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聖女は秘密の皇帝に抱かれる  作者: アルケミスト


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 ツェリルは部屋の中をぐるりと見回して溜め息をついた。


 今、ヤッフェはナメルとアリイェと共に、宮殿にいる皇帝に謁見しているはずだ。


 本来ならツェリル自身が出向き、皇帝にきちんと神託を告げなければならないのだが、どうしても会う勇気がなかった。


 多分、それは後ろめたさからだ。


 ドゥラコンと身体を重ねた自分が、素知らぬ顔をして神託などとどうして言えるのか。


『次期皇帝は、ドゥラコン殿です』


 アルシェクから戻ったツェリルが告げた時、ヤッフェは目を細めてゆっくりと頷いていた。


 きっと、ヤッフェははじめからその結果がわかっていたのだと思う。


 聖女になるツェリルのために、あえて与えてくれた試練。


 その期待に応えられなくて、本当に申し訳ないと落ち込んだ。


「ちゃんと、整理をしなくちゃ」


 ヤッフェにははっきりと、「私には聖女になる資格はありません」と吿げた。


 その理由は、国民に平等な愛を注げないから。


 ヤッフェはツェリルの言葉を最後まで聞いてくれ、その話はまた後日にと言って出ていった。


 はっきりと自分は聖女失格だと言葉に出したことを後悔はしていないが、今まで一生懸命修行した日々を捨て去るのはやはりつらい。


 それに……。


(皆、一生懸命祈ってくれた……)


 アルシェクを出た時、ツェリルは一刻も早く王都に戻り、ヤッフェにドゥラコンが次期皇帝であると伝えなければと心が急いていた。


 しかし、なぜかナメルはこんな機会は滅多にないのだからと通りがかる村々に寄り、人々に祈りを捧げるように言ったのだ。


 聖女としての自信を喪失していたツェリルは躊躇したが、それでも小さく簡素な神殿に、多くの人々が真摯な祈りを捧げに来るのを見ているうちに、胸に迫ってくる感情があった。


 寄ったのは本当に小さな村が多く、その地特有の問題が多くあった。


 先日はそれを自分の耳で聞き、何とかしなければならないと思ったのも確かだ。


 そんな帰路は思ったよりも時間がかかり、結局七日間かけて王都に戻ってきた。


 せっかく人々と聖女として関わりが持てたが、戻ってきて改めてドゥラコンのことをヤッフェに伝えた時、ツェリルはやはり自分が未熟者であると思えた。


 勢いのまま、聖女を辞めると言ってしまったが、この後のヤッフェの苦労を考えると、それがとても我が儘なことだとも思ってしまい、本当に自分が何をしていいのかわからなくなっている。


 ただ、このままここにいるといやでもドゥラコンと会うことになってしまう。


 あの男を好きだと自覚した今、向き合うことはできなかった。


 一度、アルシェクに戻り、ゆっくりと色々なことを考えたい。


 帰郷は徒歩になるので、かなりの日数がかかるだろう。


 それならば、都に戻ってくるであろうドゥラコンと入れ違うはずだ。


(ばあばさまが宮殿から戻られたらきちんと話して、アリイェさまにばあばさまのことをお願いして……)


 自分の我が儘を通してもらおう。


 本当にそれが最善かどうかはわからないが、ツェリルはようやくそこまで考えてヤッフェたちを迎えるべく部屋から出ようとした。


 しかし……。


 いきなり、部屋の外から扉が荒々しく開き、ツェリルは反射的に振り向いた。


「! ……ど、して……?」


 そこに立っていたドゥラコンは、大きく肩で息をしていた。


 まるで、ここまで全速力で走ってきたかのようだ。


 鋭い眼差しでツェリルを捉えたドゥラコンは、無言のまま大股で部屋の中に入ってくると目の前までやってくる。


 怖い表情に無意識に身体を引いたツェリルは、ドゥラコンの手が伸びてくるのを見てとっさに殴られてしまうかもしれないと目を閉じた。


 だが、次の瞬間、ツェリルの身体は大きな胸に強く抱きしめられていた。


「……っ」


 どうして、こんなふうに抱きしめられるのだろう。


 ドゥラコンの行動の意味がわからず、ツェリルはうろたえた。


 アルシェクでの無謀な振る舞いや、勝手に王都に戻ったことを責められると思ったのに、抱きしめられる理由がまったく思いつかない。


「ドゥラコン殿?」


 ようやくツェリルがその名を呼ぶと、ますます抱きしめてくる腕に力が込められた。


「馬鹿がっ」


「……そ、そんなの、わかって……っ」


「本当にわかっているのか」


 ツェリルが黙ってしまうと、耳もとで大きな溜め息が聞こえる。


 呆れたようなそれにどう反応していいのか、とにかくいったんドゥラコンから離れたくてもがくが、強い腕の力は一向に緩まないままだ。


「ドゥラコン……」


「今、ヤッフェ殿から聞いた。

 お前、聖女を辞めると言ったらしいな」


「……っ」


 どうやら、ドゥラコンはすべてをわかってここに来たらしい。


 思ったよりも早かった帰郷に自分の予定が狂ってしまったことを悟ったが、これも神の導きであるのかもしれないと思えた。


 まだ、ドゥラコン本人に直接伝えていない言葉を、今ここで言わなければ。


「ドゥラコン殿、私はアルシェクであなたの肌を見ました。

 ナメルさまにも、訳を教えていただいて、ようやくわかったのです」


「……」


「次期、皇帝はあなたです、ドゥラコン殿。

 どうか、私の故郷を助けてくださったように、このバラッハ帝国を守り、導いてください」

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