42
二度、ツェリルを抱いた。
これまで身体を重ねてきた女たちと比べると格段に子供っぽく、初心な反応をしたツェリル。
だが、瑞々しい白い肢体と、神秘的な黒い髪と瞳は、本人は自覚していないがとても魅惑的で、眩しいほどの真っ直ぐな心根と合わさって、夢中で貪ってしまった。
一度目は、多分二人の幼友達に対する対抗心が強かったと思う。
次期皇帝を探しているというツェリルが自分たち三人に照準を合わせ、身体を張ってまで真実を知りたいと訴えた時、ナメルやネツに譲るのが惜しくなった。
それまで、皇帝の座などに興味はなかったはずなのに、必死になっているツェリルの目を自分にだけ向けたくて、真っさらな身体を己の欲望で貫いた。
二度目は、もっとはっきりとした、抱きたい、という欲望からだ。
しなやかにドゥラコンを受け入れてくれたツェリルの身体は極上で、他の男になど触れさせたくないと強く思ってしまった。
ツェリルの立場から見れば、きっととても酷い男だろう。
上衣を脱ぐなど簡単なことなのに、今もってツェリルには見せていない。
本当に皇帝になりたくなければ見せてしまった方が早いとわかっているはずなのに多分、ドゥラコンはツェリルの目が自分から逸らされてしまうことを恐れているのだろう。
「何用だ、ドゥラコン」
形ばかりの入室の合図をしたネツは、入ってくるなりそう切り出してきた。
腰には二振りの剣が携帯されている。
今は大きな戦はないが、毎日の鍛錬を怠る男ではない。
少々変わった性癖の持ち主であるが、任務に対しては忠実な男だった。
「最近、ツェリルに会ったか?」
「ツェリル……あの女に?」
「そうだ」
数日前、二度目にツェリルを抱いて以来、なぜかその態度がよそよそしくなっているのをドゥラコンは感じていた。
はじめは単なる羞恥か、もしくは無茶をしたドゥラコンに対する抗議のせいかとも思ったが、それにしては思い詰めた表情で時々自分の方を見る目が気になった。
まだ知り合って日が浅いが、ドゥラコンはかなりツェリルの性格を把握していると自負している。
ツェリルは言いたいことを溜め込んだりせず、はっきりと物を言う性質だ。
それがたとえ自身の不利になることでも、隠したり誤魔化したりしない。
そのツェリルが、黙ったままドゥラコンを避けているのだ、気にならない方がおかしい。
「ネツ」
不意に、ネツが目を細めて口元を緩めた。
普段、無表情が常のこの男にしては珍しい顔に、ドゥラコンは自然と眉を顰める。
「会っていない」
「……本当に?」
「こんなことでお前に嘘を言う必要もないだろう」
確かに、ネツがドゥラコンに嘘を言っても何の得もない。
そう思い直してドゥラコンはすぐに国境警備の話へと話題を移したが、頭の中のツェリルの面影は消えることがない。
そして、そんなふうにツェリルのことを気にしている自分がらしくもなく、不思議でたまらなかった。
「そんなに、あの娘のことが気になるのか?」
それはネツも同じだったようで、少し探るような口調になっている。
だが、今の自分の気持ちを正直に伝えるつもりはなかった。
言ったとして、一筋縄でいかないネツが温かく見守ってくれるなんて思えない。
物心ついた時からずっと一緒にいて、その性格の裏も表も知り過ぎるほど知っている。
(そういえば……)
もう一人、油断のならない男がいた。
考えたらネツよりもやっかいで捻くれた性格の主は、ここ数日神殿の仕事で顔を合わせていない。
「ナメルは……」
「ナメル?」
「……いや、いい」
ネツが何も知らないのならば、もしかしたらナメルの方が原因かもしれない。
気になったらじっとしていられず、ドゥラコンは早々に仕事を切り上げ、神殿に向かって馬を走らせた。
「ドゥラコンさまっ?」
突然のドゥラコンの来訪に、神官たちは驚き、畏まっている。
「構うな。
ナメルはどこに?」
「大司教さまはただ今ヤッフェさまとご会談されてます」
「ヤッフェ殿と?
二人で?」
「はい」
「どこだ?」
大司教であるナメルと、聖女のヤッフェが話をするのは何の不思議もない。
ただ、こんな時だからこそドゥラコンは妙に気になってしまい、足早に教えられた応接間に向かった。
何回か扉を叩いて、入室の許可がある前に開く。
いっせいに向けられた四つの目。
しかし、どちらも驚いた様子は見えない。
何も言わずにやってきたというのに、まるでドゥラコンが来ることを予期していたような態度だ。
ドゥラコンはまず椅子に座っているヤッフェを見た。
ドゥラコンがヤッフェを初めて見た時から既に二十数年経っている。
その時に比べて身体はますます小さくなり、皺も増えたが、生命力ある気はまったく衰えた様子はない。
「ドゥラコン殿」
艶やかな声も変わらず、ドゥラコンは目を細めながら礼を取った。
「お元気そうだ」
「そなたも。
今日はどうした?」
問いかけられ、ドゥラコンはようやくもう一人の人物に視線を向けた。
ドゥラコンが部屋の中に入ってきた時からナメルは変わらず、穏やかな笑みを湛えたままこちらを見ていた。
その表情の中にはドゥラコンに対する後ろめたさなどまったくなく、それだけではこの男がツェリルの態度の変化に関係しているとは思えなかった。
しかし、ナメルはネツ以上に侮れない男だ。
表に出さないからといって、何も知らないと決めつけられない。
「ナメルに会いに来た」
「私に?」
「ああ」
「どういう用件でしょう?
火急の神事については既に話はしてあると思いますが」
とぼけているのか、それとも本当に思いつかないのか、一見して判断はつかない。
しかし、ここまで来てむざむざと引き下がるわけにはいかず、ドゥラコンは軽く顎を引いた。




