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聖女は秘密の皇帝に抱かれる  作者: アルケミスト


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31

 日が暮れる前に宮殿に戻ったドゥラコンが私室で上着を脱いでいる時、軽く扉を叩く音がした。


 この時間、ここに来る者は決まっている。


 むしろ、心のどこかでようやく来たかと思いながら、ドゥラコンは入室の許可を出す前に自ら扉を開けてやった。


「!」


 扉の前に立っていたツェリルは、突然開いた扉に驚いて目を丸くしている。


 子供っぽい表情に目を細め、ドゥラコンは身体を避けて中に誘ってやった。


「どうした?」


「あ、あのっ、お着替えを」


「……なるほど」


「え?」


 ドゥラコンの呟きにツェリルは首を傾げたが、わざわざ言い直してやるつもりはなかった。


 身体を重ねる以外で肌を見る方法を考えた結果、どうやら女官としてはごく当然な行動を思いついたらしい。


 ツェリルはそそくさと着替えを取りに行き、満面の笑みでドゥラコンの前に立つ。


 そして、いつでも脱いだ服を受け取れるように手を差し出してきた。


「……」


「あの?」


「やめた」


「え?」


「襲われてはかなわないからな」


「な、何を言うんですかっ!

 私が襲うわけないでしょう!」


 ツェリルは即座に否定してくるが、ドゥラコンは笑ってそのまま浴場へと向かうことにした。


 歩いていても、何だか口元が緩んでくる。


 こんなに楽しいのは久しぶりだ。


 ツェリルが怒るのがわかっているのにからかうのをやめないのも、素直なあの反応を見たいからだ。


(まるで、女を知らない頃に戻ったようだな)


 憎からず、いや、好意を持っている相手と話すだけでも楽しいなどと知ったのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。


 浴場に着いたドゥラコンは素早く服を脱ぎ、剣は持ったまま中へと入った。


 湯が掛からない場所に剣を置き、熱いそれに身を沈めて目を閉じる。


 ツェリルはそれからどうしただろうか……そんなことを考えていると、


「お背中をお流しします!」


 聞こえた声と共に開け放たれた分厚い仕切り布の向こうに現れた姿を見て、ドゥラコンは思わずぶっと噴き出してしまった。


 湯浴みをする時は一人でゆっくりしたい。


 そんなドゥラコンの宣言を知っている者は今まで誰一人として浴場に近づいてこなかったが、今の宮殿にはそんなドゥラコンの思いなど蹴散らしてしまうほど猪突猛進な者が一人いた。


「背中を流してくれるのか」


「はいっ」


 ツェリルは女官の衣装を膝まで捲り上げ、袖も紐で結んですっかり用意万端だ。


(策を練っている段階かと思ったんだが……)


 着替えを手伝うという作戦が失敗し、今度はもっと簡単で確実な方法として浴場に押し掛けてきたらしい。


 今度こそと自信たっぷりに輝く黒い瞳を見ているのは楽しいが、ここで簡単にツェリルの願いを叶えてやるのも面白くないと思った。


「それは助かるな」


 湯気が立ち込める中、もちろん湯につかったドゥラコンの身体はまだ見えないはずだ。


 ドゥラコンは軽く手を上げてツェリルを呼んだ。


「こちらに来い」


「はい」


 素直に返事をしたツェリルは、まったく警戒することなく近づいてくる。


 全裸のドゥラコンとは違い、自分はしっかりと服を着ていることに安心しているに違いない。


 大きな湯船に近づいてきたツェリルがすぐ側に膝をついたのを見てから、ドゥラコンはくるりと向きを変えてその面前に顔を近づけた。


「!」


 驚きに見開いた黒い瞳に自分の姿が映っている。


 瞳の色のせいで鮮明にわかる自分の顔がだらしなく緩んでいることに内心で苦笑し、ドゥラコンは手を伸ばして許可なくツェリルの鬘を取った。


「何をするんですかっ!」


 はらりと現れた黒い髪を、濡れた指先で撫でつけてやる。


 この姿を見たのは数えるほどしかないのに、なぜだかしっくり目に馴染んだ。


「いいだろう、ここには俺しかいない」


「それでも、勝手に取らないでください!」


 文句を言うものの、ツェリルは取られてしまった鬘を再び被ることなく、じっと見てから濡れない場所に置く。


 どうやら、このことで争う気はないようだ。

 

 ささいなことだか、こんなふうに気持ちの切り替えが早いツェリルをドゥラコンは本当に気に入っていた。


(嫌われてもおかしくはないんだがな)


 ツェリルの弱みに付け込んで強引に抱いてしまった時、可哀想に思いながらも、ツェリルの純潔を散らしたのが自分だということに興奮もした。


 そのせいか、初めてのツェリルにかなり無理を強いたと思う。


 その上、ナメルとネツという第三者にも成り行き上、行為を見せることになり、心に深く傷をつけてしまったはずだ。


 だが、ツェリルは逃げることなく、怯えることもなく、こうしてドゥラコンの側にいる。


 それが腰の痣を確かめるためという目的からであっても、ドゥラコンは諦めないでいてくれたツェリルの気持ちを嬉しく思っていた。


「あの、上がりませんか」


「どうして?」


「ど、どうしてって、そのままでは背中が洗えません」


「だったら、お前も一緒に湯の中に入ればいい」


「え……きゃあ!」


 思いつきで言ったことだが、それがとてもよい案だと思えたドゥラコンは、戸惑うツェリルの手を引いて一気に湯船の中に引き入れた。


 大きな水音とツェリルの悲鳴が浴場に響く。


 突然湯の中に落ちてしまったツェリルは、焦ったのか必死になってドゥラコンにしがみついてきた。


 服は濡れて肌に張りつき、身体の線が露わになっている。


 あまりに初心な反応や世間知らずな言動が多いツェリルは、どうも年よりも子供に見えがちだが、こうして身体を見ると瑞々しく咲きかけの魅力的な女にしか見えなかった。


 ちょうど良い胸の膨らみも、細い腰も、のびやかな足も、すべてが男の目を惹きつける。


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