終話
「まさか、ドゥラコンが落ちるとは思いませんでした」
「本当に、美味しいところばかり取る男だな」
「しかたがないだろう、ツェリルが俺を選んだんだからな」
「本当にいいのですか、聖女殿?
この男は扱いづらいですよ」
誰よりも複雑な性格であるナメルに言われたくない。
内心そう思ったドゥラコンだが、今自分の隣にツェリルがいるという事実を考えれば、多少の嫌みを言われるのもしかたがない。
「まあ、これからも宮殿にいるのなら機会はある」
無駄に積極的で前向きなネツの視線がツェリルの尻に向かうのを見て、ドゥラコンはさっと割って入った。
「見るな」
「見ていない」
「見ていただろう」
「直接触っていないんだ、構わんだろう」
結局、見ていたことを肯定した後に苦いものを飲み込み、ドゥラコンは隣に立つツェリルを見下ろした。
つい先ほど、ヤッフェから聖女としてこれからも精進するように伝えられたツェリルは、辞退しなくて良くなったことがよほど嬉しかったらしい。
本来、ドゥラコンと並んで立つことも恥ずかしがるはずなのに、頬は紅潮させながらもおとなしく留まってくれている。
本心を言えば、ドゥラコンはツェリルに聖女を辞めて欲しかった。
結婚して自分だけのものとして、誰にもその姿を見せないようにしたかった。
だが、当のツェリルがおとなしく腕の中にいてくれないのならば、最低限の譲歩はしなければならないとながら不本意ながら納得をしている。
「ツェリル殿、あなたはどう思っているのですか?」
「え?」
「ドゥラコンの手の中にいて、守られるだけの存在になりますか?」
「おいっ」
そんな質問の仕方をすれば、ツェリルの答えは決まっている。
「いいえ。
私は私のできる精一杯で、このバラッハ帝国とドゥラコン殿をお守りしたいと思っています」
「ツェリル」
また敬称をつけたことは後で甘い罰を与えることにして、「守りたい」と言ってくれた言葉は素直に嬉しく思った。
しかし……。
「私はまだまだ聖女として未熟です。
結婚を考える前に、もっと精進しなければ」
続く言葉は、まったく色気のないものだ。
「よく言いました。
さすが私と同じ、神に仕える身です」
「俺も、及ばずながら力を貸そう」
口々にそう言いながらこちらを見る二人の顔は、腹立たしいほど楽しげだ。
「お前ら……」
文句を言おうとして……やめた。
この二人のことよりもまず、ツェリルだ。
(その身体によく言い聞かせないとな)
ツェリルの口から一日でも早く、「結婚したい」と言わせなければ、余計な心労が増すばかりだ。
まずは、その身体から籠絡してやろうか。
そのためにも、この後どんな手管で誘い込むかと、ドゥラコンは細い肩を抱き寄せようと手を伸ばしながら考えていた。
終




