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「え?
お三人が、ですか?」
ドゥラコンの夕食の支度をしようとしたツェリルは、料理番から言われた言葉に思わず足を止めてしまった。
どういう意図かは知らないが、日中はツェリルの口撃から逃れるために宮殿を不在にするくせに、ドゥラコンは必ず夕食の時間には戻ってくる。
ツェリルと顔を合わせれば必ず、脱ぐ、脱がないの話になるのに、その律義さを少し不気味にも思っていた。
それでも、今日こそは絶対に言質をとってやると意気込んでいたのだが、料理番が言うには今夜の夕食にはナメルとネツが同席するという。
(いったい、どうして……)
ナメルとネツとの強烈な出会いの日から、ツェリルは当然のように二人を警戒し、いつでも反撃できるように覚悟を決めていた。
だが、不思議と宮殿内で二人に会うことはなかったのだ。
考えれば、ナメルは大司教なので神殿が行動圏、ネツも親衛隊長として忙しく仕事をしているはずで、そう簡単にかち合うことはないのかもしれない。
そう思うと、本当にあの初対面の日は最悪の日だったとしか思えなかった。
そんな中でどうして改めて二人が来るのかと思ったが、見方を変えれば絶好の機会かもしれないと重いなおした。
三人別々に腰の痣を確認させてもらうよりも、揃っている時に現状を訴えればドゥラコンの気も変わるかもしれない。
(彼が頷かなくてもあとの二人に確認させてもらえれば、必然的に痣の主がわかるわ)
ヤッフェには期限を告げられていないものの、初めての聖女としての仕事は一刻も早く、きちんとやり遂げたい。
改めて自分のしなければならないことを自覚したツェリルは、夕食の食卓に着いた三人に落ち着いて対応できた。
「どうぞ」
「お世話を掛けます」
「よろしく頼む」
他の給仕もいる中、客人である二人は紳士的にツェリルにまで挨拶をしてくる。
もちろん、そこで胸や尻に触られることもない。
(こうしてみると、本当に立派な方々に見えるのに)
もしかしたらあの日のことは夢ではなかったのかと思えるほどだ。
「……」
食事中は穏やかに時間が過ぎた。
上流階級の三人はさすがに礼儀作法も完璧で、男らしく豪快に食べながらも優雅な仕草には感心した。
会話は、先日まで旅に出ていたナメルの話が主だった。
聖女であるツェリルにとっても興味深い教義上の話もあったが、何とか我慢して給仕を続ける。
何事もなく食事の最後の果物を出した時、それまでほとんど話していなかったドゥラコンが言った。
「ツェリル」
「え、あ、はい」
まさか名を呼ばれるとは思わなかったツェリルは、驚いて動きを止める。
「この後、俺の部屋で飲むことにする。
酒の用意をしてくれ」
「皆さんで、ですか?」
「ああ」
「わかりました」
(もしかしたら)
ツェリルの胸がざわめいた。
もしかしたらドゥラコンは、今夜こそツェリルの願いを聞いてくれる気になったのではないか。
だからこそ、わざわざナメルとネツも呼んでくれた。
期待してはいけないと思いながら、それでも高揚する気持ちは止められなくて、ツェリルは料理番に頼んで美味しそうなつまみも作ってもらい、足早にドゥラコンの私室に向かった。
「ドゥラコンさま」
扉を叩いて開けようとすると、それは中から開かれた。
開けてくれたのはナメルだ。
「いらっしゃい」
「あ、りがとう、ございます」
にこやかに笑っている相手に戸惑いながらも礼を言い、ツェリルは部屋の中央にある卓に酒とつまみが乗った盆を置く。
部屋の主であるドゥラコンは椅子に座って足を組んでおり、ネツは大きく開け放っている窓の側に立っていた。
「注いでもらえますか?」
「は、はい」
ナメルが持った杯に酒を注ぎ、残り二つの杯にも同じように注いだ。
それをまずは目の前のドゥラコンに渡し、続いてネツに渡そうと振り向きかけた時に突然腕を掴まれた。




