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「どうした?
待てないのか」
「ちが……あぅっ」
指先が襞の中を分け入ってくる。
まだ指先だけのはずなのに、この時点でとても痛い。
指でこんなに痛いのに、ドゥラコンのあんなにも大きなものを受け入れたなんて、今さらながら信じられない気がした。
「今日は余計な目もないからな。
ゆっくりと俺を覚えさせてやる」
「んんっ」
文句を言おうとした口はドゥラコンのそれに塞がれてしまい、くぐもった声しか上げることができない。
押し入ってきた舌は縮こまったツェリルの舌を搦め捕り、とてもいやらしく口腔内を貪るように犯す。
しかし、対照的に下肢を弄る指の動きはとても慎重で優しく、ツェリルはこみ上げてくる熱の塊を振り払うように腰を振った。
だが、思惑とは裏腹に、ツェリルが動くごとにの中に侵入してくる指が徐々に深くなっていく。
それを止めようとするにはどうすればいいのかと必死に考え、ツェリルはようやく思いついたことを口にするために、頭を振って重なった唇を強引に解いた。
「や、めろっ、汚い、からっ!」
喘ぎ声に混じった声は聞き取りにくかったはずだが、身体の中の指の動きはすぐに止まった。
「どうした?」
もしかしたら、ツェリルの言うことなど聞いてくれないかもしれない。
そう思ったのに、ドゥラコンはツェリルの目を見返しながら聞いてくれる。
ささいなその行動に、ツェリルはドゥラコンの優しさを探ろうと懸命だった。
「わ、私は一日働いているっ。
汚れた身体のままでは絶対に嫌だっ」
子供じみた理由だ。
それでも、ツェリルは何とか自分が落ち着く時間が欲しかった。
覚悟を決めたつもりでも、まだ男に抱かれるという行為は二度目だ。
経験なんて皆無と等しいのに、余裕を持って身体を重ね、その上腰の痣を確かめるなんて行動はできそうにない。
もちろん、それをしなければならないのはわかっているし、今さら逃げるなんて卑怯な真似はしないつもりだったが、そう簡単に気持ちは操作できるものではなかった。
ドゥラコンはツェリルの顔を見ていたが、不意に楽しげに目を細める。
あまりに優しげなその表情に胸がざわめいたが、そんなツェリルの反応を気にしないかのようにドゥラコンはいきなり身体の中にあった指を引き抜き、身体を起こした。
「あ……」
自然に洩れた声は、まるでドゥラコンが離れていくのを寂しく思っているかのようにさえ聞こえる。
自分でも耳を塞ぎたくなつてしまうそれに猛烈に顔が熱くなっていると、
「ええっ?」
いきなり頭の上に何かが被さってきた。
「な、何?」
「おとなしくしていろ」
「ド、ドゥラコン殿?」
視界を塞がれた形になったツェリルは、今の状況がまったくわからない。
とにかく頭に被さった物を取ろうともがきながら改めて見ると、それが白い掛け布だと気づいた。
どうしてこんなものをと考える間に、大きなそれに頭から足先まで覆われ、まるで荷物のようにくるりと巻かれてしまう。
「ちょ、ちょっと!」
「静かにしていろ。
声を出せばお前だと知られてしまうぞ」
笑いながらそう言ったかと思うと、ツェリルの身体はふわりと浮き、ドゥラコンの肩に担がれてしまったようだ。
「何をするつもりだっ?」
「身体を綺麗にしたいんだろう?
俺が隅々まで洗ってやる」
「なっ?」
(このまま浴場に行く気っ?)
ドゥラコンの部屋から浴場に行くまで、いったいどのくらいかかると思っているのか。
その間、絶対に誰かに会ってしまう。
その上で肩に担がれた状態で何をするのだと、余計な詮索をされるに違いない。
いや、そんなことよりも、ドゥラコンに身体を洗われるなんて考えもしなかった。
今言ったことは時間稼ぎで、いったん冷静になるためにドゥラコンから離れる口実として口にしただけなのだ。
しかし、焦るツェリルに構わず、ドゥラコンは迷いのない足取りで歩き始める。
掛け布にくるまれた状態で、ツェリルはどうにか逃げ出そうと手足をばたつかせた。
「下ろせ! 湯など一人で入れる!」
「その間、俺は待っていなくちゃいけないだろ」
「あ、当たり前だっ」
「待てない」
「!」
あっさりとそう言われ、ツェリルが次の言葉も出なくなった時に扉を開ける音がした。
「しばらく黙っていろ」
するりと布越しに尻を撫でられてしまい、ツェリルは男の背中だろう場所を叩いた。
それでも部屋から出てしまった以上どうしようもない。
ドゥラコンと親しいと知られるわけにはいかず、ツェリルは口を噤むしかないのだ。
「ドゥラコンさま?」
しばらくして、不思議そうな女の声がした。
「その、肩にあるものは……」
「気にするな」
「は、はい」
短い言葉で退けられたということは女官の一人だろう。
深く追求されなかったことに安堵する間もなく、それからも数人の女の声と男の声が聞こえてきた。
その誰もが、まったく説明にならないドゥラコンの言葉にすぐに退いている。
こんな格好で思うのも変だが、本当にドゥラコンは皇太子なのだ。
改めてその肩書について考えている間に、いつの間にか再び扉が開く音がした。
「ドゥラコンさま?
先ほど湯浴みをされたばかりでは……」
(この声……)
それは、いつも風呂の支度を手伝ってくれている湯番の男の声だ。
「もう一度温まりに来た。
しばらく席を外してくれるか」
「ですが……」
多分、湯番はドゥラコンが担いでいる白い物体、つまりツェリルのことを気にしてすぐに頷くことができないらしい。
無理もない。
皇太子という立場のドゥラコンに何かあったら大間題だ。
今にもこの布を引き剝がされるのではないかと思い、ツェリルは動揺を押し隠すようにドゥラコンの肩を強く掴む。
すると、ポンポンと宥めるように背中が叩かれた。
「大丈夫だ」
「ドゥラコンさま」
「これは俺の気に入りだ。
嚙みついてきたとしても、じゃれているのと同じだからな」
「それはそれは」
「すぐに辞するように」
ドゥラコンは再び歩き出し、やがてむっとした熱気が布を通してツェリルを襲ってきた。
どうやら浴場の中に入ったらしい。




