…多分500…いくらかでしょうか?」
「500?!…いやごめんなさい」
私の発言に相当驚いたのか普段の彼女じゃ考えられないほど大きな声が出る。
「別にいいのですよ、自分でもそうとは見えないですから」
「その…エルフなんですか?」
「いえ、私はその…土地神?と言うのですか?そういうヤツです昔色々ありまして…ひょんなことからこの浮島の神様になってしまったんです、また今度当時の事については話しますよ」
私がそう言うとテイゼは鳩が鉄砲食らったかのようにキョトンとする。
(はは…ひょんなことから神様に…と言うか390歳の精霊系統の神様が世界最年長って本に載ってなかったっけ?…神様って凄いな…)
っとテイゼは思うのであった。
「さて、テイゼさん私はそろそろやらなければならない事があるので、行きますが…テイゼさんも頑張って働いてくださいね」
ベンチから立ち上がり一息ついてそう話すがまだテイゼはガン食らったらしくキョトンとして反応は、少し遅れてから来た。
「は、はい!お忙しい所申し訳ありませんでした!」
そんな風に言うテイゼを横目に歩を進めるのであった。




