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言葉の通りドゥラコンは駆けつけた他の女官に誤魔化してくれたらしく、なおかつ浴場の中には誰も入れることなく乾いた布を持ってこさせた。
それにここに連れてこられた時と同じようにぐるぐるに巻かれてしまい、今度は腕に抱きかかえられる格好で外に出た。
「大丈夫?
ツェリルさん」
「は、はい」
どうやら、ドゥラコンがツェリルをからかい、弾みで湯船の中に落ちたとでも言ってくれたようだ。
ツェリルは話を合わせるように曖昧に笑み、後はドゥラコンの腕の中で小さくなっていた。
だが、難はまだ去っていなかった。
ドゥラコンはツェリルの私室ではなく、自身の部屋へと抱いて連れていき、そのまま寝台に下ろされてしまう。
また、抱かれてしまうのだろうか。
ツェリルは寝台の上で身体に巻かれた布をしっかりと握りしめたが、ドゥラコンは窓辺に置いた椅子に座ってこちらを見た。
濡れたままでは風邪をひいてしまうのではないかと心配になるが、ここで声を掛けてしまうのは何だか悔しい。
それでも気になって視線を向けたままでいると、ドゥラコンがふっと苦笑した。
「何もしない。
安心して寝ろ」
「ベ、別にそんなこと」
「子守唄でも歌ってやろうか?」
笑みを含んだ声で言ったドゥラコンは立ち上がり、寝台の側へとやってくる。
自分の態度が男を引き寄せたことに焦ったツェリルは、慌てて敷布に顔を埋めた。
しばらくして、髪を撫でる手を感じた。
時折、悪戯めいて耳や頰に触れてくるものの、危惧していたようないやらしさは皆無だ。
掛け布の中で硬くなっていた身体も徐々に解け、ツェリルはふっと息を吐いた。
「お前と会っていると、ナメルに聞いた」
(だって、私は次期皇帝を探しているんだし)
急に切り出され、ツェリルは心の中で反論する。
「お前の立場からいえばしかたないのだろうが……あまり面白いものではないな」
(どうしてそんなことを言うの?)
「ツェリル?」
(あなたが、ちゃんと向き合ってくれないから……)
「……ツェリル?」
自分の使命のためにも、ナメルやネツと会うことをやめることなどできない。
「眠ったのか?」
ツェリルが自身の思考に沈んで口を閉ざしていると、ドゥラコンは疲れから眠ってしまったと思ったらしく、ポンポンと掛け布の上から肩を叩いて離れる気配がした。
(……どこに行くんだろう……)
寝台はツェリルが占領してしまっているので、このままではドゥラコンが寝る場所はない。
いや、この男ならば気にせず隣に潜り込んでくるかもしれないがと思いながら、ツェリルはそっと目だけを向けてみる。
ドゥラコンは先ほど座っていた椅子の側に立っていたが、その場でいきなり上着を脱ぎ始めた。
(あ……)
どうやら濡れた服を着替えるようだ。
まさかここでドゥラコンの肌を見ることになるとは思わなかったツェリルは、急にうるさいほど心臓の鼓動が速くなり始めて息を押し殺すのに必死になる。
今ここで、ツェリルが気づいていると絶対にドゥラコンに知られるわけにはいかなかった。
ナメルの腰にあった、バラッハ帝国の紋章。
ネツの腰にあった、赤いもの。
そして……。
月明かりに照らされたドゥラコンの裸身がツェリルの目に映る。
凝らす視線の先の逞しい男の身体を背中から腰へと見つめたツェリルは、次の瞬間大きく息をのんだ。
(な……い)
ドゥラコンの腰にはなんの痣も、傷もなかった。




