おまけ
ツェリルが正式に聖女を引き継ぐのはひと月後に決まったが、その間も、もちろん修行は続けなければならなかった。
今日も最前列で数十人の神官と共に朝の祈りを捧げていたツェリルだが、先程からずっと背後が気になってしかたがない。
結局、落ち着かないまま朝の祈りを終えたツェリルは、すぐに立ち上がって入口に向かった。
「どうしてまたここにいるのですかっ!」
長身を壁に預けて腕を組み、不遜に笑いながら自分を見下ろしているドゥラコンに抗議をすると、ドゥラコンはちらりと周りの神官へと視線を向けた。
「一応、牽制しておこうと思ってな」
「け、牽制?」
次期皇帝探しを終えたツェリルは、当然のように神殿に戻った。
まだ正式に皇太子妃になる覚悟ができていなかったし、聖女としての修行もあるからだ。
しかし、どうやらドゥラコンはそのままツェリルは宮殿に滞在し、すぐにでも自分と結婚すると思っていたらしい。
一生懸命説明し、懇願し、結果的にわかってくれたと思ったのに、それ以降毎日ドゥラコンは神殿にやってくるようになった。
しかも、隠密にではなく堂々と、他の神官にもわかるように、だ。
ヤッフェとアリイェ以外の神殿の者にはまだドゥラコンとの関係は内密なので、彼らは毎日現れるようになったドゥラコンに戸惑っている状態だ。
今も好奇に満ちた目を向けられているのに改めて気づき、ツェリルは焦って離れようとする。
だが、その寸前にドゥラコンに腰を抱かれてしまい、
「んぅっ?」
そのままくちづけをされてしまった。
驚いて叫びそうになった口に、いきなり舌も入れられる。
何度も角度を変え、舌を吸われ、唾液を啜られ、貪られるくちづけを、ツェリルもいつの間にか受け入れてしまった。
しんと静まった礼拝堂の中で、艶めかしい音だけが響く。
どのくらい経っただろうか。
ようやく、くちづけを解かれたツェリルは、情けなくもドゥラコンの胸に倒れこんだ。
「どうして……」
「お前のためにいままで我慢した方だ」
「ド、ドゥラコン殿」
「ドゥラコンだ」
混乱したツェリルはこの場をどう誤魔化したらいいのか焦ったが、ドゥラコンはまるで気にした様子はない。
そればかりか、周りにいる神官達を見まわしながらよく響く声で言った。
「これは俺のものだ。
お前たち、絶対に手を出すな」
「!」
驚きの声が礼拝堂の中に満ちた。
これではまるで、自分たちの関係を堂々と宣言しているのも同然ではないか。
まさかそれが、周りから自分を追いこもうとするドゥラコンの計略だとは気づかないツェリルは、この先どういう顔をして神官たちと向き合えばいいのかと頭が痛くなった。
おしまい




