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聖女は秘密の皇帝に抱かれる  作者: アルケミスト


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 ツェリルの故郷をこんなにも懸命に助けようとしてくれている……。


 いや、きっとドゥラコンのそれがどの地でもバラッハ帝国の領土である限り駆けつけ、自ら働くことを厭わないはずだ。


 あの真剣な顔を見ればよくわかる。


 川の水量は見ている間にも徐々に増していき、人海戦術で作っている土塀を今にも越えて氾濫しそうだった。


 それでも誰一人逃げず、諦めず、大声で励まし合いながら必死に頑張っている。


 やがて、櫓で指揮をしていたドゥラコンが下り、一段と高く積み上げられた土囊の上に登って川の流れを見始めた。


 いつ、あの水がドゥラコンを飲み込んでしまうか、見ているだけで気が気ではない。


 たまらず、ツェリルも少しでも手伝おうと駆け寄ろうとしたが、即座にナメルに腕を掴まれてしまった。


「ナメルさま!」


「あなたが行っても何もできないでしょう?」


「でもっ」


「邪魔になるだけです」


 きっぱりと言い切られ、振りほどこうともがいていた身体が固まってしまう。


「気寺ちはわかりますが、ここでおとなしく見ているしかありません」


「……っ」


 故郷のために何かしたいのに、ここまできて見ていることしかできない自分が歯痒くてしかたがない。


 それでも、ナメルの腕を振り払い、駆け寄ることはできなかった。


 自分が足手まといになることは火を見るよりも明らかだからだ。


「私たちは神に仕える身。

 皆が無事であるように祈りましょう」


「……」


「ツェリル殿」


 聖女として、今ツェリルにできることは神に祈ること。


 それで、誰一人命を落とさず、この大雨を乗り切って欲しい。


 ツェリルは両手を組み、瞬きも惜しみながらじっと目の前の光景を見つめる。


 周りの人間の中にはツェリルたちの姿に気づく者も出てきて、今回の大雨で犠牲者が出ないように自分たちに祈りを捧げていた。


 ツェリルは川の方が気になってしかたがないが、祈りを捧げてくれた相手にはきちんと祝福を返していく。


 皆はツェリルを聖女だとわからなくても、皇族ならば何とかこの状況を打破してくれるのではないかと期待しているようだ。


 そう思って祈ってくるのに、ツェリルは誤解だと言うことはできなかった。


 川が氾濫すれば、一番近くの村のアルシェクは壊滅するほどの被害を受けてしまうだろう。


 一生懸命働いてくれている相手に、ツェリルはもっとと訴えそうになる気持ちを抑えるのにる必死だった。


 ここで祈っているだけの自分と、命まで懸けてくれている兵士たちとではまるで違う。


 危険がないところで何をしたって……。


「ツェリル殿っ?」


 たまらず、ツェリルは河原に向かって走り、重そうに土嚢を運ぶ村人にとっさに手を貸した。


「え……」


「もう少し、頑張りましょうっ」


 不安をいっさい消し、にっこり笑ってそう言った。


「で、でも、あんたが汚れてしまうよっ」


「平気よ。

 泥なんて、洗ったら綺麗に落ちるわ。

 さあ!」


 今ツェリルは、アルシェクの民に戻っていた。


 ここにいる村人は、十年前までこの地で暮らしていたツェリルのことを名前は知っているだろうが、成長した容姿などまったく知らないはずだ。


 女の身でどうしてツェリルがここまでするのか不思議だろうが、故郷を思う気持ちは今でも強く、我慢していたがどうしてもじっとしていられなくなった。


「ツェリル殿っ」


 すぐにナメルも後を追ってきて、諌めるように声を掛けてくる。


 おとなしくしていろと言外に言われているとわかるが、ツェリルは顔も、手も、服も。


 どんなに泥で汚れても、いっさい構わなかった。


 しばらくしてナメルも、ツェリルの固い決意に揺らぎはないと諦めたのか、自分でも土嚢を運び始める。


 優男の彼だが、両手に一つずつ、重い袋を軽々と運ぶ姿を見て、周りの人間の上気も高まったらしい。


 その頃には村人たちの多くは上半身裸になっていて、全身泥だらけの状態になっていた。


 だが、どの顔も諦めた表情はしていない。


「皆っ、もう少しよ、頑張って!」


「おおっ」


 ツェリルは非力を補うため、何度も何度も大きな声で周りを元気づけた。


 そんなツェリルの、いや、人々の熱意が天に届いたのか、次第に雨脚が弱くなってきた。


「ナメルさま、雨が!」


「ええ、このままやんでくれたらいいのですが」


 ナメルも空を見上げて眩く。


 ツェリルも同じように空を見上げた後、最前線で動いているドゥラコンの姿を無意識に探した。


 ドゥラコンはちょうどネツと何か話していた。


 時折空を見上げているのは、ツェリルと同じことを考えているのかもしれない。


 ツェリルやナメルのいる場所からはかなり近かったが、意識が川へと集中しているせいかこちらに気づいている様子はなかった。


 すると、そんなドゥラコンの下に数人の子供たちが駆け寄って何か言っている。


 川の濁流の音や周りの人々の声ではっきりと聞こえなかったが、途切れ途切れに「ありがとう」や「頑張って」という言葉だとわかった。


 きっと、アルシェクの子供たちだ。


 自分たちの村のために、ドゥラコンたちが必死に頑張っているのがわかったのだろう。


 そんな子供たちにドゥラコンは汚れた顔を向け、無邪気に笑いながら頭を撫でている。


 初めて見るその表情に思わずどきりとしていると、濡れて重くなった服が邪魔になってしまったのか、ドゥラコンが上着を脱いで側にいた兵士に手渡した。


「え……?」


 上半身裸になったドゥラコンは、脱いだ服で軽く身体を拭う。


 その時、ツェリルははっきりとその腰に赤い痣を見た。


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