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「興味がなさそうな顔をしていたくせに、私たちにはくちづけも許さない気ですね」
「こいつはそういう男だ」
「そうでしたねえ」
交わされる会話も、何だか遠くに聞こえてくる。
意識は霞み、このまま何も考えられなくなりそうだと思っていると、いきなり唇が解放された。
「はっ、はあ、はぁ……くふっ」
途端に噎せてしまったツェリルが力なく首を振るのに合わせ、耳元で低く響く声が唆すように囁いた。
「俺の肌が見たいんだろう?」
(は……だ?)
「そう思うんだったら、俺がその気になるように誘え」
(……誘う……)
これは、堕落の神の囁きだ。
頭のどこかでわかっているのに、混乱している状態のツェリルの中でそれは大きな目的になる。
(そう、よ、この男の、裸を見なくちゃ……っ)
「は……なして」
そう言っと、意外にも簡単にナメルとネツはツェリルの身体から手を離してくれた。
それを呆然と見下ろしたツェリルは、ふらふらと立ち上がり、寝台に座るドゥラコンを振り向いた。
余裕に満ちた、からかうような顔をしていると思っていたが、なぜか今まで見たことがないような真剣な眼差しでツェリルを見上げてきている。
その綺麗な深い森と同じ色の瞳を見ていると、不思議とツェリルの迷いはなくなった。
(色っぽく、よね)
周りに女性はヤッフェしかいなかった環境で、ツェリルは自分が女だという意識が希薄だった。
だから色っぽくと言っても、それがどういう仕草かはまったく想像ができない。
それでも、何とかツェリルは自分の身体を見下ろし、両手で肌着の裾を持つと胸のすぐ際まで捲って見せる。
「……」
膨らみが少しだけ覗いたのを確認してドゥラコンを見ると、口元に苦笑のようなものを浮かべていた。
「……あの」
「そこまでか?」
「……っ」
どうやら、ドゥラコンはツェリルがそれ以上できないと思っているらしい。
もちろん、恥ずかしさを考えたらこれ以上肌を見せることなんてしたくないが、馬鹿にされているのも我慢ならない。
ツェリルは覚悟を決めて肌着を脱いだが、すぐに側に落としていた長衣をとってそれで胸元を隠した。
だが、一連のその動きで茶髪の鬘が取れてしまい、あっと思う間もなく地のままの黒髪が露になる。
「黒髪なんて珍しいですね」
次の瞬間には背後から髪に触れられ、そのまま指先で項をくすぐられた。
「ひやっ?」
「声に色気がない」
驚いて上げた声に文句を言ったのは誰か。
薄い脚服越しに尻を撫でさすられ、ツェリルは必然的に前へと逃げてそのままドゥラコンの胸へと倒れ込んでしまった。
「積極的だな」
「ち、違うっ」
これはネツのせいだと文句を言おうとしたが、その口は呆気なくドゥラコンのそれに塞がれてしまい、そちらに意識を囚われていると、胸を隠していた長衣を横から剥がし取られる。
とっさに胸を隠そうとした片手を掴まれ、ぐるんと視界が回転したかと思うと、いつの間にか寝台の上に仰向けに倒され、真上からドゥラコンに見下ろされた。
抵抗する間もない流れるようなそのドゥラコンの動きに、ツェリルはただただ驚きに声も出ない。
敷布に腕を縫いつけるように押さえつけられている他は、ドゥラコンの手は肌のどこにも触れてはいなかった。
それなのに、ツェリルはじわじわと身体が熱くなり、僅かに震えてきた。
「もう、いいだろうっ」
ここまでしたのだ。
ツェリルは羞恥を誤魔化すように、今度はドゥラコンの番だと迫る。
同等にするなら、せめて上半身は脱いで欲しい。
それなら、目的は達せられる……だが。
「まだ、身体を重ねたいとは思わんな」
「え……あぅっ」
言葉の意味を問い返す前に、頭を下ろしたドゥラコンがいきなり乳首を口に含んだ。
衝撃と、痛みと、恥ずかしさに混乱するツェリルの気持ちなどいっさい構わないよう、巧みに動く舌が乳首を弄る。
そんな場所に刺激など感じたことがないツェリルは、上がる声を抑えることができなかった。
「ひっ、やっ、やだっ、やめろつ」
足をばたつかせ、自由になる片手で伸し掛かる肩を押し返すが、ドゥラコンはまるでその動きを叱るかのように刺激に尖ってきた乳首に歯を立ててきた。
「やあっ」
このまま噛みちぎられてしまうのではないかという恐怖に涙が溢れ、視界はたちまち濡れて曇る。
すると、目じりにそっとくちづけが落とされた。
ぼんやりと見えるのは、綺麗な金髪だ。
慰めてくれているのだと思うと少しだけ気持ちが動いたが、次のナメルの言葉にツェリルは息をのんだ。
「これくらいで泣いていては、ヤッフェさまの後継になどなれませんよ」
「ヤッフェ、さま?」
「聖女ならば、もっと意思を強く持たなくては。
あなたがここまでするのは何のためですか?」
それは、ドゥラコンの肌を見るため、いや、次期皇帝を見つけるためだ。
あがる息を必死で整えながら、ツェリルは奥歯を噛みしめて高まる感情を堪える。
バラッハ帝国のため、そして、自分の力を信じてくれたヤッフェのため、自分が見た神託をきちんと確認するまで、泣いている場合ではない。
考え方を変えれば女の身体だったからこそ、ドゥラコンはあんな提案をしてきたのだ。
もしも男だったら、ドゥラコンは譲歩もせずに自身の皇太子としての可能性を否定していたかもしれない。
これは、神が与えてくれた好機だ。
(女だから、できること)
ツェリルは、手を伸ばしてドゥラコンの背中を抱きしめた。
その瞬間、手の下のしなやかな背中がぴくんと動くのがわかる。
同時に、しっこく弄られていた乳首から舌が離れた。
それだけではなく、密着した状態だった身体ごとドゥラコンが引こうとする気配を悟り、ツェリルは逃がさないようにさらに回した手に力を込めた。




