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「ドゥ、ドゥラコンさま?」
さすがに他の人間の目がある中で強い口調で文句も言えないでいると、ドゥラコンはちらりと意味深な眼差しを向けてくる。
「いつもの態度はどうした?」
「え?」
「この二人にはもう、すべて話してある」
「話してしまわれたんですかっ?」
「こいつらにも関係があることだからな」
自分の口からきちんと頼もうと思っていたツェリルは、ドゥラコンが勝手にそこまでしてしまったことに一瞬戸惑つた。
だが、知られてしまったからには誤魔化してもしかたがないと、動揺しながらも気持ちを切り替える。
そして、ドゥラコンに腕を掴まれた状態のまま、ツェリルはその場で頭を下げた。
「ナメルさま、ネツさま、どうかお願い致します」
「私たちの身体が見たいそうですね」
「はい。
その腰にバラッハ帝国の紋章があるかどうか、確認をさせてください」
すると、なぜか腕を掴んでいたドゥラコンの手が離れ、代わって顎をとられて上向きにされてしまった。
頭を下げた体勢での目線は椅子に座っているドゥラコンとほぼ同じだ。
何を考えているのだろう。
困惑した思いのままその瞳を見返していると、悪だくみを考えているかのように意地悪く細められた。
「前に俺が言ったこと、覚えているか?」
「え?」
「俺がお前に身体を見せない理由だ」
『聖女のお前は知らないかもしれないが、男は身も心も重ねる女にしか肌を見せないものだ。
残念ながら、お前は違うだろう?』
もちろん覚えている。
当たり前のように言われても、そういった行為を考えたこともしたこともないツェリルにとってはただの誤魔化しにしか思えなかった。
もちろん、愛する者同士が肌を近ねるという行為は理解する。
しかし、今回は次期皇帝を見つけるという大きな大義があってのことで、皇太子なら協力してくれてもいいのにと理不尽にさえ感じた。
だいたい、噂では女遊びの激しい男だと聞くし、少しくらい背中から腰を見せてくれてもいいのではないかと今でも思っているくらいだ。
ツェリルの表情を観察するように見ていたドゥラコンは、不意に顎をとっていた手を離した。
すぐに体勢を整えたツェリルに対し、ドゥラコンは何を思ったのかいきなりツェリルの服の裾を持ち上げる。
「!」
働きやすいように衣装の下には膝まである薄い脚服を穿いているので肌を見られたわけではないが、こんなふうに捲られるとは思ってもいなくて一瞬身体が硬直してしまった。
しかし、すぐにその失礼なドゥラコンの手を振り払い、ツェリルは距離をとって最大限の警戒をする。
その様子に、なぜかドゥラコンは笑いながら言った。
「お前も、他人に肌を見られたくないだろう?」
「わ、私とあなたでは立場が違うっ」
いったい何を言おうとしているのか、ツェリルはドゥラコンを睨みつけながら叫んだ。
だが、そんなツェリルの態度にもドゥラコンは落ち着いている。
いや、彼だけではない、ナメルも、ネツも、ドゥラコンの暴挙を止める様子は微塵も見せず、むしろこの先の展開を楽しんでいる空気さえ感じた。
「お前だけが俺の身体を見るのは不公平だ。
だったらツェリル、お前も俺の前でその服を脱いでみせろ」
「え……ええっ?」
神にすべてを棒げ、自分では女という性さえ超越していると自覚があったツェリルだが、さすがにドゥラコンのこの言葉には言葉がなかった。
これが仮に、神職を共にした神宮たちに言われたら……それだって、意味もなく裸身になるなんて絶対に嫌だ。
男と女の身体の違い、そして裸身を見せることが一般的でないことは世間知らずのツェリルも十分承知していた。
いくら皇太子といえど、ツェリルにとってドゥラコンはまだお互いを知って間もない間柄で、無条件に信頼するほど親しいわけではない。
そんな相手に、どうして無防備な姿を見せられるのか。
無意識のうちに自分の身体を抱きしめるツェリルを見ながら、ドゥラコンは大げさなほど大きな溜め息をついた。
「見返りもなく自分の要求を相手にのませようなんて、誰が考えても無理だとは思わないか?
俺の条件がのめないのなら今後一切、俺の前で痣のことも、次期皇帝の話もするな」
「そ、それは……っ」
「ん?」
「わ、私は、そのために宮殿に来たのだっ。
このままむざむざと引き下がり、神の示した次期皇帝を指名することができなくなるなんて、絶対に嫌だ!」
「……俺も、ただで服を脱ぎたくない」
「……っ」
「どうする?」
これは、もしかしてツェリルの覚悟を試しているのだろうか?




